アリの巣を観察するし、ポエムも書く。

仕事を辞めてからというもの、交通事故にあったことを除けば毎日とても楽しく生活している。

通帳の残高が増えることなくただただ減っていく恐怖はあるが、それでもまだ楽しさの方がはるかに上回っている。無職最高に楽しい。

行きたかったところへ行き、やりたかったことやる。こんな日がいつまでも続けばいいと思う。

さて、先月の下旬頃、かねてからやってみたかったことの一つに手を出した。

それがこれだ。

学研の『アリのす観察キット』だ。平たいプラスチックの容器に砂とアリを放り込むとアリが巣を作るところを観察できるアレだ。

子供の頃から一度やってみたかった。だから買った。28歳だけど。

中身はこうだ。組み立て式の容器、砂2種、ガイドブックが入っている。至れり尽くせりとはこのことだ。俺が欲しかったものが全て詰まっている。

容器を組み立てて、砂を二層になるように入れる。こうすることで「あ、アリさんが茶色ゾーンまで到達したぜ!」みたいな観察ができるというわけだ。学研の粋な心遣いだ。俺もこうありたいものだ。

中に水を入れて湿らせる。勢い余って表面がいびつになったがアリが本来いる自然もいびつなんだからこれでいい。いいんだ。この世界は、いびつなんだ。

アリを捕まえに行く。成人男性がアリの巣観察キットを片手に徘徊していても誰も気にも留めない。ここはそういうところだ。俺はこの街のそういうところが気に入っている。

容器の上の緑色のパーツ、これがアリ捕獲器だ。

中に餌を入れてアリの巣の近くに置いておくとアリが中に入ってくるので、その隙に捕獲器ごと回収して観察キットにそのままセットできる優れものだ。

餌には俺が朝食に食べているシリアルを使った。俺はシリアルに生かされている。そしてこれから捕えるアリどももそうなる。

巣を見つけて近くに捕獲器を置いておくと、面白いようにアリが中に入ってきた。バカめ。

俺はアメリカのトウモロコシ畑で農夫をアブダクションする宇宙人のような気持ちで捕獲器を回収した。恨むなら恨めアリども。俺の好奇心の餌食となれ。

準備は整った。容器をそのまま玄関に置いて毎日観察することにした。この日を観察初日とする。

アリの種類はよくわからないがとにかく小さいやつだ。

初日はアリたちはただただうろたえるばかりだった。俺も同じ境遇ならそうなるだろう。

二日目、容器の隅に茶色の砂が溜まっていた。

よく見れば容器の右端から下へ壁に沿うように掘り進んでいる。下の茶色の砂を掘り出して上に捨てているのだ。

何もそんな観察しがいのないところを掘らなくても。

同日反対側には一応早くも巣のようなものができていた。すごい。早い。

さすがは古今東西のおとぎ話で働き者の象徴として描かれているだけあるアリだ。それを無職の俺が観察するのだから、世界とはなんといびつなのだろうか。

観察三日目。昨日出来ていた巣のようなものが茶色い砂ゾーンに到達していた。

思わず俺は「おめでとう」などと口走っていた。何様だ。

観察五日目。画像左にたて穴が一本増えている。早い。

茶色いところを掘り進めるのは諦めてしまったのだろうか。頼む、俺にもっと深い穴を見せてくれ。

餌のシリアルがカビていたので上の捕獲器に新しいのを入れた。ガイドブックによるとここまで取りに来るようだが、そんなことができるのだろうか。だってアリだぞ。

観察六日目。左端の穴がどんどん複雑になっていく。もっとダイナミックに、広く使っていいんだぞアリたち。

余白が泣いているぞ。

容器の反対側ではこのような巣が作られていた。横長い。縦に掘り進める気は無いらしい。

そういう種類のアリなのだろうか。向上心が無い。いや、この場合向下心というべきか。

観察八日目。ほとんど変化が無い。アリどもはぼんやりウロウロしている。書くことが無いのでポエムを書く。アリは関係無いポエムだ。


タイトル『ご飯』

美味しいご飯をありがとう

綺麗な服もありがとう

リスザルの頭は要らない

素敵な靴もありがとう

面白い本もありがとう

リスザルの頭は要らないってば

お会計お願いします


観察十二日目。ほとんど変化が無い。シリアルをちゃんと食べることができているのか不安なので数日前に下に落とした。これもカビ始めている。

またポエムを書く。アリは関係無い。


タイトル『包丁』

もしもし、落ち着いて聞いて

今君んちの近くなんだけど

君んちの玄関の前に

包丁を持った男が立ってる

うん、ヤバいと思う

警察には私から知らせとく

でもせっかくだから

ちょっと出て戦ってみてほしい

めったに無いし



観察十四日目。ほとんど変化が無い。ポエム書く。


タイトル『スリッパ』

スリッパってすごいから

僕もスリッパみたいになりたくて

とりあえず二人に分裂するとこから

始めてみたんだけど

違ったんだ

スリッパは左右対称なんだ

そっくりそのままの僕がもう一人いても

どうしようも無いんだ

増え損だよ


観察十五日目からこれを書いている今日に至るまでほとんど変化なし。

アリたちはぼんやりウロウロしている。

明日アリたちを捕獲した場所に逃してこようと思う。

最後にポエムを書いて終わる。アリは関係無い。


タイトル『亀』

亀の甲羅を火で焼いて

ひび割れ方で今日を占う

縦に割れたら恋の予感

横に割れたらみんな死ぬ

斜めに割れたら今日はコンビニに行って

おでんを買って食べよう

それじゃあ今から

亀を盗んできます

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19

ナ月

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