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するどい目つきの勝又くんと、わたし4。

「勝又くんが好き」
自分のなかでそう意識をしてしまってから、わたしは今までのように気軽に勝又くんと接することが出来なくなってしまった。

いつものように「おはよー!」と、
屈託のない笑顔で話しかけられても、
意識するあまりぎこちなくなり、
「おは…よ」と返事するのが精一杯だった。
恥ずかしくてすぐにそっぽを向いてしまっていたわたしは、もしかしたら素っ気なく映っていたかもしれない。

彼が近づいて来るその足音や気配だけで、心臓が跳ね上がるほどドキドキしてしまう。
身体中がそわそわして、居てもたってもいられなかった。だから声をかけられると嬉しい反面、変に意識をしてしまうことでよけいに上手く目線を合わせることが出来なくなってしまっていた。

彼はそんなわたしの様子を見て、おかしいと思ったと思う。けれど意識すればするほど、自分ではどうすれば良いか分からなかった。

そんなある日、たまたま学校に来ていた勝又くんに「ちょっと良い?」と呼び出された。

放課後の誰もいなくなった教室で
「俺の勘違いやったらごめんなんやけど…なんか笹原、さいきん俺に対して素っ気なくない?俺なんかしたか?」

そう聞かれてやっぱり誤解されていると思った。

「べ、別にそんなことないけど…」

「そうか?でもそれやったら何で前みたいに、普通に喋ってくれへんの?」と聞いてきた。

俯くわたしの顔を覗き込まれるように見られているのが分かる。そう意識した途端カアァと顔が熱くなった。

これ以上近くに来られたら心臓がもたない。

「な、何でもないってばっ!!」とはぐらかすように目を瞑り強く言ってしまった。

すると勝又くんは、

「…そうか、そんな嫌なんやったらもうええわ。今まで色々迷惑をかけてごめんな」

違っ…慌てて顔を上げると、勝又くんは今までに見たこともないくらい傷ついた顔をしていた。

どうやって誤解を解こう?!
うまく言葉が出ずにしどろもどろしていると

「今までありがとー!笹原と話せて嬉しかった」と言って教室を出て行ってしまった。

その瞬間、わたしはしゃがみ込んでしまった。

違っちがうのに…。本当は今すぐ呼び止めて、抱きつきたいくらい好きなだけやのに。

何であんなこと言うてしもたんやろ。
勝又くんの気持ちを考えたら、こんなん拒絶されたと思われても仕方ないやん…

「わたしのバカ…」

きっと勝又くんを傷つけてしもた。

目からは大粒の涙が止まらなかった。


それから暫くの月日が経った。

笹原くんは相変わらず学校に来たり来なかったりしていたけれど、いままで通り話す機会はなくなってしまった。

7月になり、中間試験があった。
笹原くんは、ほとんど授業を受けていなかったのに成績は学年で2番目に良かった。

一生懸命勉強して、徹夜漬けで取り組んでもクラスで10番に入るかどうかのわたしとは全く違う結果だった。

「まじかよ…学年で二番とか勝又やべえな…」

廊下に貼られた結果を眺めながら、周りは口々に勝又くんの悪口を言い始めた。

「勝又あいつ学校に全然こーへん癖に、どないなってんねん?カンニングでもしてんのちゃうか?」

「どうせ家庭教師とか付けてるんやろ?!頑張ってる俺らがアホらしなってくるわ!!」

「まさか、先生恐喝して問題教えてもらってたりして…」

「笹原さんも前に勝又に絡まれてたけど、気をつけた方が良いよー」とも言われた。

このままじゃアカンと思った。自分がどう思われるかよりも、勝又くんが誤解される方が嫌だった。

「違っ、違うで!勝又くんはそんなひとちゃう!!勝又くんは、生まれつき目つきが鋭いだけで意地悪するようなひとちゃうねん」
気づいたら、考えるよりも先に震えるように言葉が先に飛び出していた。

言った途端に顔がカアァと真っ赤になる。

「え、どうしたん?え、笹原さんもしかして…」周囲がガヤガヤしてきたその時、

「笹原ちょっとええかー」と担任の宮下先生に呼ばれた。

「すまんな、急に呼び出して…」

そういって宮下先生は誰も使っていない視聴覚室にわたしを呼んだ。

「あいつとなんかあったんか…?」
先生はわたしのことを心配そうに眺めていた。
わたしが答えられずにいると、

「じつはな、こないだ家庭訪問に行って、
アイツの家庭事情を初めて知ったんや」

その言葉にハッとして思わず先生の顔を眺めてしまった。

「あいつの母ちゃん、若年性の認知症やってんなぁ…知らんかったわ。あまりにも、学校けーへんからアイツの家を訪ねて行ったら、部屋の中から腕まくりして料理してるアイツが出てきてビックリしてしもた。てっきりどっかで遊び歩いてると思うてたのに…悪いことしたと思ったわ」

「そう…なんですね」

先生の言葉から、勝又くんのお母さんは何か重い病気になってることが分かった。

「じつはなアイツのことはアイツが中学生の頃から知ってたんや。勝又はその頃から学校にはあんまりけーへんやつやったけど、成績だけはめっちゃ良くてな!しかもサッカーがめちゃくちゃ上手かったから、スポーツ推薦したろと思ってアイツの中学に行って話しをしたんよ。そしたらさ…」

「そしたら?」

「そしたら、アイツ開口一番定時制行きたい言い出しよってん。それでお前の成績やったら、どこでも行けるし何でもやれる…やのになんでや?!って熱なってしもた。」

「勝又くんは、そのときお母さんの話しはされなかったんですね…」

「せや、アイツはだんまりのままやった。やからこの高校入ってきてくれたとき、めちゃくちゃ嬉しかったんや」と宮下先生は微笑んだ。

「笹原、アイツのあんな無邪気な笑顔をみたのはほんま初めてやったんや。笹原が嫌じゃなければ、アイツとこれからも仲良くしたってくれ。これは担任と言うより俺こじんからのお願いや!」と言われた。


その夜ベッドに入りながら、わたしはずっと考え事をしていた。

わたしが勝又くんの立場やったら、おんなじことが出来る?

「きっと出来ひんと思う」素直にそう思った。毎日家のことをして、お母さんの看病もして…

だけど好きになったのは、そこじゃなかった。

いつも朗らかで屈託のないクシャッとした笑顔で笑うところが堪らなく好きだった。

次、勝又くんに会ったらどう言おう…

そうしてるうちに、夜は更けていった。

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