虹樹

2010〜2011年に書いていた未発表小説用アカウントです。

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小説 暗闇のエーテル (目次ページ)

暗闇のエーテル目次ページです。 暗闇のエーテル (第1章 火事) 暗闇のエーテル(第2章 砂丘) 暗闇のエーテル(第3章 ファロス灯台) 暗闇のエーテル(第4章 レンズ工房) 暗闇のエーテル(第5章 ディとヤポンスカ号) 暗闇のエーテル(第6章 シンコウ港) 暗闇のエーテル(第7章 アカデミックシティ) 暗闇のエーテル(第8章 病院) 暗闇のエーテル(第9章 ネオシティ) 暗闇のエーテル(第10章 ミンボウ) 暗闇のエーテル(第11章 環境保

    • あとがき

       史上最弱の主人公、ぴっぴは私の分身でした。この作品は10年以上前に書いたものを、応募する度に手を加えてきたものです。  物語の中でぴっぴは4歳から自分の中で時間を止めています。かなりバイアスをかけた設定ですが、実際は誰にでも起こりうる衝動だと思っています。  人は大きな障害に直面し、その事実を受け入れることが出来なかった時に心の時間を止めてしまうことがあります。そして多くの場合、止まっていることに気づいていない、もしくは進め方がわからないという状態になっています。私自身

      • 暗闇のエーテル(第16章 故郷)

         ぴっぴは毎週日曜日に教会堂のミサに参加している。今日もポッペンと祈りを捧げ、帰り道を二人で歩いている。 「どうです少しはおちつきますたか?」  ポッペンは悪戯小僧のように問いかける。ぴっぴは首を横に大きく振り、恨めしそうな顔でポッペンを見上げる。 「おじさんがずっとごきげんななめです。ポッペンさんがてれびのひとにはなしてからまいにちたいへんです。」 「まぁいいじゃないすか、今じゃぁ世界中でぴっぴさんの事知らない人はいないす。」  嬉しそうに話すとぴっぴの背中をポン

        • 暗闇のエーテル(第15章 灯台の光)

           ポッペンはぴっぴがヨルシュマイサーに会った事があるのを信じないわけではなかった。しかし、二千三百年前の人物と夢の中以外で会える方法を想像できるはずもなかった。  ポッペンは灯台までぴっぴを送った。竃の側まで来ると夕飯のニンニクスープを作っている灯台守の後ろ姿が目に入る。 「じゃぁ、わしは中でメカジキを捌いとりますんで。」  そういうとポッペンは灯台の中に入って行った。ぴっぴは灯台守の隣に行くとおいしそうなニンニクスープを覗き込み、ランタンの灯りで煙草に火をつけている灯

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        小説 暗闇のエーテル (目次ページ)

          暗闇のエーテル(第14章 科学館)

           ぴっぴが灯台に戻ってから一月が経った。朝、いつものように工房に向かおうとお昼ご飯のサンドウィッチを二つハンケチに包む。すると玄関の外で物音がする。ぴっぴは猫のように背筋をぴんとしたが、灯台守だろうと推測し、構わず支度を続ける。 コツコツ  扉を叩く音がする。どうやら灯台守ではないようだ。ぴっぴは扉に近づくとゆっくり押して開ける。そこには濁った青リンゴ色のスーツを着た、七三分けの中年男が立っていた。 「なんのごようですか。」  七三分けを生まれて初めて見たため男の職業

          暗闇のエーテル(第14章 科学館)

          暗闇のエーテル(第13章 ヨルシュマイサー)

           一年後、ぴっぴは燃料切れで動かなくなったラインマーカーを手で押しながら歩き続けている。  綿毛は三ヶ月ほどですっかり撒き終わり、ぺしゃんこになった麻袋には空のウォッカの瓶と募金箱、ぼろぼろになった地図が入っていた。 キコキコ…キコキコキ…  錆び止めを施していないマーカーは途中の雨風に晒され、すっかり錆び付いていた。車輪はがたつき、普通に歩くよりも時間がかかる。それでもぴっぴはマーカーにじっと視線を集中しながら歩いて行く。日が高くなると腰に痛みを感じた。体勢を起こし、

          暗闇のエーテル(第13章 ヨルシュマイサー)

          暗闇のエーテル(第12章 タンポポロード)

           ぴっぴは国道をラインマーカーに乗りながら進んで行く。 ポコンポコンポコンポコン…ポコンポコンポコンポコン…  早歩きの速度でラインマーカーは進み、通り過ぎた後には綿毛がホワホワと撒かれている。そうして大人しく土に埋まればよいが、大抵は風に乗ってそこらじゅうを自由に飛び交い舞い上がる。その様子を通勤中のサラリーマンや自転車に乗った人が不思議な顔で追い抜いて行く。 ポコンポコンポコンポコン…ポコンポコンポコンポコン…  小さい頃を思い出していた。 ポコンポコンポコンポ

          暗闇のエーテル(第12章 タンポポロード)

          暗闇のエーテル(第11章 環境保護団体)

           午前八時。大勢のサラリーマンがパン工場の製造機からベルトコンベアで運ばれるように規則正しく改札口を通過する。ぴっぴはシャティエン駅の待合室で寝ていたが拡声器の音で目が覚めた。 「街と街とを繋ぎましょう。殺伐としたこのコンクリートの街を、たんぽぽの花で繋ぎましょう!」  プラスティックの固い椅子ではよく眠れなかった。顔も洗わずに眠った為瞼は腫れ上がり、寝ぼけながら声の方に顔を向ける。 快晴。  冬の始めの澄みきった空気の日、ロータリーの地面は銀杏の葉が一面黄色い絨毯を

          暗闇のエーテル(第11章 環境保護団体)

          暗闇のエーテル(第10章 ミンボウ)

           ぴっぴはミンボウという言葉だけを頼りに歩いた。しかし何処にも見当たらない。相変わらず電飾が目に痛い。  とりあえず伯母に見つからない所まで小走りで移動した。一年以上部屋の中に篭りきりだった為久しぶりの外出に早くも疲れている。廃墟になった病院にある煉瓦の植え込みに腰掛け、少し休む事にした。  日が傾き夕闇が近づいている。ポケットからグニョグニョに折れ曲がったミンボウのチケットを取り出すと広げ、目を通す。 「おねぇさん。」  ふいに声をかけられた。ぴっぴが顔をあげるとオ

          暗闇のエーテル(第10章 ミンボウ)

          暗闇のエーテル(第9章 ネオシティ)

           ぴっぴと伯母は会話を一言も交わす事なく、電車を乗り継ぎ叔母の家へ向かう。場所はアカデミックシティから遠く離れたネオシティという場所にあり、その名は百年以上前につけられたものだった。  現在は治安が悪くコンクリートで出来た高層ビルの殆どが廃墟と化していた。辛うじて雨風をしのぐ程度の祖末な住まいで人々は生活している。街の殆どが貧困層であり、働き口もなく隣接するシャティエンという街まで出稼ぎに行っている。  ぴっぴは伯母の後ろについて歩いた。すれ違う住民は皆破れた服を継ぎもせ

          暗闇のエーテル(第9章 ネオシティ)

          暗闇のエーテル(第8章 病院)

           どのくらい眠っていただろう。目が覚めるとぴっぴはベッドにいた。真っ白な何もない空間。むっくり起き上がると腰に力が入らない。 (これはわるいゆめです。はやくここからにげださなくちゃ。)  ごろりと床に転げ落ちよちよち歩きで背中に嫌な汗をかきながらドアに向う。もたもたと病衣を引きずりドアまで辿り着くと 「…ない」  あるはずのドアノブがない。内側から開けられない構造になっている。ぴっぴは自分に起こった事が受け入れられず、その場に座りわんわん泣いた。 (こんなことなら、

          暗闇のエーテル(第8章 病院)

          暗闇のエーテル(第7章 アカデミックシティ)

          トンネルを抜けると眩しさで目の前が真っ白になった。 「んーまぶしいです…。」  ところが目が明るさに慣れても目の前は真っ白だった。 「あら?」  目をぐじぐじ擦って辺りを見回す。空を見上げると青空に白い壁が吸い込まれている。下を向くと地面はコンクリートだ。どうやここが夢の中ではない事は確かなようだ。ぴっぴは先頭にいるアンドリューの元へ駆け寄る。 「ここがアカデミックシティですか?」  アンドリューは顔をぴっぴに向けると頷き、壁沿いの遥か先を指差す。遠くに小さな小屋

          暗闇のエーテル(第7章 アカデミックシティ)

          暗闇のエーテル(第6章 シンコウ港)

           乗船から一月、ぴっぴは見廻りが来る時間には空になった飼料袋に隠れる生活を続けると、ついに船はアカデミックシティにほど近いシンコウ港に辿り着いた。  港には到着を待っていた整備士が船から降ろされたロープを手際よくビットに括りつけてゆく。ぴっぴとアンドリューは搭乗口で降りるタイミングを見計らっている。 「今からディが降りる木枠スロープが船に取り付けられるんだ。皆でディのお尻を棒で叩きながら船から降ろす。その間搭乗口は手薄になるからこっそり降りて検査室の裏で隠れていて。」

          暗闇のエーテル(第6章 シンコウ港)

          暗闇のエーテル(第5章 ディとヤポンスカ号)

           ぴっぴがファロスで生活を初めて半年が過ぎた。相変わらず昼は熱く夜は寒い生活を送りながらヨルシュマイサーと三つのフレネルレンズを完成させた。  いつものように朝ご飯を済ませ工房へ出掛けようとすると、灯台守がぴっぴに話しかける。 「そろそろ紅茶がなくなりそうだナ、今日オロッシャからの貨物船が到着するがオマエ、また紙に紅茶の名前を書いておけヨ。無線でとっておいてやる。」  ぴっぴははっとする。アカデミックシティに行こうとしてここへ来たことを思い出した。 (でも…おじさんと

          暗闇のエーテル(第5章 ディとヤポンスカ号)

          暗闇のエーテル(第4章 レンズ工房)

           目を覚ますとまだ薄暗かった。表が何やら騒がしい。もぞもぞと寝袋のジッパーを開け、様子を伺いに入口の扉を開ける。眠い目をこすりながらぐるりと灯台を半周して桟橋を眺めると大勢の人が蟻ほどの大きさで見えた。どこから現れたのか昨夜灯台のテラスから見た小型漁船の殆どに二、三人ずつ人が群がっている。女達は漁に使う網を積み、ビットに繋いであるロープを外している。  波止場には夜見えなかった大きな魚市場があった。ゴム長を履いた人々がフォークリフトを運転し、発泡スチロールの箱を運ぶなど慌た

          暗闇のエーテル(第4章 レンズ工房)

          暗闇のエーテル(第3章 ファロス灯台)

           古ぼけた灯台はケーキに乗っている砂糖菓子のように小さな三角屋根の小屋から生えていた。ぴっぴは少し離れたところから眺めている。 「ほぉー。」  そして呼吸を整えゆっくり扉の前まで歩くと背筋がぴんと緊張した。真っ直ぐ扉を見つめ、砂埃でカサカサになった声を無理矢理押し出した。 「ごめんくださぁい。」  辺りはしんと静まり返り、月は薄い雲の間を出たり入ったりしている。気が抜けてしょんぼり肩を落としたが、灯台の周りに誰かいるかもしれないと思い直し歩いてみることにする。  近

          暗闇のエーテル(第3章 ファロス灯台)