荻窪心中

思えば出会ってから数年がたっていた。出会ったばかりの頃、一度だけ、2人で一晩中どうでもいい話をしながら飲んだ事もあった。朝方、彼は私の手を握りしめていた。次はどうくるのかな、その時私はどうすればいいのかな、と、いうのは杞憂で、それ以上の事は何も起こらなかった。私は固いシートの電車に揺られて家に帰ったし、次の日になれば、手を繋いだことなんて、なかったことになっていた。

正直、彼に対して興味などなかった。しかし、期待していなかったといえば嘘になる。再会を果たした彼の発するオーラに、私は不覚にもクラクラしてしまった。そして、恋人と別れたばかりの私は確信した。彼は、私の心を連れ去って、私を支配して、今、毎日、寝る時と起きた時に私を襲う、感情のゴミ箱をひっくり返したような靄たちを、取っ払ってくれるはずだ、と。

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