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「カズオの運行日報」第8話 解説

第6〜7話の幽霊のエピソードの解説で、冗談でも事故の話はしたくないと書きましたが…。

コレは他社の若い子がやらかした話をもとに、「運転でイライラするとロクなコトがない」のを描こうと思い立った話です。


新キャラについて

植松直樹


カズオの運行日報 第8話より

「グランジの神様」第5話〜第6話で登場した、当時は名前のなかった後輩くん。
相変わらずカズオからは「オマエ」呼ばわりですが。
この子を高卒後にカズオの後を追って入社させるアイデアは当初からありました。

母親の躾で「困っている人は助けなさい」と教えられて育ち根はいい子なのですが、お調子者でカズオほどお金に困った家庭で育ってなく高校で3年間遊んでるので仕事への構えも甘いし呑気です。

名前の由来はさんざん悩んだあげく、「ウェーイ」ってすぐ言うから(爆)。

中学生時代にカズオのギター(当時は学校のアコギで練習していた)を聴いて憧れて、高校行っても忘れられなかったみたいですね。

甲斐沼典子(のりちゃん)


カズオの運行日報 第8話より

のりちゃんは「グランジの神様 外伝 カズオの恋バナ」に出てきます。

一見普通の女の子ですが、クールな一面もあるいっぽうでどストレートなところがあり、ちょっと変わったトコもあります。

甲斐沼社長の落雷は小さい頃から浴びてるので、打たれ強いです。

口グセは「ひどい」。

実は焦げ猫の娘がモデルです。
かわいく描けたのでまた登場させたいなーとは思ってまして。
社長が焦げ猫の父をモデルにした人物なので必然的に孫になりました。


社長の奥さんとその愛車

この回に顔は出てきませんが、「甲斐沼よし子」という名前です。
以前は月1回顔出して経理を手伝ったりしてたっていう設定ですが、孫ののりちゃんに交代…。

運転はヘタです。
だから悪気はないけど割り込む形になり、しかもどんくさい…植松くんがイラッとするのもムリはないかも…。
ただ、社長の経営者としてのポリシーには賛同しているので、感じ悪いかもしれませんが今回は「チクった」形になってしまいました。

ちなみに作中のピンクのキャロルは実際に焦げ猫の母の愛車でした。
あのデザインはとてもかわいかったですが今ではアルトのOEMで丸くないデザインになってしまいましたね…今残ってればかなりのレア車でしょう。


カズオの運行日報 第8話より 知る人ぞ知るマツダキャロル2代目…。

運送会社の事故対応

大手さん以外は未だに「事故ったらドライバー負担あり」という会社が多いです。
法的にNGの全額負担はさすがに減りましたが実はまだ存在します。
コレはなんでかというと幾つか理由があります。

保険料が高い

家庭で個人がレジャー・買い物に使う乗用車に比べ、営業用で毎日かなりの距離を走る上に一旦事故ったら殺傷能力がハンパないトラック等は当然保険料は高いです。

「グランジの神様」第9話より

その高い保険料を少しでも抑えるために、対物は200万までしか入ってないとか、車両保険(自損事故でも降りる)は省いてるとか、ザラです。
ちなみに信号機1基ブッ倒すと200万くらいかかるらしいですが(今はもっとかな)、大きな事故だったり相手もトラックや外車など高額な車だったりしたら…。
そんなわけで毎月数万ずつドライバーの給料から天引きする会社が多いですね。
あるいは一定期間「無事故手当カット」とか。

それでなくても「免責分」(保険加入者が必ず自腹で払う金額)だけは払えという会社はもっと多いです。良心的なほうですね。
免責の金額以内で収まるのであれば、保険は使わずそれを払えという形が最も多いと思います。

そして事故れば事故るほど保険料は上がっていくので…。
そもそも保険を使わずドライバーに全負担させる会社もあるわけです。

また、「事故ったときの運転手の自己負担を大きくすることで建前上、事故抑止策としている」会社もあります。
運転手の負担を大きくすれば事故を恐れて慎重になるだろうと。
でも、誰だって事故なんかしたくないんだから、ソレは会社が負担したくない言い訳だろうと焦げ猫は思ってますが。

ドライバーにそれらの支払い義務はない

労働基準法等で、雇用契約書に「事故ったら弁済あり」と書いてはいけない(賠償予定の禁止)、従業員の同意なしに給与から天引きしてはならないなど、いろいろあるんですが…実際には全額ではないにせよなんらかの形で給料からマイナスしている会社は多いです。

実際免責分や修理代はどうしているのか。

マンガ作中ではカズオや植松くんが「修理代天引きしてください」と言ってます。
まぁドライバーの同意があれば何十%かは負担させていいことになってるようですが、KNロジでは社長のポリシーによりそれもやりません(その代わり大目玉喰らうけど・笑)。

飼い殺し」という言葉がありますね。
会社に対して何かを弁済するために毎月給料から天引きされながら「払い終わるまで辞めさせてもらえない」ってヤツです。

コレ…ホントは払いたくなかったら辞めちゃってもいいんですよ。
辞めても請求を追っかけると脅す会社もあり、弁護士沙汰になった知人もいますが勝てないとわかってたのか会社側が諦めたようです。
事故りっぱなしでトンズラすりゃチャラって考えもどうかとは思いますが、あまりに負担が大きい場合やはり誰でも考えると思います。

以上の話は物損事故の話です。人身事故ならそれこそ解雇もありうるケースバイケースですが…。

運送会社の場合、ドライバーが「自分がミスをして会社に迷惑をかけたから仕方ない」と考えて受け容れてしまう人も多いのです。
車両はあくまでも会社の持ち物ですしね。
でも結局、給料から毎月何万も引かれててモチベが下がってるのに辞めますと言いにくい…。
いい大人が会社に退職届も出さず翌日いきなり来ない・連絡も拒否とかいわゆる「バックレ」するのにはこういう理由があることもあります。


焦げ猫が2日で辞めた会社

とある大型長距離の会社に入社したときのこと。
スキルがあってもその会社では最初は相乗り(長距離で車泊なのに女性ドライバーどうしだからと運行に出すという…ちなみにトラックの寝台は大型でも幅60センチ強しかありません)。それはむしろ教育のためにいいとして。
その間に、その先輩女性ドライバーに会社の内情を聞きました。

その会社、トラックをやたらキレイにするよう義務付けると思ったら、トラック中古販売も手掛けており自社で使った車両を売ってたんですよね。

だからだと思うんですけど、飛び石・狭い道での木の枝の傷などアチコチ行ってりゃ仕方ない傷まで全部外注修理に出し修理代を運転手持ちに…。
自分で補修とかはダメみたいで、全員飼い殺しみたいな感じになってるそうで…。

それともうひとつ、保険を使うと他機関に事故の情報がいきます。
「Gマーク(一定の基準を満たした安全な運送会社に標榜が認められるマーク)」欲しさに事故の事実を握りつぶすために保険を使わず運転手負担にさせてるっていうのもあったようです。

拾い画です。トラックの観音扉によく貼ってあるヤツ

ソレ聞いて「そんなのムリ、ドツボにハマるヤツだコレ」と思ったので「怖いので辞めます」と言ったら「3日運行しないと給料出ないから」と。
2日間タダ働きしたわけですが、そこで喰らいつくのは得策じゃないな…と判断しました。
2日分の給料を求めて訴訟起こすのもめんどくさいし、車にキズつけたらもっとめんどくさいわけですから。
しかも運行はコンプラ違反。
長距離の翌着を一般道で…という会社でした。
2日間の相乗りは勉強代でしたね。

焦げ猫はいろんな会社に行きましたが、ここまで悪質なのはワースト3に入るかなぁ…。
全部がそういう会社だとは思わないでください。
面接等で必ずその辺の話はよく聞いてくださいってコトです。

運送会社に求職するなら、「事故時の自己負担などはどうなっているか」「どの程度の傷を負担させられるのか」は、聞きにくいけど絶対事前に聞いてください!
もちろん「運転手負担なし」の会社もあります。まぁたいていそういう会社はお給料もイマイチかもしれませんが、同時に時間的なコンプライアンスは遵守している会社が多い印象です。
本来は先ほど書きましたように「飼い殺し」をさせてはいけないのです。

KNロジの社長の方針とは

まぁコレはマンガ上の設定でして実際にこういう会社があるかどうかはわからないので読み飛ばして頂いて構わないのですが。

そもそも事故らないための教育・ムリのない配車に力を入れているという設定です。

それと事故時にドライバーに負担をさせないのは、イソップの寓話「北風と太陽」の原理です。

お金で縛って「事故らないようにしろ」と言うのは簡単ですが、どんなに気をつけていても「もらい事故」「魔がさした」ようなことは起き、それでも保険処理上過失が出たりはします。
それでドライバーがやる気なくしたら本末転倒なので(先ほど書いた「バックレ」のような事案も出てきます)、会社に迷惑をかけたと思うなら自分の経験として身につけ、より一層今後気をつけて頑張ってくれというのが社長の方針です。

だからこそ安全に関する教育は自ら教鞭を振るうほど厳しく、やってしまったら大目玉なんです。
まぁ実際こんなに怒鳴りつける会社あったら「パワハラだ」と言われかねませんが(そこはマンガなんで・笑)、植松くんがやらかした事故の修理なんかお金を捻出するのは大変ですよ…冷凍機とその箱(保冷性がいいように材質・つくりもドライバンより高額)を新しいものに載せ替えたら3ケタコースだと思います。

カズオの運行日報 第8話より

絵で緑色になってる部分は保冷用の断熱材で、ドライバンはアルミのパネルの内側はベニヤですが、冷凍車はこのような素材を鉄板にサンドイッチしてあります。

社長が落ち着いて対応できたのは、作中のように長年培ってきた人脈で中古の安い部品を探したりできるからというのもあります。

取引相手を大事にするのは運送会社どうしだけでなくディーラーやボディー屋(荷台をつくる会社)も同じ

まぁ「こんなキレイゴトの会社なんかあるかな」って正直自分で描いてても思うのですが、2024年問題では運送会社各自がこういうモノを目指さないと人が集まらない→生き残れないという気がするので、理想的な中小〜零細運送会社のあり方を描いています。
実際にはKNロジくらいの規模の会社ではやりくりに相当苦労しているコトがほとんどで、事故時の処遇も厳しいことが多いです。
ただ、過失の少ない事故に関してはちゃんと考えてくれて処罰一切ナシというケースも実際に多かったので、社長さんの人格、さじ加減もあると思います。


実際のエピソード

イライラしてたドライバーが事故を起こした話

コレは焦げ猫が某デパート専属の4tに乗っていたときの話です。
納品所は地下の通路上沿いにホームがあり、専属の4tは優先で場所が決まっていました。
そのホームに着けるのにいつものようにハザード焚いて頭を振ってバック…、とくに手間取った覚えもないんですが、頭振ったら通路を塞ぐことになるので納品が終わり早く出たい他社の2tの若い子がビービークラクションを鳴らしまくり、営業所の他ドライバーやデパートの荷受けも「なんだなんだ?」と野次馬に出てくる始末。
あげく焦げ猫のホーム着けが終わるとスゴいイキオイでブンブン吹かして出て行きました。

その後。

その2tのすぐあとに配達に出た同じ営業所のドライバーが、
昼間ビービー鳴らしてたヤツ、出てすぐの所でカマ掘って(追突)たよ
ですって。

だからね〜…何をそんなにイライラしてたんだか知らないけど、怒ってるとロクなことがないんですよ。

不思議なのは、同業者のホーム着けって普通何も思わず待ってるもんですが、業界入りたてなんでしょうかね、待てない人がいるんですよね。
頭振った後ろをまくられてヒヤッとしたこともありました。

プロが冷静でいられるのは

作中でカズオが教わったという「他車はみんな身内と思え」が、実践できるなら本当はいちばん効果的です。優しくなれます。
でも身内と仲がいい人ばかりとは限らないし、毎日10時間以上道路にいて行きあう車すべてそう思い込むのは難しいっちゃ難しい…。

しかし実際、大手さんなんかでは目立たない乗用車で抜き打ち的に巡回監視してるとこもあります。

ではもう少し簡単なのは…。

不動心

コレに尽きます。

割り込まれたりノロノロ引っ張られたり、イライラのタネは秒単位で連続する世界ではあります。
でも作中の社長が言うように、プロは感情に振り回されてはいけません。

イラッときても、映画を観ているように俯瞰〜無視。

まぁ焦げ猫も未だにイラッ・ヒヤッとさせられることは多々ありますが…、
気を鎮めて頭を切り替えるためにタバコを吸ってみたり(都市部の一般道だとやたら本数増えちゃいますが)、好きな音楽をかけて気を逸らすなど、その人にあった方法はあるので乗用車しか乗らない方もいろいろ試してみてください。
タバコは健康上オススメできませんが。

ここだけの荒療治

どうしてもイライラが運転に出てしまう、飛ばしがちな人は…、

検索してはいけない

をキーワードに、セーフサーチをオフにして画像検索してみてください。
Googleがそういうのを結果に出さない仕様になったかもしれませんが…。

もう、そう言うだけで想像つくでしょう。
実際に画像を見るとPTSDになりかねないので自己責任で…。

近いところではお正月の能登震災の支援に向かう自衛隊機が旅客機と衝突、「全身挫滅」という言葉が使われましたね。
そのほか交通事故で「全身を強く打って死亡」とニュースで言われるのは、言葉のニュアンスより遺体の状態ははるかにヒドい場合が多いようです。

日常的なコトでは、駅のホームからの飛び込み自殺。
アレの後片付けで、もはや原型をとどめていない肉片を拾う話はよく聞くでしょう。

人がそうなったのを見ると、安全意識が変わりますよ。


カズオばっかり見てる植松くんですが

さいごに。
怒鳴り散らしてるだけの社長に見えますが大事なことを言っていて、社長の大説教で植松くんが聞いたものは、しっかり植松くんの肥やしになっています。
「社長リスペクト」。
それもいずれ描こうと思ってます。

でも、そこで長年働いてきたカズオにだからこそ、憧れも強くなったのでしょう。

イケイケドンドン白ナンバー持ち込みだった頃の社長の話もそのうち描きたいと思ってます。

社長がブチ割った灰皿やテーブル用のガラス板を掃除

次回、「カズオの運行日報」。

配車・人事・トラブル回収・教育・クレーム処理など等忙しくやっている槍杉さんが病気でしばらく休むことに…。
そのあいだに青さんが槍杉さんの代わりを務めますが…?

休職前に、槍杉さんヒストリーが語られます。
お楽しみに!


「カズオの運行日報 第1話」はこちら↓


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