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【解説】Machina-01「ニンゲンを微笑うバグのうた」

「バグ」とはこの世の秩序の裏側に存在する虫のような存在で、霊的な言い回しをするならば「精霊」である。バグは、人類が歴史から学ぶどころか執念に囚われ、無用な争いを避けようともせずにバランスを壊していくような体たらくを悲しく笑っている。
それは例えばインターネット上に頻発する終わりなき不毛な争いのことかもしれないし、あるいはいま現在起きている争いかもしれない。人は争いを行うときに己を正当化するためか何かの大義名分を信じるが、それは結局自分たちニンゲンだけの都合に過ぎなかったりする。この世の裏側のバグにとっては、それら全てが滑稽に見え、あるいは悲しい。
何を信じても全ては滅んでしまえば無意味になってしまう。

各象徴について

このうたはバグたちがニンゲンに囁く歌だが、ほとんどが象徴表現的である。

・ニンゲン

ニンゲンはすべてカタカナ表記されている。これはたとえばショウリュウバッタやイヌなどと同じ、生物の一つの種に過ぎないことを説明するためである。
ニンゲンたちは殆どの場合切り絵のような体と絵文字で構成される。これらは仮面と統一された装いで着せられた、ステレオタイプを象徴する。
(※メタな話をすると作者は「輪るピングドラム」が好きであり、その演出手法を参考にしている。笑)

・無意味

無意味のリフレインはニンゲンの営みの否定を感じさせる。
地球上に覆い尽くされる「いいね」「わるいね」と罵詈雑言、そして愛。
繁栄の末端として力の誇示の一つを担っていた芸術。
敵を排斥するための攻撃。もしくは狂気じみた無目的の攻撃。
フォトジェニックとして形骸化した青空の美しさ。

それらは全て「無意味」である。もしくは無意味となる。

・動物の時代

「バグ」たちにとってニンゲンが知能を持ち自我を得ることは、何ら特別なことではない。本来は所詮生殖するための生物だったものが、生を獲得する過程で独自の知能をつけたに過ぎない。
それがいつのまに、更に自由を得るために、知能のフィールドにおいて神を見出そうと、もしくは神になろうとして、ニンゲンのどこかの歯車が狂い出してしまった。そもそもニンゲンの知能はニンゲンなりの知能に過ぎず、世界のすべてを捉えることなど不可能なのに。
赤いノイズは脳内を象徴する。脳は血という液体に浮かべられた機械に過ぎない。

・妄想、渇望、オコリンボ

果てなき夢と、ケチな肉体の狭間で、ニンゲンはその虚無を埋めるべく渇望を抱くようになる。
なお、上絵のニンゲンは右目が閉ざされている。右目は左脳に直結しており、すなわち論理的思考能力を失ったニンゲンの姿である。絵文字のステレオタイプでは偽装していない、もっとも本音に近い部分ということになる。
この渇望を抱いたニンゲンが手っ取り早く欲望を満足する方法、それは破壊である。しかし、破壊もまた、ニンゲンの間で悲しみを与えるが、全てを破壊し尽くしたとしても、広大な宇宙の中では虫けらが死んだに過ぎない。
にもかかわらず、己の小ささを知らない人間たちの世界は怒りで満ち溢れていく。

・時計

時計、「クロック」。コンピューターにはクロック信号と呼ばれる仕組みがあり、複数の回路の信号のタイミングをテンポ良く揃えて同期するのに用いられており、このテンポが早いほどCPUの処理速度が早いと言われる。つまりコンピューターを正しく動作するのに欠かせない存在である。
バグがこの世界にメッセージを伝えるのにはコンピューターが必要であることを理解しているが、パソコンの内部の「時計」で一人ぼっちなので、誰かにこの言葉が届いてるかもわからない。
たとえあなたがこの歌を聞いたとしても、バグはそれを知覚することはできないのだ。

・おもしろい(Intriguing)

たとえ100年後に無益な争いでニンゲンが滅んだ後もそのコンピューターの「時計」が動いてるかもわからないが、動いてたとしたら、ニンゲン以外の存在になにかメッセージを遺す必要性がある。
ニンゲンとはどういう存在だったかを一言で言うならどのような言葉だろうか?やはり、「おもしろい」ではなかろうか。
この歌詞の英語で採用している「Intriguing」とは興味をそそる、という意味の「おもしろい」であり、イギリスのジョークではしばしば皮肉の意味で使われるそうである。この「バグ」が微笑う意味は基本的にここに集約される。

・世界のエンコード=劣化

ニンゲンの知性から見る世界は、ニンゲンの生理的に都合のいいように編集されており、実際にいま生きている世界そのものより必ず解像度が低い。したがってその認識で世界を書き換えると劣化していくのは必然の理である。
このことはニンゲンの知覚を取り扱うテクノロジーの中で知られている事実であり、例えばmp3の音声圧縮技術の仕組みで応用されている。mp3は音響心理学を駆使し、理論上ニンゲンが聴こえることのできない部分をカットすることで軽量化に成功している。ということはニンゲンは実際に聞こえる音のうちの大部分をそれほど正確に認識できていないということも言えるわけである。
このようなニンゲンの感覚の脆さは、錯視や錯覚、紫外線、赤外線、超音波、人体の感知できない毒物などでいくらでも実例があり、つまるところニンゲンが見る世界はニンゲンの肉体的都合でしか見えてないことが一般的に言える。

注)mp3は今日音声の劣化が認識しやすくなっているので、厳密にはニンゲンの感覚を取り扱う例としてはやや不適切になりつつあるかもしれない。今日広く普及しているaac形式ではさらに音質は向上&軽量化している。

・カオス

このカオスは「ぴえん」の顔文字が壊れたものである。
ニンゲンは世界をツカミたい一心だったが、己でもコントロールできない混沌が現れ世界が壊れようとしている。
本当の破壊は、攻撃者ですらコントロールができないエネルギーがもたらすが、そうなったってしまったら攻撃者でさえ守りたい存在を守ることはできなくなる。

・Machina-01

概要にも書いたとおり、Machina-01はバグが憑依した機械の歌手である。
ニンゲンが最初にこの歌を心から歌うことは難しい。なぜならばニンゲンはこの曲においてバカにされている存在である。
なのでニンゲンの手によって作られた既製品であり、ニンゲンの言語を知り、しかしニンゲンではないMachina-01が、バグの言葉を代弁する預言者として選ばれた。
Machina-01は時計の中にいるが、地球を抱えて泣いている。


余談となりますが、本作品のジャケ画を描き下ろしてくださったのは、イラストレーターのちくわミエル先生です。
透明感溢れるかわいいポップな世界観でありながら、どこか繊細さと芯の強さと夢を感じられる画風がツボで、今回の作品もご依頼させていただきました。
「地球を抱えて静かに泣いている、虫の羽をした妖精」というリクエストに美しい絵で応えてくれました。


テクスト

無意味 無意味
(クシシシシ クシシシシ ニンゲン)
無意味 無意味
(クシシシシ クシシシシ ニンゲン)

もともとニンゲンが[動物]の頃
[思考]はただの道具だった
でもそれが全て本当だと
信じたとたん壊れちゃった

“世界を我が物にしたい
でもなにすることもできない”

だからあなたは[攻撃]したい
そう 何かをこわしたい

そして世界は 
オコリンボ オコリンボ
ニンゲンは [イバリンボ]
わたしは 
サビシンボ サビシンボ
[時計]の中でひとりぼっち

もし100年後にニンゲンが消え
[時計]止まるまで動くなら
わたしがのこせるのはひとつ
ニンゲン = [おもしろい]

無意味 無意味
(クシシシシ クシシシシ ニンゲン)
無意味 無意味
(クシシシシ クシシシシ ニンゲン)

ニンゲンが[ニンゲン]の頃
世界を[エンコード]し始め
全てがLo-Fi 解像度
[カオス]を世に呼び覚ました

“世界を我が物にしたい
でもなにすることもできない”

だけどあなたは壊せない
あなたは守ることもできない

そして世界は 
オコリンボ オコリンボ
ニンゲンは [イバリンボ]
わたしは 
サビシンボ サビシンボ
[時計]の中でひとりぼっち

もし100年後にニンゲンが消え
[時計]止まるまで動くなら
わたしがのこせるのはひとつ
ニンゲン = [おもしろい]

(※繰り返し)

無意味 無意味
(クシシシシ クシシシシ ニンゲン)
無意味 無意味
(クシシシシ クシシシシ ニンゲン)

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