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【物語詩】いつか見た夢

 これは とてもくたびれた三日月の夜
 じわじわと指先から泥に浸かるように
 迷い込んだ 沼のような夢の世界の話


 見たことが有るような無いような
 冒険RPGに出てくる森の中で
 村人Aのような私は迷子だった

 モンスターがいないか心配した矢先
 スッと現れた怪物が何かを矢のように放つ
 とにかく逃げたい私は風のように飛び立つ

 ……あれっ? 私って鳥だったっけ?

 村人Aではない立ち位置の謎は深まるも
 自由自在な飛び心地は開放感があって
 森の遥か彼方まで地図を開拓し続けた


 世界は青くて広くて大きくて
 けれどもマーブル状に冷たくて
 私は温かそうな草原に降り立った

 何も大事な用事なんてない
 この世界に使命なんてない
 私は何かをしなければいけないの?

 ……誰かに指示を仰ぐしかないの?

 不安になった矢先 足元に銀色の矢文
「ここ掘れワンワン さっきの怪物より」
 なんとモンスター 私にリモート指示


 スコップを探して途方に暮れたのも束の間
 鳥の翼になっていた手が 今度は
 モグラの腕のように使えることが発覚

 せっせと土を掻き進む私
 なんだか先程とは違って気分まで沈みそう
 そもそも何故 掘るんだろう?

 見えない未来に涙が滲みそうになった刹那
 モグラの右手が涙のような生温さに当たって
 激流の水しぶきで弾き出される

 見事に温泉を当ててくれたね
 のぼせていた私にモンスターが言った
 私の掘った穴にはたくさんの怪物が浸かって


 あれっ? これでいいのかなっ?

 穴にも腑にも落ちない心地で
 モヤモヤ立ち竦んでいながらも
 朝の気配も靄々もやもや近づいていて

 そうして 目覚めた いつかの日


 この夢は吉かまが
 わからないけれど わからないまま
 鳥のように モグラのように 進みたい


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