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仮面ライダーミステリを読んでしまった話

 仮面ライダーミステリこと宇野常寛『チームオルタナティブの冒険』を読んでしまった。
 これが仮面ライダー小説であることはおそらくネタバレになるのだろうが、この小説が好きな人は「仮面ライダーだよ」と言わないと絶対に読んでくれないだろうと思う。
 なので、声高にして断言しよう。
 

この本は、仮面ライダーミステリである。


 地方都市で、青春に屈折したものを抱きながら親友の藤川らとともに自作のボードゲームをやったり生徒会を出し抜いたりしている高校生の森本は、密かに思い焦がれていた国語教師の死をきっかけに、胡乱な教師・謎の転校生・快活な好青年という奇妙な三人組と出会い、とある「事件」に巻き込まれていく...…
 というのがこの本の「一般的な」あらすじだ。
 こう書くと普通の青春ミステリじゃないかと思うだろう。実際、「ストレンジャーシングス」や『IT』のような悪ガキ青春パートが大半を占めるので青春ミステリといえばそうである。
 ところが、この作品を怪作たらしめるアイデンティティは、事件の真相にある。

 


 

犯人は、怪人なのだ。




 これは比喩でもなんでもなく、もう一つの世界に棲息する「怪人」(公式呼称)が人を殺して回っているのだ。
 そして、三人組は怪人と戦うために銀色のベルトを巻き「変身」という掛け声と共に人ならざる存在《オルタナティブ》に変わる。
 ちなみに、怪人は全身が銀色で猫背で吊り上がった目を持ち腕を十字にして光線を発射する。
 あまりの衝撃的展開に、叫んでしまった。
 オルタナティブの外見は「シン・仮面ライダー」のように昭和ライダーをなぞったものになっているが、その一方で「習性として人間を狩り続けている存在としての怪人」はクウガや剣を髣髴とさせるし、なんだったら「突然現れていちゃもんをつけて襲いかかってくる敵ライダー」とのライダーバトルもあり、作風としては平成ライダーに近いだろう。
 後、登場するライダーの一人のメイン武器がファンネルなのはガンダムシリーズを露骨に踏襲しているか。
 こう書くと全体的にパロディで構成されたトンチキ小説のように思うかもしれないが(実際そうだと思うが)、この小説の骨子はそこに至るまでの青春描写ではないかと思う。
 森本の属するホモソーシャル的コミュニティと、そのサークルクラッシャーのように振る舞う三人組に対する屈折した気に入らなさ、閉塞的な地方都市とそこを飛び出す鍵としての「乗り物」への憧憬、そして森本と藤川の男同士の巨大感情……。
 こうした青春小説としてのディテールがあるからこそ、そこから決別しなければならない仮面ライダーパートの重みが出ているのだろう。
 特に序盤で語られる裏で学食を作って生徒会や学校を出し抜くエピソードは軽妙さもあって非常に楽しい。
 また、森本と藤川の間にある巨大感情と、互いが互いを思いやるが故のすれ違い(森本が藤川に話しかける時、一人称が「俺」になるのが好き)はすごく良かったので、宇野常寛にはBLの才能があると思う。
 言葉遣いやガジェットの用い方がやや現代的ではなく、作中の「SDGs」や「GoogleMap」と言った単語が若干白々しくなってしまっているような気もしたが、これは宇野の私小説的側面も大いにあるからではなかろうか。

 というわけで、正直宇野常寛という名前に拒否反応を示す特オタには向かないかもしれない。
 ウルトラのオタクは激怒するかもしれない。
 しかし、350ページ超の熱量と小説処女作としてのドロドロとした何かははっきりあって、そこを体験する価値は十分にあると思うのだ。

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