月の夜の共犯者 6.


車を走らせながら、僕は馨とのあの日を思い出していた。

その日、馨は夜遅くまでフロアに残っていた。

ひとり二人と社員が帰っても、
馨はずっと作業をしていた。

カタカタと社員に与えられたノートパソコンで何かを作業しているようだった。

「お疲れ様」

僕は缶コーヒーを手に、馨の近くまで寄った。

声を掛けた瞬間、ハッとした表情で僕を見返してきたけれど、
それは瞬時に消え去りいつもの優しい笑顔へと変わっていた。

「お疲れ様です。松井さんも残ってるんですか?お仕事ですか?」

「あ…うん。月末近いし報告書をうえにあげないといけないからね」

本当は保管車庫で会った馨の様子が少し気になったから、残っていたのだけれど

そんなことは言えず僕は嘘をついた。

「ごめん、邪魔したかな?すぐ行くね」
僕がその場を離れようとすると、馨はパソコンの蓋を閉じると慌てたように僕の袖を掴んだ。

身体中がカッと熱くなる。

「あ…ごめんなさい、松井さんにまだ居てほしくて」

その様子に何なんだこの呼び止め方はと、逆にイライラしてしまった。

他のやつにもそうやって期待持たせてるんじゃないのか

そんなことを考える自分に余計苛立ってしまった。そのことを見透かすように馨は、下を向き

「わたし…むかしから誤解されやすいんです。
咄嗟に出た行動が、相手を苛立たせてしまうことがあるみたいで…」と話し始めた。

「…いや、びっくりしたけど、嫌だとかそんなことはないんだ」

「松井さん、わたしの話し良かったら聴いてくれますか?」

馨は大きな目でじっと僕を見据え、僕がうなずくとゆっくりと話し始めた。

「松井さんはきっと口が硬いひとだと思うから、話しをするのですが…実はわたしは課長の坂城と付き合ってます。」と言った。

その途端、衝撃が背中を走る。

「あ…そうなんですね。坂城課長は仕事ができるひとだもんな。惚れてしまうのも分かる気がしますよ」

暫く間をあけたあと、馨は
「…はい、わたしも初めの頃はそう思っていました」と繋げた。

「初め…?」

「そう彼は営業に関しては恐ろしく、頭のキレるひとですが同時に自己顕示欲も承認欲求も高いひとなんです。

いつも…じぶんが1番でないと気がすまない。
そんなタイプの人間です」

そして、腕の袖をめくり昨日見てしまった紫の痣を見せてきた。

「…これ気づいてましたよね?」

どのくらい沈黙が続いたのか、僕は静かに

「はい…」と答えた。

「これは…家で課長に掴まれました」

僕はあまりにも衝撃的な出来事に言葉を失ってしまった。

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