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文部科学省「大学入試のあり方に関する検討会議」(第10回)議事概要 6月26日(金)

1. 外部有識者・団体からのヒアリング
【林 佳世子(東京外国語大学 学長)】

・東京外大は2019年度から一般選抜の英語試験にスピーキングテストを導入しており、その紹介を中心に報告する。
・常に世界と日本を結ぶ人材の育成ということに努めている。そのような出口に向けて、様々な文化的背景を持つ人々とともに働き、地球的な課題に取り組む意欲にあふれた人を求める、ということをアドミッションポリシーの基本としている。外国語の出題方針は、学習指導要領に則り、英語4技能を統合的に活用できるコミュニケーション能力を前提とした総合的な問題を問い、受信した内容を思考・判断し、英語や日本語で発信する表現力ということを核にしている。世界と日本を結ぶ人材になるには、世界の人々とともに働き、地球的な課題に取り組む意欲が必要だと考ており、それを測るには、4技能を統合的に活用できるコミュニケーション能力を身につけているかどうかで判定する方針を立てている。
・スピーキングテストを従来から非常に重要だと考えていた。2019年度入試から英語スピーキングテストを開始し、その年に新設された国際日本学部の入試で活用した。国際日本学部は、3つの学部があるうちの一つで、定員は留学生30名を含めて全体で75名。うち35名を選抜する前期日程試験において、このスピーキングテストを2年間実施。2021年2月に全学部の受験生2000名を対象にスピーキングテストを行う予定で準備。昨今のコロナの影響で、口頭発言を伴う試験に対して懸念があり1年延期し、次の試験は過去2年と同様に国際日本学部のみ実施することを決定し2週間ぐらい前に発表したところである。
・全学的に現実的な課題としてスピーキングテストの実現に向けて動き出したのは2014年度から。学内にWGを立ち上げ、英語スピーキングテストの具体的な課題について検討に入った。独自に実施ができないかも検討したが文系単科の大学でシステム的な開発を行うことは難しいと判断。外部のシステムと一緒にやる、あるいは利用するといった方向で検討を進めた。複数の候補を挙げ話合いの機会などを持ち,そのプロセスの中で、British Councilとの共同開発の話がまとまり2017年の12月に協定を結んだ。協定に至った理由は、British Council開発の試験がローカライゼーション可能でそれを応用することで大学入試などに導入することは適切だと考えたから。また、一般選抜と同じ日に同じ会場で実施することが可能だと分かった。また、他の外部試験と異なりスピーキングテストだけを取り出して行うため経済的負担も最小限で済むという見込みもあった。British Councilがイギリスの公的な組織であり、非営利団体である点も交渉相手として適切であった。その後,ローカライゼーションの枠組みに従って、スピーキングを取り出して入試に適した別問題として開発するということをBritish Councilとともに作業を行った。BCT-Sと名づけてている。
・BCT-Sの問題は4つのパーツから構成されており、問題が進むごとに難易度が上がる。具体的な作題は東京外国語大学側で実施しており、学習指導要領に沿った作題や日本の大学入試に適切な問題の作成が可能。特別な体験がないと答えられないといった不公平がないようにということも配慮。東京外国語大学側が作題に当たることで受験生に確認したい内容を的確に判断できる。
・試験を行った後の採点はBritish Council側によって行われる。British Councilは世界の60か国に在住する。定期的に訓練を受けた採点者を擁している。採点者は英語教授歴を持ち、学士以上の資格を持ちといった要件がある方。採点基準はテクニカルレポートとして公開されていて、チェックする観点というのは非常に明確に定義されており、それにより採点のぶれが防がれている。また、上級採点官によるチェック、あるいは統計的な処理、モニタリング等で採点の質が保証され、確保されている。4つの問題は、問題ごとに別々の採点官により採点される。実施から2日で全採点が届くという形になっている。データ管理についても細心の注意が払われている。
・この経験を踏まえて3点ほどお話ししたい。
① スピーキングテストは英語力をトータルに見る上で非常に重要なものだと結論づけたい。スピーキングの結果は、ほかの技能のテスト結果と必ずしも一致するものではない。4技能トータルで入試で問うということの重要性は高いと考えている。
② 技術的な問題が伴うのは当然のこと。ICTの活用が不可欠であり相当な準備が必要だと言える。個々の大学が単独で安全に確実に行うには確かに非常に難しい問題が多々ある。BCT-Sは他大学も各大学に即した問題設備に変えることで応用可能と考える。
③ スピーキングテストを共通テストの一環として実施すべく、大学入試センターが作題するというようなことが本当に上がってきた場合は,自分たちだけで実施することは得策ではないのではないか。技能としての英語力を問うのであれば、例えば日本政府と英語圏の政府が協力して試験開発をするといった方法が望ましいのではないか。アフターコロナ時代の教育を考えると、今後は国際協力の下で制度設計をしていく必要があるのではないかなと感想として思う。

≪意見交換≫
・2,000人対象に実施を予定されている話でタブレットで一斉に実施するのを想定しておられるのか。技術的なことをお伺いしたい。(柴田委員)
→再来年度からの2,000人の実施についてはタブレットを予定。2019年度、20年度は、学内のコンピュータールームを使い、入れ替え制(2回)で、学生同士が接触しないような時間配分など配慮して実施。(林先生)

・実際には50万人を対象とする共通テストの実施可能性が気になる点。(同一世代の半分の人間が大学に進学する現状の中で50万人レベルで)例えばタブレットを用意して12分のスピーキングテストを実施することは費用対効果も含めて、少し疑問。一定の見通しを兼ねて御意見をお伺いしたい。もう一点は、入学後、英語の運用能力の向上に力を込めて教育をしているのであれば入試の中で本当にそれは測らねばならない能力なのかどうか。(芝井委員)
→実現可能性について思いも寄らぬ技術の発展というのはあるのではないか。British Councilから聞いた話では例えば中国で、日本とは桁違いの数を実施するという話が進んでいた。スマートフォンを使用し、デバイスはそれを使って行うといったことが現実的な検討の課題に上がっていると伺った。大学側あるいは入試センターが用意した機材を使わなくてもよい時代というのは来るのかもしれない。そういう展開と連動して考えていくべきなのではないか。入学後でもいいのではないかという意見は伺う。大学それぞれの特性だと考える。東京外国語大学では入学後のミスマッチを防ぐという意味でも、積極的に発話することに対して抵抗感のない、「外国の人と話したい」といった学生さんを求めている。そういう意味で、スピーキング力に現れてくる能力というのは見るべきもの。やはり大学ごとのアドミッションポリシーによるのではないか。(林先生)

【羽藤由美(京都工芸繊維大学教授)】
・英語4技能の統合育成と言語テスト全般へのスピーキングテスト導入を支持する立場を前提に、コンピューター方式やテレビ電話方式のスピーキングテストを開発・運営してきた実績に基づいて情報共有したい。一般的な外国語の指導や評価からスピーキングを除外する理由はない。
・重要なのは、スピーキング導入の費用対効果を見極めること。費用対効果の見極めを最終的な目標として、2012年からスピーキングテストの開発・運営に携わってきた。京都工芸繊維大学のスピーキングテストは自前のもので企業との共同研究により、独自のCBT実施システムやオンライン採点システムを構築し、予算の支援を得て、2014年度から学部の1年生全員を対象にテストの運営を開始。2015年度からは英語の必修科目の学年末試験として運用。2017年からはAO入試のグローバル枠で、同じ仕様のテストが使われている。
・実際に目の当たりにしたものは、コストを下げるための技術開発をするよりは、むしろテスト業者に求められる最低限の質の保証さえ投げ出して、それを隠そうともしない民間試験の姿。採点の信頼性を担保するには、高度の専門知識と経験が必要。
・標準化テストのスコアは、物差しのようにしっかりしたものではない。そのスコアで、ある意味、人生をかけた競争をさせるような場合には、質の高い、信頼性の高いテストを使わなければ、受験生や保護者、教員など、ステークホルダーの納得感を得ることはできない。当該テストの限界を超えた利用をすると、結果が信用されなくなり、制度自体が崩壊することもあり得る。
・共有させていただきたい情報(結論)は
1. テストの品質維持・向上や公正・公平な試験運営と民間試験事業者の利潤の間には必然的なトレードオフがあるので固定数の(必然的に減少する)受験者を複数の事業者に奪い合わせる形で民間試験を利用するとステークホルダー(受験生、保護者、教員等)の納得感を得られる入学者選抜ができない。→ 制度破綻の可能性
2. 個々の大学単独で(たとえば個別入試に)スピーキングテストを導入することは、特例を除いてほぼ不可能
3. 今後のAIの発展などを見据えて、産学の協働で、米国のETSや英国のCambridge Assessmentのようなテスティングエージェンシーを作ることも可能。→ やるなら本気で。
4. これまでの「英語教育改革」は手段(民間試験の成績向上や利用推進、「英語の授業は英語で」など)が目的化しており、本来の目的達成(英語能力向上)につながりにくい。→ リソースの有効利用、集中投下を。
5. あえて2025年度入試から4技能評価を導入するなら、CEFRはしばらく棚上げして、教師が普段の授業を通して生徒の能力を実感し相対化できるような状況に、指導の現場を近づけていく方法を考えた方がよい。
・結論ありきではなく、専門知を結集して、本気の議論を通して最適解を求めるような方針決定をしてほしい。

≪意見交換≫

・小学校から高校まで英語を積み上げてきている状況。そもそも大学に入るときの英語の能力を入試でやらねばいけないのか、もっと客観的な指標があれば,高校卒業等で評価をしたものを使ったほうが,よいのではないか。その標準のことがきちっと決まっていれば、比較ができるのではないかと思っているが、いかがか。特にスピーキングについては。(岡委員)
→中学の段階では今までのように,学習者の中に英語の能力を育てるというようなアプローチであって、高校の辺りから、その進路を、英語に対するアプローチを変えるというようなことも選択の余地がある。英語教育に対して、大学出てもしゃべれない人もいれば,論文が読めればいいというような、ここまで世論が割れてくるようなことがあるならば、そういうことも考えてもいい。(羽藤先生)
・一斉に共通テストの中にスピーキングテストのようなものを入れるということの可能性についてどのようにお考えか(渡辺委員)
→今TOEFLがやっているような形で、複数回受験をするのであれば可能。今の共通テストの最後につけてスピーキングをやるのは、かなり技術の開発が進まないと難しい。(羽藤先生)

【川嶋太津夫(大阪大学 教授)】
・欧米主要国の入試制度について、高校卒業を大学入学資格にしている国と、何らかの後期中等教育の出口での評価を大学入学資格にしている国と、大きく2つに区分できる。
・英国、フランス、ドイツといった国々は、後期中等教育が歴史的には文系型と言われていた。大学進学を目的とするルート、それから実社会にすぐ就職する、出ていく生徒のルート、幾つかに分かれていた。後期中等教育で大学に入るための予備教育を受けるというような教育システムを持っていた国、このような国では後期中等教育で何がしかの出口での評価。この評価をもって大学入学を可とするという国々がある。
他方、必ずしもそういうような中等教育の仕組みを持っていない国々があり日本やアメリカや韓国が該当する。改めて高校卒業した人に対して、各大学が、大学で学ぶために必要な能力を身につけているかどうかを確認するということで、入学試験を実施する。
・どちらのパターンも現在は高等教育、後期中等教育の進学者がほぼ普遍化するにつれて、大学、高等教育に進学する者も増えており幾つかの課題が出てきている。
・アメリカの大学入学者選抜も、もともとは個別の大学が入試をしていたというところもあるが、現在では、いわゆる日本の大学のように個々の大学が試験を実施しているということはない。選抜に当たっての評価基準、評価の仕方については、一定の高校での成績と共通テストの成績がよければ、合格とするフォーミュラ方式と、標準化、SATやACTのテストに加えて様々な観点から総合的に評価するHolistic Reviewという2つの方式に分かれている。5月1日までに志願者は複数の大学の中から最終的に進学する大学を選ぶというスケジュールになっている。特色として
1. 大学共通のウェブ出願システムがある。
2. 入試や進路指導に関する専門家集団がいる。
3. これまでSATやACTの成績を出願の際に提出すること
を要件としていたが、近年は、これを求めないという大学が非常に増えている。理由は、標準化テストが非常に社会的、文化的、経済的にバイアスがかかっており、入学後の成績の予測力がそれほど高くないということなどが理由。様々な要素を総合的に勘案して評価するHolistic評価は非常にたくさんの観点から志願者一人一人を評価するということになっている。
・イギリスでは大学進学のためには後期中等教育修了時に実施されるAレベル試験を、普通は3科目受験し、その結果と内申書や志望理由書、推薦書を併せて大学に提出する。この際重要なのは各大学の選考がこのAレベル試験のどの科目で、どれだけの成績を取ってきなさいということをあらかじめ指示している。アドミッションポリシーでそれを示すということになっており共通出願プラットフォームを通じ出願できる。オックスフォードとケンブリッジの両方に出願することは不可。アメリカ同様一人一人の文脈を考慮しながら最終的に評価をしている。
・フランスは後期中等教育修了時にバカロレア試験を受けることによって大学進学が決まる。バカロレアというのは一つの社会の中で認知された資格、クオリフィケーション。フランスの現状は,バカロレア取得者が非常に増えている。大学進学者、高等教育進学者が非常に急増している一方で、退学者、中退者も非常に多い。大学進学、高等教育志願者が増えたため、フランスでは志願者と大学をマッチングするプラットフォームを2009年から導入した。これはAddmission Post-Bacというもの。アルゴリズムが志願者と大学の要件をマッチングすると言われており、定員が応募者よりも少ない場合はその志願者の出身大学、家庭状況を優先順位で第1志望か第2志望かで順位づけしていると言われている。マクロン大統領の政権になって新しいマッチングのプラットフォーム、「パルクールシュップ」というものを導入。可能な限り高大接続を充実させようという観点から大学側が提供する様々な情報と志願者から出す様々な情報、これをうまくマッチングさせる。2019年から開始され志願者の92%がどこかの大学から入学許可をもらった。
・ドイツはギムナジウム出身者が主に大学へ進学していたが、最近ではギムナジウム以外の総合制学校や、それ以外の実科学校等からも大学や高等教育機関に進学することが可能。進学状況は、フランス同様、非常に高等教育への進学者は増えているが、必ずしも現在はアビツーア取得者だけが大学に進学するという現状ではない。
・結論から言うと、どの国でも、最終試験や入試、入学試験に加えて内申書を重視する方向性に向かっているのではないか。特にフランスでは、バカロレアで決まっていた出口の試験の中に内申点を導入していこうという方向に変わってきている。

【小川 佳万(広島大学 教授)】
・中国では共通試験を行っており、その共通試験では記述問題を使っている。その記述問題がどうなっているのかを報告する。多くの東アジアの国は、従来型の共通試験にくわえて内申書等も含めて測っていこうということになっている。現在でも中国は、ほぼ一発勝負の筆記試験だけで選抜している。
・中国の大学入試のポイントは、統一試験は行うが、募集単位は省ごとに定員を割り振る形態を取っていること。つまり,受験者から見ると、省の中の受験生と戦っているということになる。日本でいえば、ある大学の教育学部が何人かの募集をしたとして、それを東京や大阪や広島に分けて、人数を配分して受験させている状況が中国。通常、試験は6月の上旬に行われる。2週間後に、統一試験の成績が開示され、それとともにボーダーラインというのが発表される。その後,一期校、二期校、三期校という形で大学がグルーピングされており、グルーピングされたところに応募しても良い最低限のボーダーラインが発表される。7月の上旬までに出願するということになり全てコンピューターで出願する。各期校ごとの発表で、決まればそれで終わりということになる。
・基本的には、各省が募集単位で自由にやっていいということが基本的な原則。究極のところ、各31省が、それぞれ別の問題で、試験科目でやってもいいことになる。実際に各省独自でやっている省は北京、天津、江蘇、上海等。そうはいっても作問は大変なため、大学入試センターのような教育部で全国巻Ⅰ,Ⅱ,Ⅲという3種類の共通試験の問題をつくっていて3種類の中から各省は好きなものを選んでいいということになっている。
・特に中国的に特徴だと言えるのは記述問題の最後、作文がある。作文は800字以上、日本語でいえば2,000字ぐらいのものを求めている。
・採点方法について、記述はどうなっているのかについては公式的な説明はなく基本的には公開されていないが、新聞から拾ってみた。四川省は、規模的にいえば日本と同規模で1億人弱の人口で53万人が受験している。採点の期間は11日で行っている。採点者数は4,000人。他の省はほとんど同じで、採点は、約半分が高校の先生、約半分が大学の先生。基本的な採点は、ほとんど高校教員がやっている。大学教員は配点基準を示したり、点数が割れたりしたときの3人目、4人目の採点者に大学の先生が入る。
・記述部分で10字以内や15字以内などで回答する問題は、採点者1人当たり1万2,000答案を7日間で採点するということが書いてあった。つまり、1日8時間なので56時間で仕上げる。採点者1人当たり1時間に214答案を採点する。一答案が17秒程度ということ。
・共通テストに関しての管理・運営は高校でも大学でもなく省の教育局にある、いわゆる入試センターに相当するところが管理・運営をしており、受験生の管理や点数の管理や大学への得点を通知する等の業務を実施。
・試験問題は教師がつくっている。全国問題のため全国から教師は呼ばれている。はっきりしているのは、試験会場は高校で実施。大学は使わない。韓国も同様。台湾でも基本的に高校。基本的に大学入試は、やや高校のほうの範疇に入る。採点も基本的には高校の先生。
・なぜ高校の先生がやるかというと、基本的に大学入試の内容は、高校の教育課程の内容を問うているわけだから、そのことを毎日教えていて、指導していて、こういう作文を書けと言っているような先生のほうが、採点が正確に早くできるだろうということ。
・その後、結果が出てきて最終的な合否判定は大学側が、募集人員など分けており、各省からデータが来たあとで合格決定は大学側がしている。
・英語の入試は今まで一発勝負のところを、年に2回やるように変わってきており一部の省は既に数年前から始めている。いいほうの成績を取る。外部試験ではなく教育部で作成した問題を活用している。

【山本以和子(京都工芸繊維大学 教授)】

・韓国の入試と聞けば非常に激しい受験戦争のほうを思い出す方も多い。背景として輸出依存の経済がある。15歳から29歳の青年失業率が非常に高い。そういった中で大学入試は、その後の人生を左右する大きなイベントであり、政権が替わるたびに少しずつ入試制度が変化する特徴がある。
・三不政策というのがあり1999年度に導入されて以降,韓国の大学入試の根幹をなす原則。この政策は、高等教育へのアクセスの公正性を確保するということが目的。
・韓国では日本のセンター試験にあたる大学修学能力試験(修能試験)で学力を測定し、教科・学力面の合否判定はそこで行われる。個別大学での試験といったものは基本的になく禁止をしている。次に、高等学校間に存在する学力レベルの差の区別、それから寄附を見返りとしての入学の許可、これら3つを禁ずるものが三不政策。そのような背景の下、NEAT、国家英語能力評価試験の開発に取り組んだ。ヒアリング、リーディング中心の理解能力からスピーキング、ライティングの表現能力を育む英語教育の転換を目指した。
・NEAT開発の経緯として、2006年に英語教育のための革新計画を発表。2001年当時、韓国人の英語スピーキング力が108か国中105位という結果で、その順位から脱却するため、10年以内に100%英語で授業を実施することを目指し優秀な英語教師の確保とスピーキング、ライティング教育の強化、英語教育のインフラの拡充、この3つの方策を打ち出した。2006年、TOEFLのスコアの利用者が滑り込み受験のために、受験回数を増やす動きをした。海外資本に英語教育が引きずられることを危惧し政権は2007年にNEATの開発基本計画を公表。政権が替わり、実用的英語スキルを重視した新しい国家英語能力試験の導入を表明。2009年度からはフィールドテストを実施。その中で2010年にはNEATを2013年度の募集で活用するといったことを発表。
・NEATの企画目的は学校で英語コミュニケーション力をつけること。2009年から11年のテストの開発時期では、プレテストを計7回実施をした。13年度から修能試験と併設実施をして、15年は修能試験での英語を廃止してNEATに完全移行する計画であった。朴槿恵政権は施政方針にのっとって、大学入試制度簡素化法案を公表。その中でシステム運用が難しいこと、またNEATという新しい試験が導入されれば、学校外教育機関を誘発する可能性もあるという理由から修能試験の英語からNEAT英語の代替はなしということを発表。その後、社会人用のNEATのみを残して開発の継続を試みたが、既存の英語試験を超えるメリットがNEATには見当たらないということで、企業の活用もなく、NEAT事業は結局廃止。
・NEATの課題としてスピーキングとライティングをどう教えればいいかと教育現場は混乱している。韓国では受け身な理解能力を養成していたが主体的に関わって表現しなければならなくなった。こういった授業にどれだけの生徒がついていけるのか。また、どのように評価するのか。必要なツールや人員配置もなく、こういう授業をしたことがないという点で問題となった。さらに英語教員の業務量も増え、人事をどう設計するかといったような学校の組織管理面も問題になった。
システム面もトラブルの可能性は否定できない。修能試験では使用する鉛筆までも決まったものが配付される公平性、公正性を非常に強く求める国でシステムトラブルが発生することは決して許されることではない。システムの運用費が年間約30億ウォンかかるため試験を有料化する必要があった。ほかに学校でスピーキング、ライティングの指導が十分に行われないということで英語塾が乱立した。
・NEATの廃止以降は韓国内でもプロセス重視の重要度が高まっている。大学入試に調査書が反映されることで、英語学習方法の変化も呼んだと言われている。
・そもそもNEATの目的は学校の英語の授業を意思疎通中心に改善すること。そういった点から見ると目的の方向に向かっていると評価できるかと思う。
しかし、意思疎通ができるような英語能力のためには、学校教育以外にも個人的な努力が並行されているという実態がある。こういった状況に教育部は、これまでの相対評価体制で結局1点を巡るような過度な学習負担等につながったと指摘をして、その解消のために、2018年度から修能試験の英語では絶対評価を導入している。現在は議論が絶対評価のほうに移っている状況。

【原 真里(兵庫県立大学附属高等学校 2年(あすのば推薦))】
・大学入試について高校2 年生の状況や考えを知っていただきたい。
① 今後も、今日のこの会議のように高校生の意見を聞いて考えていただくことを大切にしていただきたい。今回の会議に当たり、友人や先生に簡単なアンケート調査を行った結果、この議題に対して、私自身も含め、周りの高校生はひどく混乱している状況だった。去年、大学入試に英語民間試験や記述式テストを導入するという話を突然聞かされ戸惑った。入試の方針を世間に公表する前に、あらゆる問題点などを予想して対策を取り、様々な面から考慮してほしい。公表の際は、問題点がこれ以上ないか、またあったとしても,きちんと対策が取れているかをしっかり確認してから公表してほしい。
② 英語民間試験について、アンケート結果では英語民間試験の導入はあまりよく思われていないことが分かった。理由として主に金銭面や地域との差、採点の誤差、学校で対策が取られているところとそうでないところの差、また一発勝負にならないとの意見があった。何回も英語民間試験を受けられる人ほど有利になるような試験は不公平。
③ どんな高校生でも大学入試に挑戦しやすい支援をしていただきたい。不安なのは金銭面。大学の受験料、入学金で100万円ほどお金を使ったという話を聞いたことがある。進学にかかる高いお金を国の支援があると大学入試に挑戦できる高校生が増えると思う。今回の会議に関しても、私たちの意見を聞くだけ聞いて改善されないのであれば意味がない。
④ 今後の大学入試のあり方の提案・その他大学入試について。今後の大学入試のあり方を1つ提案すると、ロングホームルームの時間にポートフォリオという制度について説明を受けた。学力はとても優れているけど親に強制されたからなど、望まない入学で何もアクションを起こさない人よりも、内面を重視し、行動力や人格などを見て、本当に学びたい人を入学させるほうがいい。また、何においても自ら自主的に言動できる人材こそが、これから重要になっていくと思う。

≪意見交換≫

・eポートフォリオなどを使った推薦型の入学がいいということと、一発勝負がいいんだというのは矛盾していないか。(芝井委員)
⇒学力勝負については一発勝負という形で、それにプラスアルファとして内面もみたら本当に学びたい人を入学させることができるのではないかという意見。(原氏)

【深堀麻菜香(北海道情報大学 4年(あすのば推薦))】
・経済的な部分からの観点で主にお話しさせていただけたらと思う。現在関わっている学生たちの声など、数字では見えてこないの声に注目していきたい。
・北海道内で経済的に困窮している家庭の子供へ学習支援を行っている子供たちから、今回、入試についてどう思っているか聞いた部分について、お話しさせていただきたい。
・情報格差という部分で入試の制度が変わる、ということについてどう考えているかと聞いてみたところ、そもそも共通テストがセンター試験からどういうふうに変更されるのかというのを具体的に知っている高校生が少ない印象。入試の内容が変わることは授業でも触れられていたが、教員からの具体的な説明はなかった。一方で、塾に通える家庭の子たちは、やっぱり受験の対策はしっかりしていると思う。どんな対策をしたらいいのかなど、正しい情報が当事者である高校生に伝わっておらず、家族や学生に不安が残っているという部分が挙げられる。
・高校3年生に聞いてみたところ、センター試験だと先輩から教材のお下がりがもらえた。それが共通テストになると対策の参考書だったり教材が全部新しくなるため新しくそろえなければならないので、大変だと言っている。また4技能試験が元々実施する方向でお金を親に出してもらって参考書を買ったが、せっかく買ったのに使わないものとなってしまった。教材費の補助などの実現はできなくとも、受験費用の一部補助・負担や地方会場の設置も細かくできていくとよいのでは。
・学校現場によって対応の差がかなり違うということも見えてきた。新型コロナウイルスで休校になっていたが、その間の授業を手厚くやっているところもあれば、もう既に終わったことにして応用の内容に進んでしまってる学校もあることが分かった。
・北海道の事情ではあるが2022年から高校入試の制度が変更される。5教科の合計300点が1教科100点の5教科500点になる。2022年に高校入試を受験する中学3年生が、ちょうど2024年の大学入試を受験する世代ということで、高校、大学ともに新しい入試制度に当たってしまうので、結構,心理的な負担等、準備に当たる部分は大変になってくるという部分も見えてきた。
・英語が得意とか、留学の経験があるとか、4技能試験の結果が入試に有利に働く学生がいるのも分かる。そういうのは積極的に活用していくべきだが、それを全員に強制する必要は特に感じない。それらの成績や試験を利用するかどうかの選択が大学ごと、もしくは個人ごとに自由に選択できる柔軟性があるといい。
・最後に本人の努力ではどうにもできないような生まれ育った家庭の経済格差などが、そのまま教育格差、ひいてはその後の人生に深く影響することはあってはならないことで、それらの溝を埋められる唯一無二のツールは教育だと思う。

≪意見交換≫
・内申書重視になっていく中でフランスだと高校の先生が作問するという負担が大きく、なぜそうなるのかというところの理由がいろいろあると思う。例えばSATを非利用の大学増えているというのをニュースでも見るが、社会文化的、経済的バイアスがあるが、内申書にしたところで、その辺は変わらないという思いもあり、先生のお考えを教えてほしい。(両角委員)
→フランスは、試験一発の弊害が大きいため、プロセスも評価するという方向への変化や、アメリカでは議論があるが大学が一番重視しているのは、入学してから少なくとも1年目、フレッシュマンイヤーの成績にどの程度それぞれの要素が影響するのかと、最終的には卒業できるかどうか。これをどの要素が一番予測できるのかということを考えたときに、SAT/ACTよりも高校のGPAのほうが、入学後1年間の成績とか卒業率の予測率が高いという分析が多い。(川嶋委員)

・採点方法など聞くと、ちゃんと採点できるのかと思うが、採点方法の公平性や厳密性等に対して、中国の国内で記述式に対して、どう評価されているのか。(両角委員)
→受験生は制度として、一応疑問を呈するプロセス、訴えるルートはあるが実質的には使っていないのが現状。現実的には、その点数が分かった後で、すぐに出願のプロセスに入る。実質的には、受け入れざるを得ない状況がそこにある。(小川先生)

・修学能力の英語の試験が絶対評価になったと最後説明があったが具体的にどういうことを意味しているのか。(両角委員)
→絶対評価の導入の前の課題として高校現場は相変わらず大学入試対策型の授業を行ってしまっている。読解や文法中心の問題回答式的な授業をしている。それから相対評価になってくると、1点でも高い点数を求めるということが、結局は学習負担とか学校外教育費の負担につながって格差を誘発してしまうというところの課題がある。絶対評価を導入したことによって大学入試対策型中心の授業から脱却できるのではないかという期待。絶対評価にすることによって、その過度な競争、1点を競うような競争が回避されるのではないかと思われた。結局は大きな変化は見られていない。(山本先生)


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