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目つきのするどい勝又くんと、わたし7

勝又くんと会ってからまもなく、長い夏休みが始まった。
本当なら高校生活初めての夏休みは楽しくて仕方がないはずなのに、わたしは逆に憂鬱で仕方なかった。
理由は簡単なことで夏休みのふとした瞬間に勝又くんのことを思い出していたからだ。
「元気やったか?」
目を閉じるとわたしの目の前にはすぐに、屈託のない笑顔で話し始める彼のすがたが浮かんできた。そして勝又くんとかわした会話を思い出してはいつの間にか胸が熱くなっていた。

自分ではどうにも出来ない気持ちをまえに「いま頃どうしてるのかなぁ…」とソワソワした気持ちで過ごした。
恋をするのがこんなに甘くて切ないものだということを初めて体験していたわたしは、夏休みが終わるのが待ち遠しくて仕方なかった。
約1ヶ月間の夏休みがとてつもなく長く感じられてほんとうに勝又くんに逢いたくて堪らなかった。
新学期になれば、きっとまた逢えるかも知れない…と淡い期待を抱きながら夏休みの終わりを待っていた。
登校しだしてから暫くは、
「今日は会えるかな?」
「今日は学校に来るかな?」とドキドキしながら待っていたけれど、新学期になっても勝又くんはあいかわらず学校には姿を見せなかった。それどころか日が経つに連れ勝又くんの姿を学校で見ることはますます少なくなった。
そうこうしているうちに夏もすっかり終わり、季節はすっかり秋になった。
9月も末になると学校では文化祭の準備が始まっていた。高校生活初めての文化祭ということもあってか、ザワザワと皆んなの気持ちは浮き足立ちそして賑わっていた。その頃にはほとんど勝又くんの話題が出ることはなくなっていた。まるで初めからそこに勝又くんは存在しなかったかのように皆の口から勝又くんの名前を聴くことはなくなってしまった。

勝又くんの悪口を聴くのが辛かったわたしは、その様子をみて少しだけホッとしたけれど、
教室のなかから消えてしまった勝又くんの存在がとても寂しかった。

そんなある日のこと、
わたしは担任の宮下先生から呼び出しをもらって自分の教室に残っていた。

冬が近づいているためか、日の入りが早くなってきているのかもしれない。
西陽が差し込む教室で「何の話やろう」とソワソワしていた。

「待たせて悪かったな!ちょっと会議が長引いてな」
そう言った先生はどことなく疲れている気がした。

「いえ、大丈夫です、それより先生今日はどうされたんですか?」と聞くと

「実はさっき勝又から学校に連絡があって、
勝又の母親が倒れて大変らしい。学校にはもうこられへんって言うてた」

「え…こられへんって…どう言うことですか?」

「詳しいことは正直分からん。ただ、アイツが珍しく焦ってたことだけは確かや」

「そんな…もう勝又くんには会えないんですか?」

すると先生はわたしを見つめてこう言った。

「…笹原、いまから言うことをひとりの意見として聞いてくれるか?」

そうして宮下先生は静かに話し始めた。

「笹原、お前は入学当初どこか自信なさげで引っ込み思案なとこがあったな。あの頃の笹原を見てるとクラスに馴染めるのか心配やったりもしてた。やけど…勝又がお前に懐き始めてから、お前には何か人の気持ちを惹きつける優しさみたいなものがあると思った。

勝又はきっと小さな頃から、その外見で嫌な思いもいっぱいしてきたと思う。でも笹原といるときだけはアイツ、まるで小さな子どものように無邪気に笑ってたよ。

きっといま、アイツの力になれるのは笹原お前しかいない。助けてやってくれないか」

先生が言葉を言い終えるのを待って、

「先生っ、わたし勝又くんのことが好きやから、だから出来るだけのことはしてみます!」

と叫んでわたしは教室を飛び出した。


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