恥の無料配布としての「ん歳の頃の恋バナ」
今日から肩書きもバッチリ無職になった。いろいろ手続きしたいから早く離職票送ってきて。お願い。
再就職はしなきゃならないけどとりあえず夏休みだ。俺は夏休みを過ごすぞ。
夏休みだからつい浮かれてメガネグラサンを買ってしまった。メガネグラサンとはメガネに磁力の力でグラサンカバーをつけることができるやつだ。
メガネにもグラサンにもなる。
使い手によって神にも悪魔にもなるマジンガーZのような存在と言っても過言ではない。
強大な力を手にした俺はついメガネグラサンをかけてメガネ、グラサン、メガネ、グラサンと切り替えて遊んでしまった。
力に飲まれてしまったのだ。
メガネ屋さんってだいたいメガネに詳しいメガネ美人がいるから最高ですね。
さて、恋バナだ。なぜ恋バナかというと恥の無料配布がやってみたくなったからだ。
物書きは恥の切り売りが仕事というし、恥を無料配布して職業体験というわけだ。
しかしうまくいった恋バナほどつまらないものもないので、すんでのところで
「あっぶねぇ〜〜〜〜!!!」
となった話を書こう。
ん歳の頃の話だ。好きだった女の子がいた。仮に、仮にシルベスターさんとしよう。
シルベスターさんは明るくてやや可愛い子だった。はい好きになる。仕方ない。
シルベスターさんとは同じクラスだった頃何度か隣の席になった。
ん歳だったから何度か隣の席になってそこそこ会話すれば好きになる。仕方ない。
それに加えてシルベスターさんは俺が描いた教科書の落書きを爆笑してくれたりしたからそりゃ好きになる。仕方ないだろ。ん歳だったんだ。
ある日、シルベスターさんは何やらイライラしていたらしく、休み時間突然
「ああー!!!」
と叫んだので俺は
「ああー!!!」
と返した。するとシルベスターさんはやはり
「ああー!!!」
と叫んだ。俺も
「ああー!!!」
と返した。
しばらく
「ああー!!!」「ああー!!!」
の応酬が続いた。
するとシルベスターさんは突然笑い出した。そしてクスクス笑いながら
「ありがとう、スッキリした」
なんて言うもんだから好きになるどころかシルベスターさん俺のこと好きでしょこれってなるじゃん仕方ないでしょ!!!!仕方ないでしょ!!!!
機を見て告白しようとまで思うでしょ!!!!ん歳だったからさあ!!!
そんなある日、班でなんらかの話をしていた時にどういうわけかシルベスターさんの好きなタイプを当てる話になった。
班員から色々な芸能人の名前を言われながらも、のらりくらり受け流すシルベスターさん。
もちろん俺は興味津々だったが芸能人についてはさっぱり詳しくなかったので皆の話がよくわからなかったし、質問攻めにされて困っているシルベスターさんを助けるため俺が一つボケを挟んでこの場のお茶を濁そうと思い
「アーノルド・シュワルツェネッガー?」
と言った。
アーノルド・シュワルツェネッガーだ。
みんな知ってる、俺も知ってる。シュワちゃんだ。
ボケたつもりだったんだ。
ウケたよ。班員には。皆、ん歳だったから。
でもどうだ、耳まで真っ赤になるシルベスターさん。
本当に、比喩とかじゃなくて、耳まで真っ赤になった。
そして小声で俺に言ったのだ。
「なんで知ってるの……」
今他人事のように語るとシルベスターさんめちゃめちゃ可愛い。
だが当時の俺はクソガリガリヒョロヒョロ眼鏡で似ているポケモンはマダツボミだった。(今もだけど)
シュワルツェネッガー氏は、だってポケモンに例えるまでもねえじゃん。
この時俺は失恋したことには間違いないんだけど悲しみは微塵もなく、ただ
「あっぶねぇ〜〜〜〜!!!」
という気持ちだった。恋心も吹き飛んだ。
もし知らずにシルベスターさんに告白していたらシュワルツェネッガー氏にぶん殴られるようなダメージを受けていただろう。(すごい文)
シルベスターさんには何も言わないまま普通のクラスメイトとして過ごし続けた。
以上が、ん歳の頃の俺の恥の無料配布だ。
ん歳の頃の俺はまだ知らないが俺はその後も何度も精神的にも肉体的にも
「あっぶねぇ〜〜〜〜!!!」
みたいな経験をする。それじゃ済まない経験もする。
そして28歳無職に至り、メガネグラサンをカチカチやって遊んでいるというわけだ。生きるぞ。
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