GUARDIANS OF THE THINGS 4(ナイアル×プリマデウス)
ナイアル×プリマデウス
https://nyarseries.sakura.ne.jp/primadeus/
■僕の世界
ネットやゲーム、VRといった、虚構の仮想世界を得意とする、現実ではコミュ障の高校生 砂里でぃー。
20XX年 近未来の現実を超えた世界、虚構の物理宇宙を得意とする、義足の宇宙飛行士 ロミーナ・エスパシオ。
スペースオペラやパルプフィクション、虚構の架空宇宙を得意とする、SF小説家 ジェイムズ・ティプトリー・Jr。
強大な神話生物ヌギル・コーラスの使者にして、交信者ジェーン・ロバーツと繋がるセス、またの名をイムナール。
そして、砂里でぃーにより、ヌギル・コーラスの悪夢を喰う獏として呼び出されたサルバドール・ダリ、またの名を夢の大帝ヒプノス。
住む世界も、その価値観も、世界を捉える感覚(クオリア)も、全く別々の5人が集い、地球に迫ろうとしている災厄に対抗すべく、宇宙船ティプトリー号は、神話生物ヌギル・コーラスが漂浪する、静寂と暗黒の宇宙空間へ出発した。
…………………………………………。
「夢のデザートは、ワガハイが責任をもって、美味しく頂こう。だが、それにはヌギル・コーラスの宇宙空間に無事辿り着き、奴を眠らせねばなるまい。ワガハイ?ワガハイは出張らんよ。君達が苦労した後で、一番美味しいところを頂くのが、ワガハイの役目なのだからな!ドゥフフフフwwww。」
ダリさんが、ご自慢の髭をぴるるん、ぴるるんしながら、何故か得意そうに、城之内克也と地獄のミサワを足して二で割ったようなドヤ顔をキメている。
【『《「主に安らかなる眠りを与えんとするならば是非もない。」》』】
金属が反響したような異質な声で喋るセス。
「ぬぎる・こーらすのところまで、あんないしてくれるって。」
セスの通訳をのっそりとする、ロバーツさん。
「ヌギル・コーラスの場所は、バーナード・ネビュラ33か…。星座に詳しいプリマデウスが居たら、ロマンのある物語でも聞けたのかもしれないのにね。」
セスから、ヌギル・コーラスの場所を教わり、それを中空に浮かぶ液晶端末で、この世界の座標軸に置き換えて、航路を設定するティプトリーさん。
「暗黒星雲(ネビュラ)ってことは、視界が心配ね…。それと重力も。宇宙船の制御は大丈夫かな。」
エスパシオさんは、普段のくだけた様子とは違い、いつになく真面目で不安げだ。そんな顔をされると、僕まで不安になってくる。
「あの… ヌギル・コーラスの場所って、結構危険なんですか…?」
「何とも言えないかな…。これが現実を超えた物理宇宙の範疇だったら、私でもなんとか予測はつくかもしれないけど、“ヌギル・コーラスの”宇宙だからね…。どういう場所かってことは、神話の知識が無いから予測不可能だとして、どういう風に見るかってことに注意を払った方がいいかな…。」
「どういうことです?」
「鼠の国の夢の国と、ラヴクラフトの夢の国は違うということであるぞ少年。」
ウォッホンと偉そうに咳き込みながら、ダリさんが髭をはさんでくる。現実はコロナ過なんだから、マスクくらいしてほしい。もっとも、そんな髭に対応したマスクなんて、無いだろうけど。
「鼠の国の城といえば、シンデレラ城であるが、ラヴクラフトの城といえば、セレファイスであるな。つまり、バーナード・ネビュラ33という場所について、ある特定の世界の中で情報を持っていたとしても、その情報は別の世界では、必ずしも役に立つわけではないということだ。」
【『《「主の宇宙は、主が創造した宇宙。」》』】
「おなじばしょでも、ほかのうちゅうとちがうの。」
「つまり、ボク達がこれから向かうバーナード・ネビュラ33は、現実の世界に存在するバーナード・ネビュラ33とは別モノ。ヌギル・コーラスの、ヌギル・コーラスによる、ヌギル・コーラスのための、バーナード・ネビュラ33ってこと。何が待ち受けているかは、全く予想がつかないってことさ。だからこそボク達は、その予測不可能なものの捉え方に意識を集中しなくちゃならない。」
最後にティプトリーさんがまとめてくれた。しかし…。
「何が起こるか分からないから、慎重に行動するしかないってことですね…。」
余計に気が重くなる。人間の中で最も強い感情は恐怖だ。そして、その中でも未知なる混沌に対する恐怖は一番強い。僕達は、ヌギル・コーラスを眠らせることはおろか、無事に辿り着くことさえ出来ないんじゃないだろうか…。
「いや、そうじゃないよ。」
「え?」
塞ぎ込みかけた僕に、ティプトリーさんの声が、それを遮る。
「ものの捉え方に意識を集中するっていうのは、慎重になるとか注意深くするとか、そういうことじゃない。虚構の世界でいう、“ものの捉え方”は“クオリア”のことさ。」
クオリア…。クオリアとは世界をどう捉えるかという感覚、虚構の世界に干渉できる僕達それぞれが持つ個性であり、世界感覚のことだ。
「いいかい?ヌギル・コーラスの宇宙という世界は、とても強力なクオリア(世界感覚)だということは、容易に想像できる。しかしそれに恐怖し、その感覚にのまれてしまったら、それこそオシマイだ。強力な世界感覚は、容易に他者に影響を及ぼすからね。」
その通りだ。虚構の世界であろうが、現実の世界であろうが、人は思っているよりも簡単に、別のものの影響を受けて変わってしまう。
「だからこそ、自らのものの捉え方に集中しなくてはならない。ヌギル・コーラスのものの捉え方にのまれてはならない。つまり、ものの捉え方に意識を集中するってことは…。」
「自分のクオリア(世界感覚)を強く持つ… ということですか?」
「その通り。」
ご名答。とばかりに、ピンと人差し指を立て、ウインクとともに得意げな笑顔を浮かべる。
「特に少年の場合は、クオリアに自信が無さそうに見受けられるからなあ?この天才であるワガハイのように、強固な世界観を持たねば、容易に流されてしまうぞ?wwwww」
世界観に足が生えたような髭の変人が、気色の悪い笑みを浮かべる。…が、悔しいけどその通りだ。
「大帝ヒプノスほどの世界観を持つダリさんは大丈夫だとして、私とでぃー君は、ちょっと苦しいかもね。ティプちゃんは… この宇宙船自体が世界観の顕現みたいなものだし、多少はなんとかなりそう。ロバーツさんは、ちょっと未知数かな…、セス自体がヌギル・コーラスと同じクオリアに近しいかもしれないから、影響を受けないか、あるいは容易に同化してしまうか…。」
流石にエスパシオさんも不安げだ。
「どうすれば良いんでしょう?」
「やり方は色々あると思う。要は自分の意志、自分の世界感覚を強めることで、それがヌギル・コーラスの世界感覚にのまれないバリアーのようになる。物理的な装甲、精神集中、妄想、瞑想、イメージトレーニング、トリップ… その方法は様々だ。」
ティプトリーさんにとっては、それが宇宙船という世界感覚の殻なのだろうか。
【『《「ロバーツは私が守る。」》』】
有機体であるセスが、ロバーツさんの全身を包み込む。
「エスパシオさんはどうするんですか?」
「宇宙服と… 音楽かな。私にとってこの感覚は、衝撃に耐える感覚に恐らく近いと思うの。そう、ロケットが発射する時の、あの感覚。バーナード・ネビュラ33に突入して、ヌギル・コーラスのクオリアの衝撃が私を襲う。でも、それに耐えれたら、その先にある自由な宇宙が私を待っている。」
「そうなんですか?」
「そうなるって、私が決めた。誰かが違うと言っても、そんなこと関係無い。ヌギル・コーラスが違うと言っても、そんなこと関係無い。自分のクオリア(世界感覚)を強く持つってことは、私にとってそういうことだから。私の宇宙は、私が決める。」
強い意志の眼差しで力強く答える。
「だから、でぃー君。これはきっと、誰かに答えを求めてもダメ。アドバイスは出来るけど、最終的にどうするかは、貴方が決めるの。」
「僕が… 決める。」
「そう。それが貴方の世界になる。」
僕が… 僕の世界を決める…。
ガォン!!!
途端、宇宙船が大きく揺れる。
宇宙船全体が激しく振動し、外の景色が激しい雷鳴のようにバリバリと明滅している…!
「バーナード・ネビュラ33が近い…!これから、ジェイムズ・ティプトリーの宇宙を抜けて、ヌギル・コーラスの宇宙に入るよ!」
「ドゥフフwwヌギル・コーラスのクオリア、お手並み拝見といきましょうぞ。」
【『《「ロバーツは私が守る。」》』】
「エスパシオ、シートに固定しました!衝撃、準備OKです…!!」
皆、着々と未知なる混沌に備える。
僕は…。
僕は。
「でぃー君!」
その言葉にハッとする。エスパシオさんだ。
「君には君のやり方がある。」
僕の… やり方。
「いいね!?」
そうだ。
自信と余裕に満ち溢れなくても。
守ってくれる友達や殻が無くても。
強い意志で覚悟を決めなくても。
僕はいつだって、自分を守って生きてきた。自分から逃げて生きてきた。
「僕のままじゃ、きっと耐えられない。だから僕は、自分から逃げるしかない。」
右手にスマホの感触。
いや、いつだって不安な時は、右手にスマホがあって、スマホはもはや僕の体の一部だ。
スイッ スイッと、画面をスワイプする。いつもと同じだ。
現実が嫌になった時、いつだって僕は、僕を止めて、この世界に逃げてきた、この世界に守られてきた。
だから、ここが僕の世界で、ここに僕のクオリアがある。
ゴゴゴゴゴゴ・・・・!!!
宇宙船の振動が強くなる。周囲を光の嵐と暗雲が包み込む。
でも、僕には関係ない。現実に弱い僕の身体は、この世界からあっさり逃げ、そして新しい僕がこの世界に現れる。
スマホから光のエフェクトを放ちながら、僕の身体はキャラクターのアバターに姿を変えた。
仮想(バーチャル)のクオリアが僕を包み込み、僕の身体はVになった…!
すっと息を吸い込む。
感覚が満ちてくる。
虚構だけれども、リアルな自信の感覚に満たされた僕は、目前に迫るヌギル・コーラスの宇宙に。
とてもご機嫌な挨拶を送った。
「はろー、砂里でぃー@VTuberだよっ!今日も新しい世界への一歩をはじめるよ!」
名状しがたき暗雲、強力な重力場、激しい爆発が宇宙船を包み込む。
されど、僕はもう怖くない。輝く光に包まれた僕は怖くない。
そして、光り輝く軌跡とともに、宇宙船は5人と一体のプリマデウスを乗せて、ヌギル・コーラスの元へと、一直線に向かっていった。
楽しい創作、豊かな想像力を広げられる記事が書けるよう頑張ります!