JABA、一部大会試合のイニング数変更に伴う試案

イニングス制試合の特別規程(ルール)の制定について

遂にJABAが悲鳴を上げ始めた、という印象を受けた。
JABAが今年より一部大会のイニングが変更に動く向きとなった。
これより九回までしていた多くの大会が七回終了ということになる。
ほとんどがクラブ選手権予選や定例大会なので企業部への影響は弱いがクラブチームの影響はかなり大きいものになる。

今まで通り、とはいかなくなるだろう。

一方で人員の確保を必ず伴うクラブチームは今の時代に合っているかもしれない。試合時間の短縮は自由時間を延ばすきっかけになる。特に自由時間を大切にする今の若い人たちには一概に合っていないとも言えない。そうでなくとも先発投手は5イニングまで、という意識が根強くなり始めている現在、選手間にもそういう意識変動がきている。

とはいえ一部選手やファンからは批判を受けている。
九回までやって野球ではないか、など多くの賛否両論が寄せられている現状がある。
社会人野球含むアマチュア野球への影響は計り知れないだろう。そういう意味で意識の変更を余儀なくされる時代がきたのかもしれない。

1,とはいうものの社会人野球は虫の息

特に熊本ゴールデンラークスが火の国サラマンダーズへと変化したときに思ったものだ。
社会人野球部に今新興の野球部が参加する意義というものがあるのか。

私は過去、人と企業の関係性が希薄になっている現在、社会人の在り方は問われる立場になりつつある、とは言い続けてきた。会社に属する社員への娯楽提供といった福利厚生として社会人野球の企業部というのはあったわけだが、90年代熊谷組の撤退以降企業と社会人野球の関係が変わってきたのはいまさら指摘する事もないだろう。
そのために私は「社会人野球が企業にあるメリットはなにか」「社会人野球が地域にあるメリットはなにか」を問い続けることが今後の将来展望になっていくと言ってきた。
独立リーグが台頭してきた際、都市対抗野球に明日はあるか(ダイヤモンド社)で横尾弘一氏がすでに指摘していたにも関わらずそれに対するなんの対策もとらないまま現行に来てしまった。

その結果熊本ゴールデンラークスはJABAを脱退、九州リーグとしてプロリーグに変更してしまった、
最初こそ失敗の可能性もあったが三年目にして九州リーグはさらに拡大。ソフトバンクホークスとの二軍戦も企画するなど勢いを伸ばしている。

1949年にあれほど恐れたNPBの2リーグ制移行に伴う人員、チームの流出を二十一世紀になった今許してしまったのである。
社会人野球の在り方に問いを覚えている企業がこれに目を付けないとも思えない。現にNOLリーグは神奈川、千葉へと拡大路線を推し進めているし、BCリーグは完全に定着した。
ほぼ昔からいる野球部が威信だけでしがみついている現状に近い。

その中でコロナ禍に入り、都市対抗野球大会など大型大会への観客動員が減る。さらに本業の成績が悪化していったこともあって、あまり社会人野球に力を注がなくなっていっている企業も少なくない。
昭和が断末魔を上げようとしている現在、いまだに体制を変えられなかった社会人野球がついに悲鳴を上げるような状況になったといってもいい。

2,嵩む球場費

そしてもう一つJABAがこのように舵を切ったのには旧城代の費用があるだろう。
例えば私は神奈川の住人なので、保土谷球場を参考にすると、硬式球場の基本賃貸料が二時間7,220円。これ自体は大した値段ではないのだが、ナイター照明がつくとそれに最低でも9,660円が追加となる。それ以外の放送設備やスコアボード、本部として会議室なども借りるとなると、その時点で9時から借りたとして12,880円、それを四回借りたら5,1520円となる。そこからさらに12,880+9,660円がプラスで入ってくる。
一日の試合で5~10万円近くの金銭が発生するのである。

大きな大会や大きな資金源である企業部が出すとするのならばいいであろうが、どうしても金銭的余裕では企業部に負けてしまうクラブチームなどではナイター設備を使わなければならない状況はなんとしても避けたいのだ。
それをペイできる手段がない。

特にJABAは企業部重視の風潮を打ち出そうとしているのが丸わかりで、企業部選手のカード作成などはその最たる例ともいえるだろう。
そのため企業部との関係を今まで以上に密接にしていく一方、ドル箱になりえないクラブチームを冷遇とまではいわなくとも優遇する気はさらさらないという状況まで来ている。
過去西部ドームまで使っていたクラブチーム選手権が良球場とはいえ地方の球場感のぬぐえない等々力球場に変わったのは言うまでもないだろう。社会人野球ファンには好評だがその姿を知らない人々から聞けば
「プロ開催球場からのランクダウン」
という印象を避けられないだろう。ファンと一般人にはそれだあけ支店のギャップがある。

しかしこれも資金に余裕のある昔であればなかっただろう。等々力や大田に回すことはあっても決勝だけは西武ドームで、といった変更はあっても捨てることはなかっただろう。体裁やメンツというのはやはり重要なのだ。

それを失ったところにJABAの経営基盤が弱体化しつつあることが読み取れる。
それほどコロナ禍の影響が強く、もはや今まで通りのほほんとした社会人野球から変質を求められてきていることに他ならない。

3,噴出する選手たちの不満

こうなってくるとやはり不満は出てきてしまうというか、多くの社会人野球ファンは反対の立場をとっている。
特に企業部から一つ入り込んだ社会人野球ファンはクラブチームも一緒に見る傾向があるため、今回の変更に違和感を覚えているファンも多い。一般人にとっては些細な変更なのだがファンにとっては批判が起きるほどの大きな変更である。

特にやる気のある選手でもイニング数がそのまま活躍する機会の変更になってしまう投手には大きな批判として出ている。
特に投手にとってはイニング数がそのまま登板機会に影響してしまうため、現代的な野球観を持つ今どきの投手は2イニング削られることは投手2人の機会を奪うことに連なる。
このような状況では投手を中心にクラブチーム離れが起きてしまう可能性が無きにしも非ずといった状態になる。

火の国サラマンダーズが興ってしまった今、社会人野球にどれだけ残るかを考えるチームも出てくるであろうからクラブチームの存在感は増してくるだろう。
しかし、現行のままでクラブチーム離れを起こされてしまうと、今度は大きな中身となってくるクラブチームも人がいないという状況になってしまいかねない。
結果それはJABA衰退を助けることになってしまう。
だからこそそれを何としてでも変えていかなければならない。

4,代案

現状のままではどちらにも首が回らない状況であるのは間違いないだろう。
選手を立たせれば経営が立たず、経営を立てれば支える選手が立たず。このような負のスパイラルに陥っていくことが容易に想像できる。

ではどうすればいいか。
あくまで一例として代案を提示したい。

それは七回にする一方で、打撃専任、守備専任のいわゆるアメリカンフットボール形式にしてみることである。
守備側と打撃側の選手を分け、打撃の際は打撃に登録した選手が出て、守備登録した選手だけが守る、という形式だ。
もちろんコンパージブル対応をして打撃守備両方出られる選手を出すことは問題ない。ただ、打撃に専念したい選手や守備に専念できる選手を図ることでチームに在籍している選手出場の拡張を行うことができる。

また、守備側には投手登録している選手を守備に起用し、投手兼任外野手として活動させるのもいい。
現在注目されている二刀流などにおいて一番選手のネックとなっているのは打撃や走塁といった攻撃の面だろう。しかし、守備だけであれば投手以外の練習に幅ができる範囲に落ち着くであろう。負担は増えることは仕方ないが妥協案としてはいいところに落ち着くのではなかろうか。
また、七回ゆえに高校野球的な投手、外野のチェンジ連携や独自継投など多すぎたり少なすぎたりといった人数が安定しないクラブチーム故の対応が可能であると思うのだ。

確かに特殊ではあるのだが、もともとカートライトルールから大きな変更を伴って現在に落ち着いたのが野球である。もともと日本でもボール鬼ごっこと呼ばれていたのだ。
そういう変化を伴った独自の路線を攻めていっていいのではないかと思う。

5,まとめにかえて~岐路に立たされた社会人野球~

過去たびたび「社会人野球はアイデンティティを失いつつある」と言ってきたが、まさにその通りになりつつある現状がある。
都市対抗野球大会と全日本社会人野球選手権を行うための機関としてJABAが動くようになってきてしまい、熊本ゴールデンラークスのように1949年に起きた騒動の再現を起こしてしまった。現状のままではさらに立場を失っていくであろう。
そうでなくても企業にとって運動部が不必要、または必要にしても陸上部などのような、運動部でもコスト低く高い広告力を求める傾向にある。プロ野球があって対費用効果があまり求められず、かといって社員の娯楽にもなりきれていないコスト高の社会人野球が今後一体どこまで生き延びれるかというとはなはだ疑問である。
去年ですらきらやか銀行野球部が休部に追い込まれたことを忘れてはならない。

かといってとして以降野球大会と全日本社会人野球選手権に比重を置きすぎているために本来の肉厚層であるクラブチーム層が現在のルール改変で逃げそうになっている。
ただ、予算を割けるほど余裕はない。

それはある意味、昭和、平成、令和と人と社会の構造が変化していっているのにも関わらず何も手を打ってこなかった社会人野球全体の問題であり、そのつけ払いをさせられているに過ぎない。

では今後どうやっていくのか。
某クラブチーム監督の言葉を今後につながるヒントとして残してこれを終わらせる。

「最後は地域の発展に貢献する事がクラブチーム、ひいては社会人野球の存在価値となっていくはずだ」

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