荻窪再来

荻窪という街を私は滅多に訪れない。故に、私を不幸にして欲しいと願ったあの日から2年が経過していたという事も、友人宅への経由で荻窪に来るまで忘れていた。
この2年間、不幸は嗜む程度にし、「あなたはとてもちゃっかりしている」という友人の言葉通り、私は不幸の香りのしない相手と結婚した。フラフラフラフラと欲や哀しみを追求するばかりだった私が、夫と付き合ってからはそれらと無縁になった。夫以外の男性に惹かれた事すら一度もなく、真っ当に、恋だの愛だのを育んでいる。
果たして想像できたであろうか?平気なフリをしつつ、死にたい死にたい死にたいと心の中では喚いて手榴弾を全身にまとっていた癖して、どこかで誰かに助けて欲しくて、安心も諦念も落胆も何もかもが全て紙一重だと信じ込もうとしていた私が、今はコテコテのミュージカルな毎日をおくっている。そして、かつて私が心中しきれなかった街ですら、今はとても愛おしく思えるようになっている。
「いつかあなたも幸せになれる」と誰かに言われるたびに「いつだよ」と苛々していたあの時の私へ。「いつかあなたも幸せになれる」。大丈夫、焦らなくても良い。不幸は不幸で楽しんで。そんなスパイスすら味わえなくなるからね。

【荻窪心中】
https://note.mu/o0o0o/n/n02c49247416a

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