カバ

真奈美とカオリ1話 29

「カオリはニューヨークで暮らして、自由でいいよね。楽しそうで。」

と言われる度に、そんな事もないけどね、と思う。

「いや〜楽しいけど。私になって、この生活したら。これが夢の生活で無いってことがわかるよ。私は地味だよ。地味。自由だけど自由を使い果たしたよ。」

「でも、いつもなんか楽しそうだし。いろいろ文章書いたりして、」

「楽しいけど。 文章は作り話だし、ほとんどが妄想だよ。恋愛下手だから妄想で恋愛ストーリー書いてるだけだし。ちょっとづつ電車のなかで書いて、たまに乗り過ごして焦るけど。 まあ、嬉しい事に沢山読まれてるよ。はは。」

「でも凄いリアルだし。本当にこういう事してるのかなって。恋愛マスターみたいな事も書いてるし。」

「えー。ははは、恋愛の話を書いてるけど、自分の事、ぜんぜん女性の代表とか恋愛マスターとか思ってないよ。逆恋愛マスター。失敗談だよ。 旅の記録的な。もう歳だし、こういう事書いてもいいかなって。 あ!でもエロい事書いてるとか、うちの母親だけには言わないでね!」

「わかった、言わないよ。ははは」

「でも、真奈美ちゃんだって、旦那様、2人の可愛い娘、家、車、お金、仕事もうまく行ってる、全てあるんだから、、もっと、こう、ああ私って幸せって、噛み締めた方がいいよ。」

「うーん それが、わからなくなってきたんだよね。幸せなのか。」

「私なんてなーんにも無いよ。猫と将来の不安のみだよ、しかも1匹亡くなったし。今だに借家だし、彼氏なし、子供無し、仕事は楽しいけど。でも毎日割りと幸せだよ〜。考え方次第だから人生。死の目前に、私、不幸だったー!って思いたく無いし。」

「幸せじゃないとは思ってないよ。ただ結婚なんてしなくていいよ。私、ぜんぜん結婚に向いてなかった。  宇野千代みたいに何度も恋愛して結婚とかなら、私に結婚は向いてるかもしれないけど。ああいうの憧れる。」

「宇野千代リスペクトかぁ、、、でも、子供は可愛いでしょ?」

「そうだけど、旦那がねー、何度か浮気された事もあるし、危機はあったよね。 ハワイ旅行した時も、手を繋いで浜辺を歩く老夫婦とか見てたら、ラブラブで羨ましくなっちゃって。ああいう夫婦になりたかったなーって思う。今でも恋愛とかデートとかしてるカオリが羨ましいよ。女としてのトキメキみたいなものが、もう全然無いし。恋愛したーい。」

「そうか〜。そんなもんなのか。私はトキメキとかより、家に帰ったらいつもいる様な、安定したラブが欲しいな。夫、子供、猫。理想だわー。」

「そんなの飽きるよすぐ。はぁ、最近ほんと老けてきたし。若さを保つには、トキメキと恋愛が必要だよね。男はサプリメント以上の効果って、彼氏がいる主婦友からはよく聞くよー。旦那とは、もう全然だし。いいなー独身。」

「いや〜。私になってみなよー、実際になったら、孤独と不安とで健康保険の種類を調べ始めるよ。笑 カオリの生活イマイチだなって、自分の生活がなんて素晴らしいものだったんだろうと気がつく事ができるよ。」


日本にいる、1歳年上の従姉の真奈美ちゃんと時々話す、向こうは日本時間のランチタイムで、こちらは夜の12時ぐらい。

彼女は結婚13年目、子供も大事だけど、旦那様からのアテンション(注目)が欲しい、そして女として見られたい、なのにそこに満たされなさを感じていて。「私の人生には恋愛が一番重要なんだ」と言いきっていた。

一方、私は今だに独身、普通に結婚して、子供が欲しかった。なにかの選択肢のミスでこういった仕上がりになった。でもタイムマシン完成の日がくるまで、後悔って行為を封印してるし、それも面白い人生で幸せと思って暮らしている。基本的に絶対に他人になる事は不可能だから、いいなとは思うものの、女子同士の比較や嫉妬もあまりしない。明日ミランダ カーになれるならするけど。

日曜日(厳密には月曜日)の夜中、午前1時も過ぎ、眠いなかベッドに横になりながら彼女と長電話をしていると、

確かに、なんで私って私なんだろう? 宇宙の創造物? 神?。 全てのこの世の中の物は素粒子とエネルギーで構成されている、ではこの私の思考はどこから?身体と精神(思考)は別物? 精神はなぜこの身体を選んだ?と脳が勝手に考え始めた。 

すると自分の背中の内側部分(内蔵側)に少し違和感を感じた、真空パックのビニールの蓋をはがしてソーセージを取った時、それまでぴったりくっついていた底の部分に空気が入る様に、背中と中身(魂?)の間に空気がぽこっと入り自分の魂らしきものが背中の辺りから剥がれ宙にふわっと脱出しそうになったのを感じた。

幽体離脱?怖っ。ダメだ!やめた!

こういう事考え始めると思考がループになってキリが無くなって面倒くさいし、ニューヨークの丑三つ時(午前二時)も近いし、こんな時間に変な事を考えるの辞めよう!と、そろーりと私のお腹の辺りから出て行こうとしている魂をぐいっと身体に引き戻して、真奈美ちゃんとの電話を切り、布団をかぶって寝た。


2話へ続く


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