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作品解説(1)

私は、詩作を公開するにあたって「読み手の想像力を邪魔しないこと」を心がけてきました。そのため、各作品には解説文を設けておらず、解釈は読み手に委ねられています。 これまで私が名文だと感じた詩作の多くには、確固たる手触りがありました。筆者の心象風景は私の内部で再定義され、五感にアクセスし、想像力の赴くままに噛んでは味が出てきました。小説などとは異なり、詩という分野はスペースの都合上どうしても行間の妙が生まれます。その行間に個人的な体験をねじ込み、私事として昇華させる感覚はたまら

    • 想像

      私たちは知りすぎたのかもしれない 明日は雪が降りそうだねと 布団の中で心躍らせていた日々は パーセンテージによって影を潜めてしまった 私たちは知りすぎたのかもしれない 気になるあの子とお近付きになりたいと 手紙やら交換日記やらをしたためたほろ苦い青春は ソーシャルメディアによって影を潜めてしまった 私たちは知りすぎたのかもしれない 戦争反対、絶対反対と 惨禍の歴史に裏打ちされた確固たる信念は 時代や政治への転嫁によって影を潜めてしまった 私たちは何も分かっていないのかも

      • 夜想

        窓際に座って遠くを見つめながら あなたはよく昔語りをしましたね ちょっとくらい良いじゃないと軽口をききながら むしろ振り返ることを恐れているかのように 一文ずつ区切りながら切に語るその姿を 最後に見たのはいつだったでしょうか 不要とラベリングした思い出を頭の隅に追いやり 雑踏に紛れてコンクリートの道を歩き続け 今日明日を生き抜くことばかり考えてきました それでも見慣れたスカートの華やかな柄が エスカレータに運ばれひらめく様を捉えるたび あなたという感情が波打ち際に押し寄せま

        • 郷愁

          白いワイシャツに身を包み 鮮やかな原色の広告群を横目に 透明な画面の向こうを覗き込む男は 果てしなく広がる空の青さを忘れた 無機質な灰色の壁に覆われ 時おり乳白色の煙を漂わせながら 過剰なほどに頭を垂れる紺スーツの男は 紅白帽を被り野を駆け回る幼少期を忘れた 空車と書かれた赤い表示板に手を振り 焦げ茶色の椅子にどっかりと腰掛け 扇情的に光る色とりどりのLEDを眺める男は 赤提灯の下で味わった一杯のラーメンを忘れた 「ただいま」が失われた黒の空間に 実際よりも重く感じる黒

          こころ

          見えないものを見ようとして 我々は太古の昔から探求を続けているが 想像力はやはり有から生まれるようで 無そのものに着目するまでに数世紀を要したらしい キリストが生まれるそのはるか昔から 愛とは何か? 徳とは、正義とは? などと 物事の本質を突き止めようとひとは試み 哲学などと名前がつけられ今に至っている ところが無を定義するまでに途方も無い年月を要し 過去の成果を鵜呑みにして弾圧までするのだから いかに我々が無という底知れぬ深淵に対して 本質を問うことから目を背け続けてき

          こころ

          まるで意思を持っているかのごとく 跳ねるように揺れるランドセルがふたつ 赤と黒の点がだんだんと遠ざかるにつれて わたしの周りを取り囲む透明さを自覚する 真心に住みついているとされるそれは むしろいつまでも消えない残り香のようで そこかしこの感情の隙間に入り込んでは 体の良い誘い文句を振りまいていく ひとは誰しもそれを身にまとっているし たくさんのそれらを絡め合いながら生きている けれどもそれの本当のすみかを覗いてみると 寂しさが大口を開けて待ち構えているばかり 怪物を透