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【 #いい会社帳 no.04】”エシカル”を追求するコーヒーの会社 illycaffè SpA(B Corp)

世界の“いい会社”のことを調べて紹介する「#いい会社帳」第4回はコーヒー関連事業を営むilly(イリー)を取り上げます。

「#いい会社帳」についてはこちら↓

illyはイタリアのコーヒー関連企業で、2021年3月にB Corp(※「いい会社」の認証。詳しくは上の記事を。)の仲間入りをしたばかりです。日本にもいくつかのカフェ店舗があり、スーパーなどでもillyのロゴを付したコーヒー豆が置かれていることがあるので、見覚えがある方もいるでしょう。

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組織概要

会社名 :illycaffè SpA(イッリカッフェ、日本では「イリー」と表記されることが多い)
創業  :1933年(イタリア)
製品  :コーヒー関連商品販売、カフェ営業、エスプレッソマシーンの製造・販売など
従業員数:1,405名(2019年時点)
販売拠点:269店舗(144カ国)
売上  :€520M

会社のなりたち
1933年にFrancesco Illyが世界でベストなコーヒーを提供したいとillycaffèを創業。1934年に鮮度と香りをキープしたままコーヒー豆を輸送・保存できるよう、加圧技術を使ったコーヒー豆缶を発明。1935年に初めてのモダンなエスプレッソマシンを作った。現在はIlly家の3代目が代表をつとめる。

【ミッション】
美や趣に通じたすべての人を、優れたテクノロジーとアートによって高められた、自然が生みだせるベストなコーヒーで楽しませること。

【ビジョン】
イリーは、卓越したコーヒーとコーヒー文化の世界標準になること、人々を楽しませるベストな商品と場所を提供する革新的なな会社であること、そしてそのことによってハイエンドコーヒーの分野でのリーダーになることを目指します。

【バリュー】
イリーは、EthicsとExcellenceによってクオリティ・オブ・ライフを改善することを目指す、ステークホルダーカンパニーです:Ethicsは、透明性、サステナビリティ、人の成長を通じた長期的なバリューの創造として。Excellenceは、品質と美、継続的な改善へのパッションとして。

※すべて筆者訳

B Corp認証取得:2021年3月
B Impact Score(※):80.6
(※)B Impact Assessment(社会や環境へのパフォーマンスを測るアセスメント)のスコア。認定B Corpになるためには80以上のスコアが必要。


Società Benefit

Società Benefit(アメリカでいうBenefit Corporation)は、2016年にイタリアで登場した新しい会社の形態です。Società Benefitは、利益と同時に社会・環境に対するポジティブなインパクトの追求にも重きを置きます。

Società Benefitになるためには、定款の目的条項において追求すべきベネフィットを含むよう改正を行わなくてはなりません。

illyは2019年にSocietà Benefitを採用しました。定款の目的には、共有価値の創造(経済面)、人の成長(社会面)、エコシステムの尊重(環境面)を追求していくことについて記しているといいます。


倫理規定

illyのウェブサイトで様々な資料をあたっているうちに、Code of ethics(倫理規定)がillyの事業運営における重要な考え方の根幹をなしていることに気がつきました。

倫理規定のはじめにはスローガン的に

act transparently(透明性をもって行動する)」

と書かれています。

illyで働くすべての人がこの倫理規定に則って行動すべきとしており、透明性をもって事業運営がされること、経済的・社会的・環境的なサステナビリティに特別の配慮を持つことが重要だと書かれています。

General principles(一般原則)には以下の項目が挙げられています。

・Impartiality(公平)
・Honesty(正直)
・Correct conduct in the event of potential conflicts of interest.(利害の対立が見込まれるような場面での正しい行い)
・ Privacy(プライバシー)
・The value of human resources(人材の価値)
・Personal integrity and dignity(誠実さと尊厳)
・Fair use of authority(権力の公正な使用)
・Entrepreneurship(アントレプレナーシップ)
・Product and service quality(製品とサービスの品質)
・Responsibility to the community(コミュニティに対する責任)
・ Protection of the environment(環境の保護)

また、その次にくるKey conduct criteriaには、より具体的な行動指針についても書かれています。

この倫理規定はillyの「アイデンティティ」をなす一つであるといいます。


illycaffèモデルと2030年ゴール

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上の図のようなillycaffè Modelを公開しており、2030年までのフォーカスポイント(一番右の「OUTCOME」)として以下の3つを挙げています。

▼責任あるバリューと、サステナブルな農業チェーン
これは、コーヒーサプライチェーン全体のインパクトの分析と改善、現地調査とナレッジ共有、サステナブルなコーヒー品質を守り改善するための農業支援によって実現されるといいます。

幸福とクオリティ・オブ・ライフ
これは、経済的・社会的・環境的サステナビリティの原則と、このゴールに適したグローバルパートナーシップを発展させていくことによって追求するといいます。

サーキュラーエコノミーと、地球に益するためのイノベーション
これは、サプライチェーン全体を通じて排出ガスを減らしていくために、エネルギー効率と資源消費の改善を行っていくことで実現しようとします。


今度は図の左側の「INPUT」に目を向けてみると、以下6つの有形・無形の資本がillyのバリューを作る素となるものだとしています。

・経済資本
・生産に関する資本
:商品の生産のための不動産やインフラ
・人的資本:従業員のスキルや専門知識、経験
・知的資本:illyの組織に関するナレッジなど
・関係的資本:外部ステークホルダーと関係を築き築き価値共有する力
・自然資本

この6つそれぞれにおいて改善を行っていくことで、右側の「OUTCOME」を生んでいくという考え方です。

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illyのSustainable Value Reportでは、これら6つそれぞれの資本について考え方や実績を記しています。量が膨大なので、ここではB Corpでも重視されている人的資本と自然資本についてかいつまんで紹介したいと思います。

人的資本

▼コモン・ベネフィット・ゴール(※1)
経済的、社会的・環境的サステナビリティの原則と文化、またそれらと切り離せない人間の幸福と環境保護を大事にする。

アウトカム(※2)
会社の成長とインクルーシブな環境の創造に対する従業員のアクティブな参加。コミュニケーションと共有、従業員の中心的役割と価値の促進を通じて会社のカルチャーを強化する。

(※1)定款において設定されているインパクト・ターゲット。会社のDNAであり、ビジネスの成長を促進し、すべての事業のオペレーションと根底でつながっている。
(※2)資本による実践や、ポリシー、行動を通じて作られるポジティブな価値

人的資本に関するレポートの中では、上記のような前置きを置いたうえで、様々なデータや取り組みついて公開しています。

・雇用形態別の男女比
・役職別男女の人数
・役職別の年齢層
・スタッフの入れ替わり率
・けが人の数と割合、健康と安全性に対する取り組み
・従業員へのトレーニング
など

人的資本に関する2019年レポートはこちら。

自然資本

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▼コモン・ベネフィット・ゴール
サステナビリティ、サーキュラーエコノミー、地球のベネフィットのための原則にそった指針に基づく製品やシステムを考える。
ガス排出の削減を目指した革新的なソリューションを考慮に入れ、エネルギー効率と資源消費を改善する。

アウトカム
エネルギー効率と自然資源の消費の改善からスタートして、環境インパクトを減らす。カーボンニュートラルの会社に寄与する。

エコシステムに対する直接的な影響を減らす「環境コミットメント」としては以下を掲げています。

・供給のすべてのレベルにおいて、サステナブルで責任ある実践を促進する
・お墨付きの環境マネジメントシステムを使う
・エネルギー効率、ウェイスト(ゴミ)・マネジメント、大気排出におけるパフォーマンスを毎年改善する
・生産プロセスにおいて、環境効率の良いイノベーションを導入する
・悪影響の少ない新しいパッケージモデルを発展させる
・コーヒー生豆の生産現場において経済的・環境的にサステナブルな農学実践を促進する

また、上記コミットメントのためにillyが活用する「環境マネジメントツール」としては以下のものがあるといいます。

【環境ポリシー】
会社の環境保護戦略を定義したドキュメント

【環境宣言】
ステークホルダーに対して、ポリシーや目標、どこまで達成してきているかを伝える年次の資料

【環境マネジメントシステム】
会社の拠点における消費と廃棄のマネジメントに関するデータの継続的なモニタリングと達成のためのシステム

【ライフサイクル・アセスメント】
生産プロセスにおける環境インパクトの計算。製品とプロセス改革に関するすべての意思決定に役立てる。

【ISO14001 環境マネジメントシステム認証】
会社のアクティビティによる環境インパクトをモニタリングするシステムで、継続的、効果的かつサステナブルな形で体系的に改善を行う

【EMAS III】
産業活動の環境効率を継続的に改善することを促進するツール。

【SEA Single Environmental Authorisation】
行政手続きを簡略化し、環境保護と手続きの官僚主義的な負担を減らすことの両方を満たすような法的枠組み。かつて大気排出、排水、騒音などの環境認証について別々に取得しなければならなかったものが一本化された。

【ISO 50001 エネルギーマネジメントシステム認証】
エネルギー効率に関する体系的枠組み

さらに、自然資本に関する2019年レポートでは、以下の項目に関して取り組みの紹介と、2019年・2018年の実績の開示を行っています。具体的な数字についてはここでは割愛するので、興味のある方は実際のレポートをご覧ください。

・原材料
・エネルギー・マネジメント
・水マネジメント
・バイオダイバーシティ
・大気排出
・ウェイスト(ゴミ)・マネジメント
・リサイクル可能製品とパッケージの処理


サステナビリティを実現するガバナンス

上述のようにillyは「いい会社」としての理想を、経済的・社会的・環境的な面でそれぞれもち、ゴールや事業運営に反映していますが、それをどのように実現しているのでしょうか。

一つは最初に書いたように、会社の形態としてSocietà Benefitを採用することで、会社の存在意義そのものに社会・環境へポジティブなインパクトを与えることへのコミットメントを組み込んでいます。

そして、「倫理規定」ではいかに行動すべきかが、「サステナビリティ・ポリシー」では2030年までのコミットメントが記されています。その他にも、コーヒー生豆の調達に関して、「サステナブル・プロキュアメント・プロセス(SPP)」という、第三者機関によるサプライチェーンのサステナブル基準を採用することで、サステナブルな調達について定義しています。

もう一つ特筆すべきは、役員会に二つの特別な役割が含まれていることです。

サステナビリティ委員会
サステナビリティの諸々を管理監督し、サステナビリティに関する予備調査や意思決定でもって役員会を支援する。独立のメンバーで構成される。

チーフ・エシカル・オフィサー
エシカルな手続きがきちんと行われ、継続的に遵守されるようにする。


まとめと所感

今回はとにかく資料が膨大にあり、それらの関係性を紐解いていくのが大変でした。

今回主に参照した資料
Who we are
history
Sustainable value report 2019
Code of ethics
Sustainability Policy
Sustainable value report - our identity
Sustainable value report - human capital
Sustainable value report - natural capital

あらゆることがドキュメント化されているという印象で、透明性をかなり重視していることがうかがえます。特にサステナブル・バリュー・レポートなどはどんなチームの誰が書いたのかとても気になります。。

資料はどれも文章による説明的なものが多く、その量のわりにデータや実績は少ないように思いました。ゴール/目標などに関しても、数字目標というよりは定性的なものなので、どのように振り返り実績評価するのか気になりました。「2033年までのカーボンニュートラル達成」というのは具体的な目標ですが、サステナブル・バリュー・レポートの自然資本に関する実績を見ても、2018年→2019年の変化はわかるものの目標に対しての進捗が分からないので、どのように判断したら良いのか迷うところではありました。実際内部では、数値目標にまでしっかり落ちているのでしょうか。

おそらく2018年2019年頃からデータを重視し始めていると思われ、今年B Corpの仲間入りを果たしたことからも、今後データの開示がさらに進んでいくのではないかと期待されます。すでにこれだけ情報開示に前向きで、課題などについても隠さないという姿勢からも、信頼性のある会社だと私は感じました。

今回情報が膨大だったことから、個別の事例よりも、根幹・前提の話がメインとなりました。「いい会社」を可能にする、法的な枠組み(Società Benefit)、社内やステークホルダーに向けたポリシードキュメント、組織体制、環境配慮型の事業運営をするための外部ツール・認証など、参考になる部分は多いのではないかと思います。

※全体的に日本語訳がおぼつかず読みづらいところがありごめんなさい!

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