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『クロスアンジュ』と『真ゲッターロボ』が激突した海外ロボットラノベ『鋼鉄紅女』

 まず最初に言っておくと、この本を面白いと思う人は『ダーリン・イン・ザ・フランキス』よりも、万難を排して『クロスアンジュ』と『真ゲッターロボ』を絶対に観た方がいいです。
 『鋼鉄紅女』は男女ペアが乗るロボットものという設定はありますが、作者はダリフラに対して批判的であり、テーマ性という面では『クロスアンジュ』とチェンゲを観た方がより作品を理解できるだろうと思います。

 まあそんなことを抜きにしても、『鋼鉄紅女』は非常に面白いラノベなので読んだ方がいいです。
 デュエルマスターズとかバトルスピリッツの火文明クリーチャーみたいな主人公機(本作のロボットは動物形態から人型形態へトランスフォームします)の表紙だけでももう優勝なのに、超展開に次ぐ超展開が繰り広げられるので本当にすごい。
 男女ペアでロボットに乗って人類の生存圏を脅かす怪獣と戦う世界。主人公の武則天は姉を死に追いやった男パイロットへの復讐のため、パイロットに志願して男に近づき……マジで復讐を遂げます。
 普通だったら「復讐相手が実は良いところがあって……」とか「戦ううちに情が移って……」みたいな展開になるんだろうが、あっさり殺してしまうのがすごいんですよ。これで序盤ですからね。
 それで殺人犯として扱われることとなった武則天だが、彼女を待っていたのは死刑ではなく、もう一人の殺人犯にしてつがいの女パイロットを殺してしまう男とコンビを組むことだった。
 というわけでここからが本番になるのですが、これ以降も武則天が主人公とは思えないダーティすぎる戦法を取ったりロボットにはペアで乗るにも関わらず凄まじい複数交際を始めたりえっちしてパワーアップしようとしたりするなどといったぶっ飛んだ超展開の連続で読んでいて「嘘!?!?!?」となることは保証します。
 とはいえ、ただ逆張りをして奇を衒ったわけではなく、ロボットアニメの「お約束」を踏まえながらも、強烈な家父長制によって支配され女性を蹂躙することで成立している歪な差別構造との対決を描いている重厚なテーマ性を内包した作品でもあります。
 本作は日本のロボットアニメへのオマージュが強く、ピチピチパイスーガンプラ(この世界における最上級グレードのキットは木と金属とガラスでパーツが構成されている。む、難しすぎる)やペアでアイスダンスを踊る訓練、戦況が生配信されアイドル並みの扱いを受けるパイロットといった「どこかで見た」お約束が挿入されて楽しい一方、怪獣との戦いのために女性を次々と使い捨てていき、「女性は子供を産み、存在のすべてを男性に捧げる存在」という価値観が当たり前になっている社会構造とそれへの反抗が主体になっています。
 テーマ性が『クロスアンジュ』に近いというのはこのあたりなんですね。
 だからこそ、クロスアンジュ性がめちゃくちゃに高まる終盤の怒涛の展開はSFファンボーイのみなさんは唖然とし、ともすれば激怒するかもしれない。
 が、逆にこの展開に爽快さを感じる読者は本当に、本当にクロスアンジュへの適性がものすごくあるので絶対に、絶対にクロスアンジュを観てほしい。
 あと、癖の強さが振り切って逆に愛嬌を感じるキャラクターの妙味もいいんですよね。
 言動と思考回路が痛姫様まんまな武則天はその豪快な活躍ぶりが爽快感があるし、ペアを組むことになる世民も粗暴な男かと思いきや理性的で優しくて眼鏡属性持ちだし、もう一人のイケメンの易之もなよなよ枠かと思いきや大活躍するし、最終的に3人で複数交際して3人揃ってロボットに搭乗します。ゲッターチームかな?
 また、サブキャラのチュチュとニカ姉みたいな同僚女パイロット2人とかツンケンしているが実は世民を案じて男泣きする司馬謀士とかも魅力的ですね。
 なお、ここまで書いて「おや?」となったかもしれませんが、お察しの通り登場人物の名前は歴史上の人物から取られています。FGOのような偉人ものではありませんが、これはちゃんと意味があるので楽しみにしていてください。
 海外ラノベということでハードルが高そう……と身構えてしまいそうになりますが、翻訳の文体も軽めになっているので本当にロボットラノベを読むような感じで楽しめると思います。
 ただ……その……完結してない上に水星1期のようなとんでもない引きをするので続刊が出るまで生ごろし状態になる覚悟はしておいてください。
 

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