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【物語詩】最強のカメレオン

 俺は「カメレオン」
 これは皆に付けられたニックネーム

 昔っから変装するのは得意だった
 小学校の劇で犬を演じたのが最初
 猿マネしかできないキジ役には嫉妬され
 桃太郎に頼もしいお供だったと褒められた

 それからはずっと技を磨いてきた
 別の「何か」に変身したくて

 マッチョな格闘家になりたくて
 体をムッキムキにして山中の道場へ赴き
 熊のごとき道場主と死闘をしたことがある

 風邪1つ引かない健康な体だったけれど
 病人になってみたくてガリガリに痩せ
 ガイコツみたいだねと言われたこともある


 自分より小柄な男以外ならどんな人にも
 声だけでよいなら多少の女の振りも

 いつしかカメレオンとしての皮膚の色は
 虹のように脈打ち輝いていった


 いつかハリウッドに行きたいなと
 チンピラに成りすましていた俺は
 喧嘩を買ってしまい 人を殺めてしまった

 俺は本物じゃないって
 なんで気づかねぇんだ馬鹿野郎と
 捨て台詞を吐きながら逃亡犯へと変身

 慌てて ありったけの変装道具を持ち出し
 警察の手を するすると 擦り抜ける
 イタチごっこはしたことある 泥棒猫もね
 時には 犬のお巡りさんすら演じきった

 そうして新たな罪を重ねたのは
 いつか探偵に成りたかったからなんだ
 この真相を推理できた誰かが追って来て
 俺を信じて欲しいって思ったんだ


 そうして巡り 空き地になった元実家
 もう何十年も 俺は他の「誰か」のまま

 まだ見ぬ探偵をも騙してしまったらしい
 景色に溶けてしまうこの肌は
 老いて疲れてしまった俺は警察に出頭した

 変装用の皮を剝ぎ 心の中を俺だけにして
 包み隠さず事実を語り尽くした
 それなのに 誰もが 言うんだ
 俺は一体何者だと


 どんな個人情報も真実も
 彼らには誰か違う他人の物語

 永い取り調べの末 俺は急に悟った
 俺は変わることを望み過ぎて
 いつしか自らのDNAすら組み換えたのだ


 俺は警察署を出て 最後の役を演じ始める
 最期の力を使い 最強のカメレオンとして
 どこでもない何処かで
 他の誰でもない 誰かになるために




あえて明記しませんが、最近で取沙汰されていた指名手配犯について思ったことを作品に込めました。

そしたらこうなりました。伝われ。


ちなみに純正カメレオンです(笑)。こんな世界線もあったらいいな。


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