八月と群青
終わりの始まりを静かに受け止めた。
「どこかの島に行ってみたい」
「うーんじゃあ江の島?」
「いいね」
美しい別れになることを祈った。
小田急線新宿駅で待ち合わせ。
君はわたしが好きな作品のTシャツを着て
スマートフォンをいじっていた。
どこをとってもわたし好みである。
「お待たせ~中央線遅れてた・・・」
「いいよ~早く行こ」
言ったそばから、改札で通せんぼされてしまう君。
"少し天然なところもだいすきだったよ"
駅に到着してすぐ、お昼ご飯を食べた。
ハンバーガーだったような気がする。
美味しそうに食べる君を毎週のように見てきた。
"来週も一緒にご飯を食べれる気がするのに"
特に計画もないから、
目の前にあるものを見て気になれば入ろうという話になった。
「アイスクリーム!」
「お~これ久しぶりに見た。地元にはよくあるけど関東にはないよね」
「そんな気がする。沖縄で見たかも、食べたことない」
「500円?払うよ」
「じゃあ一緒に食べる?」
「そうだね」
椅子に座って、氷菓を食べる。
どんな味だったのか、もう忘れている。
間接キスをした。それだけの記憶だ。
君が生きる世界では、そんなこと普通だったのだろう。
君の眼はもうわたしを見ていない。
"あと一回だけでいいから見てくれませんか"
エスカーに乗って、展望灯台にのぼる。
「高くない?」
「そう?」
「そうだよ」
手をつなぐ。ごく自然と。
「海すごいね~」
「なんか寂しいね・・・」
「降りよっか」
"この海を君は渡ってしまうの?この島にいてよ"
その後の記憶はあまりない。
お花畑をゆっくり歩いたような。
カフェでパンケーキを食べたような。
君は「大丈夫?」とわたしの体力を気にしていたような。
"君の優しさが嘘であってほしいぐらい、ずるいんだよ"
帰りの電車で寝てしまった。
君の肩にもたれかかって。
その間、君はなにを考えていたのだろう。
どんな表情で、なにを見ていたのだろう。
駅に着いた。
わたしはここで乗り換える。
「楽しかった、ありがとう」
「こちらこそ」
「プレゼントあげる、いつか読んでくれたら嬉しい」
「・・・ありがとう」
「空港はどこだっけ」
「成田。新宿からバスで行くんだ」
「じゃあ問題なさそうだね」
「うん、ありがとう」
お互いに黙ってしまう。
本当はわかっていた。
これで最後だ。
いつか会えると言っていたって、きっと会えない。
離れたらもう届かない。
"だから君に一つ伝えなくちゃ"
「あぁ泣かないで」
「ごめん・・・」
君はわたしの頭を撫で、いつものように抱きしめてくれた。
"最後までずるい人だ"
「着いたら写真送ってね」
「もちろん」
「本当にありがとう」
「本当にありがとう、元気で」
"ずっと前から好きでした"
君の後ろ姿は美しかった。
かばんの中のラムネの賞味期限は昨日だった。
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