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矢沢あいはいいぞ―『Paradise Kiss』を全力で布教するnote

これは私の持論なのだが、矢沢あいは常に「男と仕事は両立しない」と言い、槇村さとるは常に「仕事と両立する男を選べ」と言うのである。

……死んだときにお墓に掘ってもらう言葉、これにしようかな!! というわけで最近矢沢あいの漫画を読み返していて、「いやーやっぱり矢沢あいはいいよねーーー最強だよねーー」と思ったのである。矢沢あいはいいぞ。矢沢あいがいいことなんて現代のアラサー女子は100年前から知ってそうだが、しかし驚くべきことに地球上でまだ矢沢あいを読んだことのない人のほうが多いのだ。信じられない。布教が足りない。力不足を感じる。

矢沢あいは、いいぞ。

というわけで矢沢あい作品のなかでもっとも私が好きな作品、ていうかこの世の漫画のなかで好きな作品ベスト10に入る、『Paradise Kiss』について語ろう!!!!!

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1.『Paradise Kiss』をめぐる個人的な思い出

矢沢あいといえば『天使なんかじゃない』(全8巻)や『NANA』(現21巻)を思い浮かべる方は多いだろう。どちらも大変に名作だし私も大好きだし一回読み始めたら止まらない……のだが、『Paradise Kiss』(全5巻)は個人的にめちゃくちゃ好きな漫画なのである。

まず個人的な思い出から書くと、私と『Paradise Kiss』の出会いは、忘れもしない、高校三年生のクリスマス・イブだった――。

当時大学受験を控え、センター試験の勉強に集中していた私は、本も漫画も絶ち、取り入れるフィクションは朝ドラだけというストイックぶりを誇っていた。しかしなぜか私は『Paradise Kiss』の1巻を入手し、なぜかクリスマス・イブの日(もう学校は冬休み期間に入っていた)、なぜか1巻のページをめくっていた。その日がクリスマスイブだったことは覚えているのだが、『Paradise Kiss』をなぜ自分が1巻持っていたのかはまったく覚えていない。親が買っていたか何かの拍子に買って忘れてたりしたのかな。とりあえず私はフィクションに飢えていた。その状態で読む『Paradise Kiss』1巻は、本当に、

信じられないほど面白かった。

まじでいまだにあれ以上面白い漫画ってあるっけ……? と振り返っても遠い目になってしまう。そして思った。「やばい、私これ2巻以降読んだらこの漫画で頭いっぱいになって、落ちるわ」と。2巻以降は受験が終わったその瞬間読もう、と心に決めたのだった。

国立の二次試験が終わった日、私は試験会場だった京都から飛行機で自宅へ帰ってきた。そして車で空港へ迎えに来てくれた親に言った。「お願いだからTSUTAYAに寄ってくれ」と。私はその年レンタルコミックが登場したTSUTAYAで『Paradise Kiss』を借りた。家族が寝静まった深夜、こたつのなかで読む『Paradise Kiss』2巻以降は、本当に、

信じられないほど面白かった。

まああれ以上面白い漫画なんて、存在しないですね……。そして私は大学に入り、再読したすぎて耐え切れず『Paradise Kiss』全巻を買った。就職して東京へ引っ越し、結婚して京都へ引っ越しても、そのたび大幅な本棚整理をおこなっても、『Paradise Kiss』だけは手元に置いてあった。

というわけで私にとって『Paradise Kiss』は多分に私情の入った、愛しているといって差し支えない漫画なのである……。

2.矢沢あいの凄さは台詞力にある

私は『Paradise Kiss』を読んでからというもの、人生のモットーを、ジョージ(主人公の好きな男)の名言に決めている。

矢沢あい『Paradise Kiss』1巻、祥伝社

「少しの才能と
 あふれる情熱
 それに伴う行動力!
 それがあればどこかで道が開けると思う」

いまだにこのページを読むたび震える。もう痛いと思われようがなんでもいい、とにかく10代の私はこの言葉に震えたし、本当にこの言葉を支えにして生きてきたのである……。

しかしジョージの名言にしても、矢沢あい先生の凄さは、私はこの「台詞力」にある、と思っている。

もちろん魅力的なキャラクターの作り方も、展開のぐいぐい読ませる力も、可愛すぎる絵も、どれも素敵だ。素敵なのだが、それ以上に、矢沢あい以上に「記憶に残る台詞」をつくるのが、上手いのである。

矢沢あいくらい、言葉の使い方がうまい漫画家って、他に誰がいるだろう? と私は本気で思っている。

たとえばこの一ページ。決め台詞などはない、主人公が友人・徳森くんに悩み相談をして、好きな男・ジョージについて思いをはせる普通の一場面である。

『Paradise Kiss』4巻

……完璧じゃないですか!? この一ページに、まったく無駄な日本語が、ない!! 何ならこのページを暗誦してくれと言われたらいますぐできる!! そして無駄な日本語がないのに、パンチがある!!

「でもジョージは
 そんな自分のない女は嫌いなの

 結局あたしはその考えに
 左右されてるだけの何もない女なんだけど」

この台詞の、簡潔なのに、これ以上ないくらいのキラーフレーズっぷりよ……。

矢沢あいの漫画は、たとえば「わざとだよ?」(世紀の名言)とか「あんたがあたしを嫌いでもあたしは好きよマミリン!」(世紀の名言)とか、インターネットで広がっている名言も多いけれど。それ以上に、普通の台詞であっても、なぜか記憶に残りやすい言葉が多い。それはパンチラインを生み出すということでもあるし、無駄な言葉が削ぎ落とされ洗練されている、ということでもある。

3.関係は残らなくても、創作は残る(ネタバレあり)


『Paradise Kiss』は、進学校の優等生だった紫が、「ヤザガク」と呼ばれる服飾専門学校のデザイナー志望の仲間と出会い、自分の夢と恋を見つけていく物語だ。

そしてここからネタバレになるので、有料にするが……私は本当にこの漫画のラストが大好きで大好きで大好きなのである。

(ネタバレあります)

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