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とても真摯なホラーである − 「ヘレディタリー/継承」感想

アリ・アスターという新人の映画監督に最近興味がある。「ミッドソマー」という最新作の、およそホラーとは思えぬ強烈に爽やかな外観と香ってくる禍々しい雰囲気に魅せられ、彼の前作でありデビュー作のこのヘレディタリーを見始めた。
・・・異常な映画であった。洗練されたド変態って感じ。美術から脚本まで細部にわたり作り込まれており、観るもの考えるものを寸分の隙なく異次元の感覚に投げ落とす迫力がある。
ホラー映画というとしばしば瞬発的な即興的な脅かしでぐわっと攻めてくる感じをイメージされる方もいるかと思うが、この映画はなんというか理詰めでジワジワ追い詰めていくという、もはやそんなものを作れる作家が怖いと思える映画だ。
コリン・ステットソンによる音楽も非常に挑戦的で、例えば「Brother & Sister」という曲では耳鳴りのようなウォンウォンウォンウォンと揺れる音が非常に印象的だ。というかトラウマだ。リアルに耳に残る。

この不気味なBGMは怪しげなオカルトな行為の他、家族の何気ない静かな会話にも使われる。何故か?

ここからが本題だが、実はこの映画は「悪魔や幽霊が怖い」というよりも、「家族が怖い」映画である。歪んだ依存関係を持つ家族ドラマがこの映画の一つの主題だ。ホラーである以上に悲しみを秘めたドラマなのだ。

アニー・グラハム(トニ・コレット)はミニチュア模型を作るアーティストだが、家族を次々と精神疾患で亡くしており、彼女自身も何か問題を抱えてる。そのことが起こした事件で息子ピーターと関係が悪い。そんなギスギスした家庭をアニーの夫スティーブが必死で気遣っている。
アニーの母エレンが亡くなったことからこの話は始まるのだが、アニーはどこか母に複雑な感情を抱いている。アニーの12歳の娘チャーリーはおばあちゃん子でアニーをそもそも母とちゃんと認識してない節がある。というかチャーリーの雰囲気全てが人間離れしすぎてめちゃめちゃ不気味である。

実際俳優は16歳のミリー・シャピロという方が演じていて、12歳の娘にしちゃ体型といい大人びたオーラといい色々違和感ありまくりなのも当然なわけだ。当然わざとそういう選出をしたのだろう。
このチャーリーがまあ色々と見るからにキーパーソンなわけですが、そこからは実際にご視聴下さい(笑)

とりあえず家族はリアルにギスギスしているし、みんながみんな爆発しそうなそんな関係の時に怪奇現象が侵入してくる、そんな映画である。キリスト教信者の言う「サタンの付け入る隙がある」という言い回しに近い視点を持った映画なのである。

この映画を撮ったアリ・アスターという監督の記事を読んだが、本当に真摯なお方であるとも思う。次の言葉を残している。

「悲惨な出来事が立て続けに起こると、自分は呪われてるのかもとか、悪意に満ちた陰謀があるんじゃないか、と疑いたくなりますよね。僕はそんな苦しみを描く映画をつくりたかった。」
「本作が公開された今年の夏、米国だけでなく欧州の人びとも、政治に同じような想いを抱いていました。不本意な状況でも自分には何もできないという無力感です。自分の人生は結局、自分のものではない、と。このような想いと折り合いをつけるのか、それとも抗うのか決めるのは自分自身なんです」

21世紀最恐のホラー映画『へレディタリー/継承』:アリ・アスター監督が明かす制作秘話」より

ホラーというのがいわば一つの信仰の叫びのような形として機能している、という視点は非常に新鮮なものであった。

幸せが虚構としか思えないからこそ恐怖の空間が現実逃避になりうる。

今はそういう時代ということなのかもしれない。

さて、そんな彼に興味を持って短編集などをGoogleで検索をかけたわけだが、マァ怖い家族ものが多いこと多いこと。
The Strange Things About The Johnson's」という短編映画が本当にどうかしていた。冒頭からいきなり衝撃的(性的)なシーンがあるので一応注意されたし。ある意味怖いけどホラーではない父と子の愛()の物語です。
アリアスターそのうちSFとかミュージカルとかやるとか言ってたけど大丈夫なのか、不安と興味が尽きない。

とりあえず彼の次回作であるミッドサマーの日本公開を心待ちにしている。太陽が嫌になる映画と言う前評判だけは聞いている・・・・。


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