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新駅

高校卒業後、都内の会社に就職し、電車通勤にも慣れてきた頃。
路線に新しい駅が出来るという話を聞いた。
確かにそこは他の駅と比べて間隔が長く、A駅とB駅どちらを使うにしても不便な場所だった。
電車から見えるその場所は、広々とした草地が広がる空き地で、民家もまばら。
新駅の建設によってもたらされる開発の波は、大きな利益をもたらすであろうことは素人の私にも簡単に想像がついた。

「あそこ、A駅とB駅の間に新しい駅が出来るみたいだよ」
なんの集まりだったか忘れたが、話のついでに私がそう言った時、一緒にいた知人の幾人かが妙な顔をした。
「何、どうかした?」
水を向けると、一番年上のUさんが話してくれた。
「あの場所はさ……あんまり良くないって昔から言われているんだよ。なんでも、働かせていた牛や馬が死んだら埋める土地だったって。他の場所に比べて、あの辺りって家とか建ってないだろ? もともと人が住んじゃいけない土地なんだ」
それで線路周辺に人が住んでる気配がないのか。
あれだけの土地を遊ばせている理由が分からなかった私は、その話を聞いて納得した。
やがて、草地に重機が入り、本格的に新駅の建設が始まった。
「あんな所、掘り返したら動物の骨がゴロゴロ出てくるぞ」
「あんな土地に家なんか建てたら、何が起こるか分からないぞ」
私の周辺でそんな言葉が飛び交った。
工事は順調に進み、同時に駅前になるであろう場所にも次々と店舗や民家、アパートが建ち始めた。
それを電車の中から眺め、仕事へ向かう。
大きな事故があったとのニュースもなく、新駅は問題なく竣工した。
駅前も草地だった頃からは想像もできないほど、綺麗で大きく開発された。
新駅を待ち望んでいた人々は、便利になったと嬉しそうに言葉を交わしている。
それでも、私の周りでは「縁起の悪い土地に」「あんな所に住んで」という声が変わらず聞こえていた。

既に駅が出来上がってから何年も経っている。
私も何度か利用したことがある。
特に何があったとかいう話も聞かない。
心霊・オカルト的な問題があったとも聞かない。
駅周辺の住宅地に引っ越してきた人達にしてみれば、自分達の住んでいる土地にそんな暗い謂れがあるなんて寝耳に水だろう。
知らなければ気にしようがない。
そしてきっと……もう、そんな「時代」ではないのだ。

車窓から通り過ぎていく駅のホームを眺め、私は知人達の顔を思い出していた。

「きっと何かある」
「悪い事が起こるに違いない」
「あの場所は忌まわしいんだから」
「何があってもおかしくない」

そう私の耳に吹き込んだ知人達の顔は、仄暗い期待に満ちていたように感じる。

「そうあって欲しい」
「そうだったら面白い」

人の持つ黒い喜びを知ってしまった私は、電車の中で重いため息を落とした。