因果律

全て創作ですのでATフィールドは全開です

因果律

全て創作ですのでATフィールドは全開です

マガジン

  • 隙間

    息抜きで書いたような短い話をまとめるマガジンです。

  • 夜祭にて

    数年前に書いた小説を軽くリメイクして掲載しようと思います。 途中で投げ出すかもしれないです。

  • 温度

    2万字程度の小説をまとめたマガジンです。

最近の記事

消費されている

表現をする度に消費されてゆく。私が持っている過去を、苦悩を、幸福を表したそれらはよく咀嚼されることも無く飲み込まれる。その瞬間、私までもが無価値だと印を押されたように感じる。見て欲しいと両腕を広げた私を透過して、最初から何も無かったかのように、或いはそこにいたのねと形だけを認識して、すぐに初めから何も無かったことになる。だから、私自身がそれらに愛を与えなければならない。私と同じように、創り出されたそれらはひとりぼっちなのだろう。冬を越せるように、私が抱きしめてあげなければ

    • 人魚は月光の下で

       危機的な状況に置かれているにも関わらず、薄気味悪いほどに落ち着き払った深い色の瞳。それを覗けば、人魚が嘘をついていると確信を持つことなど容易かった。きっとこれまでもその美しい容姿で人間を魅了し、優しさにつけ込んで騙してきたのだろう。そう、大切な彼もまた、利用されている。きっと彼は気づいていないのだと思って、焦りを覚えた。彼は私に対して嘘を付くことなどしたことが無かったので、このような事態に巻き込まれていることに気がつかなかった。 「今からでも遅くないからもうやめなよ!ソイツ

        • 〘夢〙 うさぎ うさぎ ただ跳ねる 追うても得られぬ白うさぎ 惑う者には 道はない 落ちてゆけども 底はない 憂さ気に騙され 急がされ 向かう先には 首は無い

        消費されている

        マガジン

        • 隙間
          10本
        • 夜祭にて
          0本
        • 温度
          1本

        記事

          傷心はフィクションですか

          自傷行為が好き。どんな形にしろ自分を傷つけることは気持ちよくて仕方がなかった。いつもどんなときにも悲観的な考えをして、自分を哀れな存在にして、いわゆる悲劇のヒロインというものになり、分泌されるエンドルフィンに浸るのがたまらなく好きだった。傷口を作りそれに気づいてもらうという愚かしい行動をとったのもそれが理由だ。わかりやすく手首を隠し、「猫に引っかかれた」なんて嘘らしい嘘を並べて遊ぶのだ。だって知ってもらわなければ意味がないもの。小説だってアニメだってドラマだってみんなそうだ。

          傷心はフィクションですか

          明日きっと笑える

          ねぇ、全てどうでもよくなってしまうことってありませんか。今がまさにそれなのですが何をしてもうまくいかないし自分の信念なんてめちゃくちゃであるし日々を重ねて息をするたび化け物のように膨れ上がった自尊心がただただ傷つけられていくだけなのです。昨日の自分は恥ずかしい存在であるしきっと明日の僕にも嫌われるのは分かっていて、明日に意味なんてないと知るためだけの毎日を過ごしているわけであります。 「人間らしくないやら異端やら騒がれてるけど、当の本人の貴方はなんでそう思われてしまうのか不思

          明日きっと笑える

          あなたには分からない

          死んだも同然の毎日に嫌気がさした。だから、何年も前にできた傷跡をそっと指でなぞって、カサブタを剥がす。そうすると、まるで昨日できた傷かのように痛みが心を刺激する。 僕を見て!このキズを見て! 苦しんだ過去の形跡でしか自分を語ることの出来なくなってしまった僕は、ぐじゅぐじゅになった傷を誇示した。興味を示さなかった多くの人間には見え透いた程度の低い価値観しかなのだろうと冷酷さに判を押し、憐れみ寄り添ってきた人間には愛情を見いだした。 結果、僕の手には何も残らない。全ての感情が現実

          あなたには分からない

          無理

           思考することをやめてしまえばその場しのぎにはなるのだが、どうしたものか生きていくためのほんの少しの理由さえ同時に失ってしまうらしい。淡々とした日々に身を任せ、消し去れない欲のままに飯を食う。生命を存続させている。本能的には十分すぎる才ではあるのかもしれないが。  結局、堂々と胸を張るために間違えた道をわざと選択する決断力さえ持ち合わせていない僕は芯まで知った上で包んでくれる愛も親の仇かのように憎まれることもなく、ただ空気のようにそこに在るだけで、一人のまま終えていくのをひし

          落下

          下から見ないとわからない景色がある。落下する。心を知る。心がわからなかった自分を知る。社会を知る。そうやって少しずつ役立たずの精神になる。人を知るたびに死へ向かう。自分の治しようがない至らなさに気づくたびに愛から遠のく。おわりの見えない穴。誰も私が落ちていることに気がつかない。 死んでも何も起こらないのだよ。全てが無価値だ生も死も。敗者には楽しむ心が備わっていないからね。

          心がただの金になる

          鳥の鳴く声、草木の揺れる音、風のせせらぎ。音楽の始まりはそんなものだ。どこにでも有りふれている。僕が声を発さない限り何も聞こえないこの部屋ですら、音楽に包まれている。生活から逃げるように畳の上で蹲り会社を無断欠勤した僕を、休符が包んでいる。指が這うように動く。覚えている。88鍵の自由の中を好きなように踊ったあの時のことを。ストリートピアノを借りて音に心を委ねていたらいつの間にかそこに年老いたあなたが現れて、優しく声をかけてくれた。毎日のように来てくれたのにぱったりと来なくなっ

          心がただの金になる

          無題

           守りたいものがあるとき人は強くなると聞いたことがある。それを自身に重ね合わせたときに、果たしてそれは本当なのかと疑念を持った。そもそも人を愛することに自信がない時点で一般論とは乖離してしまうと思うけれど、「守りたい何か」を、「自己認識の中で守るべきという判断を置いた何か」に置き換えて考えたとして、守りたいものがあるから逃げられないから仕方なく、というような表現の方が正しいのではないかと考える。例えば、家庭を守りたいから仕事を頑張る。でもそれは実際に当人自体が強化され、仕事を

          はじめまして、さようなら

          脳髄が自分の口内で踊り始めてやっと、大切にしていた愛猫を食べてしまったことに気がついた。この子だけは食べないと誓っていたのに!けれども不思議と後悔はない。久々の猫の味に、これはこれでいいかもしれないと思っていた。その血肉がオレの身体を駆け回るということは、実質一緒にいることと同義では無いか!両手を濡らした体温を一滴残らず舐め回す。もしオレが死ぬならば、こうやって誰かに食べてもらいたいとすら思った。そうすればこの逃げ場のない寂寥感も消えるのだろう。それはある意味自分勝手な願いだ

          はじめまして、さようなら

          ひまわり

          そう、貴方が好きなのは私では無いのです。野に咲くひまわりのように、太陽の光を一身に浴びて育ったあの女。憎くて憎くてたまりません。私は彼女になれるでしょうか。貴方が好きというので、私も彼女が美しく見えてしまいました。それが、憎くてたまりません。それでも分かっているのです。私はありふれたたんぽぽのように、意地汚く根を張っている。必死に黄色を広げても、日陰では誰も見てくれはしないのです。彼女のように可憐に心を奪うには、種も育ちも違うのです。 私は悔しくてたまらなかった。私を見て!

          供花

          1  あるタクシーの運転手は、「雨の降る夜にずぶ濡れの女性客を乗せたのに、振り返ると後部座席には誰もいなくなっていた」と言う。そしてある中学生は、「学校の近くにあるビルの屋上から、同じ人が何度も投身を繰り返しているらしい」と噂する。それらは真偽も曖昧なまま本当にあった怖い話などと表され、世代を超えて多くの人に広まっていく。私自身も幼い頃は怪談を信じ、寝ている母を起こしてトイレへの付き添いを頼むほどに怖がっていた。そんなものはいないと言い切る友人もいたけれど、霊感がないから見

          初恋

          にゃあと短く鳴いてみても、答えるのは反響した自分の声だけだった。人間もあまり通らないこの山道で光る双眼に映るのは柔らかな死体。あたまが潰れている。ぼくが守れなかった、あたま。前あしが血濡れている。僕が守れなかった、あし。ちろりとアスファルトを舐めると温かな味がした。君の隣に寝そべると夜風が吹いて現実の匂いがする。ぼくを拒んでるみたいだね、リリー。 あの時ぼくは言った。一緒に遠くに行こうよ。美味しいご飯があったとしても窓の中じゃつまらないよね。どうして家の中にいるのに、そんなに