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天明クリエイターたち(1)

旗本は 今ぞ淋しさまさりけり 
御金もとらず 暮らすと思へば        

狂歌 詠み人知らず


これは、江戸時代の中頃に流行った狂歌でして、緊縮財政によって窮乏する旗本の悲哀を詠ったものとされています。なんとなく聴いたことあると思った方はお察しのとおり、古今和歌集が元歌となっております。

山里は 冬ぞ寂しさまさりける 
人目も草も 枯れぬと思へば
            源宗于むねゆき

古今和歌集

狂歌は江戸時代の中期に武士や町人の間で流行った、社会風刺や皮肉滑稽こっけいさを盛り込んで詠んだ短歌、れ歌のことです。

狂歌はこのように、ときに百人一首や古今和歌集など既知の和歌を拝借する、いわゆる本歌取りをすることもあります。ちなみに川柳は五・七・五ですが、狂歌は五・七・五・七・七です。

「上手い!」
「分かる!」
「あるある!」

洒脱で滑稽、風刺のスパイスの効いた狂歌は瞬く間に町人に受け入れられ、大ブームとなりました。

狂歌文化が花開いたのは明和~天明年間(1764~1789)で、クリエイターたる狂歌師や、狂歌を詠みあう狂歌連というサークルが次々に生まれ、後に天明狂歌と呼ばれる一大カテゴリーとなりました。

江戸時代中期、幕政は揺らぎ、享保の改革から田沼時代を経て寛政の改革へ向かう時代。何をするにも倹約や規制で、武士も町人もそれぞれ不平不満が募っており、こういった狂歌を読んで日ごろの憂さを晴らしていました。

また後世の我々にとっても当時の世相を端的に知ることのできる貴重な資料となっております。

和歌を元歌にすることも多いため、狂歌師にはそこそこの教養が求められると同時に、ちょっとだけお武家さんや世間様を皮肉る勇気も必要です。大衆うけを期待するあまりに幕政批判的なメッセージが強すぎると、お上にお咎めを受けることもありますので、そこのボリューム調節は狂歌師の腕次第といったところでしょうか。

現代の芸能人・文化人もそうですが、多少の毒舌は我々庶民の代弁者たりえますが、それが過ぎると耳障りのあるただの悪口になってしまいがちですよね。
(; ・`д・´)💦キヲツケネバ

さて、ここで田沼時代から、松平定信の寛政の改革の時代に詠まれた狂歌を、時代の変遷とともに四首ご紹介します。

①田沼意次は将軍徳川家治に重用され老中となり幕府の実権を握ります。幕政改革を試みるも、賄賂や身内贔屓が横行し民衆の怒りを買います。

この上は なほ田沼るる 度毎に
めった取りこむ  主殿とのも家来も

解説:田沼の殿様にも、その家来にも、毎回賄賂を頼まれるんだよ(田沼るる)

②将軍家治の死去とともに田沼意次が失脚。白河藩主松平定信が老中となり寛政の改革を始めます。

田や沼や よごれた御世を 改めて
清くぞ すめる白河の水

解説:田沼の汚職政治を改めるクリーンな「白河」の殿様がきたよ。

③倹約・統制を強める定信の改革方針を批判。特に文武奨励策(公務員試験のようなもの)は家柄や財力を出世の源泉とする旗本・御家人には耳の痛いものでした。当時、字もまともに読めない幕閣もいたとか。

世の中に 蚊ほどうるさき ものはなし
ぶんぶといふて 夜も寝られず

解説:文武文武と、かほど(これほど)うるさく言われては、夜も寝てられないよぅ。

④倹約を強いるばかりで、生活は上向かず民衆の不満は募るばかり。やがて定信の改革は6年で頓挫します。

白河の 清きに魚も 住みかねて
もとの濁りの 田沼恋しき

解説:白河の殿様(定信)はクリーンだけどやりすぎ。元の田沼時代の方がまだましだったなぁ。

上手いですねー(*・ω・)
この四首はいずれも「詠み人しらず」とされていますが、ともすれば幕政批判ですから、そこを正直に名乗っても仕方ないかと思います。一説には狂歌師の大家、太田南畝なんぽ(蜀山人)の作ではないかと言われています。

さて、最後に、当時活躍した狂歌師クリエイターをご紹介します。

狂歌三大家
朱楽菅江あけらかんこう
大田南畝おおたなんぽ
唐衣橘洲からころもきっしゅう

狂歌四天王
宿屋飯盛やどやのめしもり
鹿都部真顔しかつべのまがお
頭光つむりのひかる
物事明輔ものごとあきすけ

これらの狂歌師の師匠方の狂号、いわゆるペンネームを見ると、いかにも洒落がきいててジワジワきますよね?社会風刺や皮肉を詠む方々なので、素性不明の方が面白かったのでしょうね。何となく狂歌師の矜持を感じます( ゚∀゚)

ちなみに狂歌ブームの火付け役、インフルエンサーの三大家の師匠方はいずれもそれほど身分の高くない幕臣や陪臣でした。最初の旗本の狂歌に戻りますが、狂歌ブームはお武家さんの「つぶやき」「ぼやき」が町人に拡散されていったのですね。
(・´з`・)💨フマンデソウロウ

時代は繰り返すものだなぁとつくづく思う今日この頃。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

天明クリエイターたち(2)に続きます。


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