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オンライン飲み会

夜の8時、月が空高く登った晩に俺はパソコンの前にいた。
目の前にチューハイとつまみを用意して、
アプリをタップする。
するとトゥルル…タタタタンと発信音がきこえてきた。

Skypeを開くなんて、何年ぶりだろう。
大学生の頃、地元で付き合ってた彼女と遠距離になって使ったとき以来なんじゃないんか?

「おう久しぶり!」
暫くするとピーという小さな雑音と共に、
向こうから声が聞こえてきた。

「ほんと久しぶりな気がするな!篤は繋がってる?」
「おぅ、少し時間差があるけど繋がってるで」少し間があって向こうのカメラをオンにしたのか、篤の顔がドアップで映った。
寝癖なのか髪の毛がボサボサのままだ。

その様子に思わず笑いそうになるのを堪えながら「雅治は?」と尋ねた。
するとガチャガチャと音がして、
「久しぶり!こっちは問題なしや!」と声が聞こえた。

画面越しに映る2人の様子を見ながら、
レモンサワーの缶チューハイのプルタブを開けた。プシュッと気泡が抜けた音がする。

「2人とも元気そうで何よりや!けどまさか、オンライン飲み会する時代がくるとはなぁ」
そう言いながら、胡座をかきグビグビと冷えたレモンサワーを一気に喉に流し込んだ。

「ほんとだよな、ほんとなら篤の結婚祝いも兼ねて盛大に飲み会する予定だったのにな」
雅治がSkypeの向こう側から話しかけてきた。

「まぁ、こんな時期だししゃぁないよ。ことキンライナーも延長やめたらしいしな!」
篤が旨そうにビールを飲みながら、答えた。

「まじか、地下鉄の延長なくなったら、ウチら帰れへんやん」

篤と雅治がやり取りしてるのを聞いて、
飲み会に合わせて毎週金曜日終電の時間を30分延長してくれてた《ことキンライナー》が止まってることは初めて知った。

「せやろ、やからこれはもう家に居なさいって言うことやと思うしかないわ。ちなみに貴史のとこは?仕事どうなん?大学生協勤めてるんやったら今頃忙しいやろ?」
と篤は俺に聞いてきた。


「それがさ、肝心の学生が休校になってしまってて、誰もこないんよ。
はんまやったら学生の子たちの対応で、今頃大忙しなんやけど、大学が休講になってしまった影響も大きいわ」と答えた。

それを聞いていた篤が柿ピーをつまみながら

「まぁそらそうかもしれんなー。
これだけコロナが流行ってたら、嫌でも影響出ると思うわ。
うちの会社も営業は基本在宅勤務やで。
事務の子だけが会社に出勤してるわ」と言った。

どこも同じなんやなぁと思いながら、
聞いていると雅治が

「え、でも確か篤の彼女の昌美ちゃんって事務じゃなかった?やばいんちゃうん?公共機関使って行ってんの?」と驚いて尋ねた。

「あぁそこらへんは時間差勤務になってるから大丈夫みたいやわ。あいつ10時からの出社に変更なってるみたいやしな」と篤は答えた。

「それなら良かったわ。通勤自体も結構混み合うからな」

「ほんまやな。それはアイツも気にして乗る電車をわざとずらすようにしてるみたい。
けどマジで変な世の中になったよなぁ。俺ら去年の忘年会でまた来年!今度は昌美も呼んで飲み会なって言ったばっかりやったのに・・。その頃はまさかこんな事態になるなんて思いも寄らなかったよな」

篤はどうやら開けていた1本目のビールを飲み終えたようだった。俺は昌美ちゃんが楽しみにしてたんじゃないかと思い

「昌美ちゃん残念がってたんちゃう?大丈夫やった?」と聞いた。

「まぁ、すこしは残念がってたけど
また落ち着いたら行きましょーって言ってたわ!よろしく伝えといてって」 

「さすが昌美ちゃんやな!あの子はホンマに気が利くええ子やと思うわ」と伝えた。
「あいつそういうの嬉しいと思うし、また伝えとくわ!ありがとう!」とそれを聞いた篤は嬉しがっていた。

この2人は本当に相手の喜びを自分のことのように感じるいい関係なんやなとあらためて思った。
「今はとりあえず一人ひとりが出来ることをしようってことなんやろな」
雅治がそういうと篤が
「うん・・それでな、6月に予定してた結婚式のことやねんけどな、昌美と話し合って一旦延期にしようかってことになってん」

「え・・そうなん?」
俺らはびっくりして聞き返してしまった。

「せやねん、もともと昌美のおばあちゃんが楽しみにしてるって聞いてたし・・今のこの時期に皆んな集まってもし移したらあかんやろ?せやし、今回は延期ってことにさせてほしいねん」

少し間があったのち、雅治が明るい様子で話し出した。

「俺ら学生のときからやから、もう10年近くつるんでるよな。篤から昌美ちゃん紹介されたときのこと昨日みたいに思い出すわ。きっと二人でたくさん話し合って決めたことなんやと思う。二人がいいタイミングでしてくれたら大丈夫やで」

「その通りや、篤たちが良いようにするのが1番やと思う。俺も雅治と同じ意見やし気にすんなよ」と言った。

「いまはコロナの影響で、身近に友達や恋人を感じにくいと思うんや。だけど、いつか必ずこの真っ暗なトンネルが明けるときはくるから、そのときはお前ら二人ともまた声かけてくれたら嬉しいわ」

そう言った篤の顔は、どこか切なくだけどしっかり前を向いて、俺らに話してくれたことが伝わってきた。


画面越しに、どうか二人が笑って式をいつか必ず迎えてほしい…そう強く思った。
窓越しから覗く今夜の月は、いつもより少し滲んでみえた。





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