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”ベルベットの空”は布団のこと【SADS『忘却の空』歌詞 意味 考察】

 「VELVETの空の下」という歌詞についてよく分からないといった感想がネット上で散見される。(そもそも聞き取れないと言われてるけど…)
 ネット上で見つけたとある解釈はベルベットみたいにうねる空のことと”ベルベット”を暗喩として捉えているモノがあった。これも一理あると思う。
 ここで私は解釈を2つ提示する。
 その解釈は「”ベルベットの空”とはカーテン越しの空」「ベルベット製の布団に包まっている時に見上げた時の景色の詩的表現」の2つだ。


”ベルベットの空”の意味

 解説に当たりとりあえずベルベットとは何かをWikipediaから引用する。

ベルベットの生地

13世紀にイタリアのベルッティが編み出した生地でベルットと呼ばれた。柔らかで上品な手触りと深い光沢感が特長で、フォーマル・ドレスやカーテンに用いられる

"ベルベット".Wikipedia.2022-8-6 (土) 16:17.
https://ja.wikipedia.org/wiki/ベルベット,(参照2022-11-7)

①「”ベルベットの空” = カーテン越しの空」説

 「カーテンに用いられる」という1文から「VELVETの空の下」という歌詞はカーテンを閉め切ってベルベットのカーテン越しの暗い日の光が当たる部屋に閉じこもっている様子を指しているのではないかと考えられる。
 これが1つ目の解釈「”ベルベットの空”とはカーテン越しの空」を考えた理由だ。

②「”ベルベットの空” = 布団」説

 次に2つの解釈である「ベルベット製の布団に包まっている時に見上げた時の景色の詩的表現」の理屈は1つ目と同じで、ベルベット製の布団にくるまっている様子を指していると考えられる。
 そしてネット上で見つけた「ベルベットみたいにうねる空のこと」という解釈では”ベルベット”が暗喩であるとしていたが、私が考えた解釈では”空”の方が暗喩であると考えたわけだ。

 居心地の良い場所(他より悪くない場所)に閉じこもりすぎて、包まりすぎてもはや「この部屋・この柔らかい布団の中が自分の世界だ」とでも言うように「VELVETの空の下」と表現したのだと私は考えた。
 ボーカルの力強い歌声からは想像しにくい、とてもナイーブな内容だったことに私自身、読解中に驚いた。

包まる清春

 ”ベルベットの空”は「カーテン・布団」であるという説をご理解いただけましたでしょうか。
 では次にタイトルにもなっている”忘却の空”とはどんな空なのか、もしくは忘却の何なのか。その真意に迫る。

”忘却の空”の意味

 ”忘却の空”の意味を理解するために、歌詞全体の構図を客観視する必要がある。
 重要なのは「忘却の空」という言葉が曲の始まりと終わりの同様のフレーズ(下記)の中でのみ登場するということだ。

乾いた風に吹かれ 独りきり歩いてる
忘却の空へたどり着けるまで

作詞作曲:清春
2003年 Sads『忘却の空』より引用

 上記の部分が歌詞の始まりと終わりに”繰り返し”登場するわけだが、その構図が「忘却の空」という言葉にどのような意味を与えるのか。
 これもまた解釈が2つある。

①「”忘却の空” = 天国(死)」説

 まずは「忘却の空 = 天国(死)」説である(こちらは線薄めかなと個人的には思う)。始まりと終わりと聞けば誰だって思い付く凡な発想だが、一応検討してみよう。
 この「天国(死)」というイメージは自殺的なモノではなく終盤唐突に出てくる囁き声の、

I BELIEVE ME, I TRUST ME, I BELIEVE MY LIFE
(翻訳:私は私を信じる、私は私を信じる、私は私の人生を信じている)

作詞作曲:清春
2003年 Sads『忘却の空』より引用

 という歌詞から、ちゃんと生き抜いて辿り着こうとしている感じのポジティブな「天国(死)」のイメージの暗喩として「忘却の空」と書いていることが分かる。

②「”忘却の空” = 現実と夢(天井とまぶた)」説

 2つめは「忘却の空 =現実と夢(天井とまぶた)」説である(個人的にはこっち推しである)。先に解説した「ベルベットの空 = 布団」という解釈ともイメージが合致するし、”繰り返し”の表現も寝て醒めてのことだと考えられる。

 起きてすぐの”天井”(曲冒頭の「忘却の空」)は「夢をすっかり忘れてしまった後に見る空(現実)」であり、寝てすぐに見ることになる”まぶた”(曲終盤の「忘却の空」)は「現実をすっかり忘れてしまった後に見る空(夢)」と解釈することができる。
 すなわち『忘却の空』の歌詞は眠りにつく前の暗い心持から反転、

I BELIEVE ME, I TRUST ME, I BELIEVE MY LIFE
(翻訳:私は私を信じる、私は私を信じる、私は私の人生を信じている)

作詞作曲:清春
2003年 Sads『忘却の空』より引用

 とポジティブな感情を持って夢の次にやって来る現実へ向けて眠りにつくことが叶ったという構造をしているのだ。

 だがしかし、もう少し解釈を深めるとフレーズが”繰り返し”登場する点、日を跨いではまた布団の中で「天国・夢の中」に行きたいと願い続ける日々を繰り返してしまうというネガティブさを暗示しているようにも受け取れる(前述では冒頭が起きた時で、終盤が眠る時としたが、逆だと考えることもできる)。

 つまり『忘却の空』の歌詞全体の流れ・構図はこのようになる。

【歌詞全体の構図】
①.朝起きて、天井を見上げる(夢を忘却して見る空)
②.ベルベットのカーテンを閉め切ってそれ越しの朝日を見る
③.布団に包まり、その生地を見つめる(ベルベットの空の下に入る)
④.眠りについて、瞼を見上げる(現実を忘却して見る空)
⑤.目覚める(①に戻る)

 この構図がバッドエンドであると捉えるか、ハッピーエンドだと捉えるかは曲の聞いた時のリスナー側の心持次第かなぁ思う。
 ただSADSの前身バンドである『黒夢』というバンド名はWikipediaによると「あくまで現実というものを直視して、そのうえで前向きに演っていく姿勢をとりたくて」という理由で名付けられたそうなので、個人的にはポジティブな意味で捉えようと思う。


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