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九月、出会い。

中央線に乗る。

吉祥寺で降りない日は久しぶりだった。

都心に近づいていく。

なにか衝動のようなものがほしくて、電車に乗る18歳。

都会の喧騒に飲み込まれていく。


名前を告げる。

「これに名前書いてもらって名札つけて参加してください」

見渡す限り、見知らぬ人である。


「ただいまより交流会はじめまーす」

「最初は全員で自己紹介するので円を作ってくださーい」

人は叫ぶと語尾を伸ばすんだな。

どうでもいいことを考えながら、
人と人の間に入る。


何の感情もない拍手を何度もして、
対角線上にいる人が話し始めた。

「好きだ」と思った。

何の感情もない拍手をしようとして
好意が溢れる音がした。

その人の名前だけ。覚えた。


「ここからは自由時間でーす」

本当は他の目的があったはずなのに、
あの瞬間からずっとその人を追い続けている。

距離を縮める。
お菓子を取りに行くふりをして。


「ハーイ」

声をかけたそのとき、

もう一度「好きだ」と思った。

話のネタが見つからず、
ありきたりな質問をしてしまった。

「なぜここに来たの?」

「アニメが好きで・・・」

「例えば?」

「デュラララってわかる?」

もう一回、「好きだ」と思った。

最高に話の合う相手であった。

「わかる!紀田正臣が好き!」

「臨也が好きなんだ」

「じゃあもう池袋には行った?」

「もちろん、最高だった」

「うちら仲良くなれそう」

「うん。連絡先交換する?」

「いいよ」

好意が声にのらないように、冷静を装う。


もう一度、「好きだ」と思った。


帰りの電車。

「今日は会えてよかったよ、ありがとう」

打ってみる。
消す。

「これからよろしくね」

打ってみる。
消す。

突然メッセージが現れる。
自然と既読がついてしまう。

「今日は会えてよかった、また会おうね」

電車と心が同時に揺れた。


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