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夏草短編-もう一つの物語

この夏は、私にとって特別な夏だった。
それは、こんな理由から。

夏至祭の近づいた頃、
めずらしく、おばあちゃんが私を呼び止めた。

ちょっと来てごらん。

何?これからお友達と出かけるんだけど。

大丈夫、すぐだから。

もー、わかったよ、なぁに?

お前、もう夏至祭の花冠は準備したのかい?

うーん、もう少し
どんな植物にしようか迷っちゃって。

そうかい、何、どんなものだっていいんだよ。
お前が一生懸命作るものならね。
でもね、もし、できるならこれから教える植物も探してごらん。
私も、昔はおばあちゃんから習ったものさ。

モルモル(「mormor」スウェーデン語で母方の祖母の意)の役目さ、
孫娘に花冠について教えるのは。
まったく、私も歳をとってしまったものさね。

さて、7種類の植物を集めるのは、もうお前も知ってるね。

うん、お母さんから聞いたよ。

よし、それじゃあ話がはやい。順番に言うよ。

ディル、タイム、カモミール、
ローズ、ローズマリー、エルダーフラワー、
ラベンダー、
この7つを探してごらん。

モルモル、どうして?

いい質問だね、ちゃんと意味があるのさ。
でもお前、急いでるんだろ?慌てなくていいから、
お友達のところから帰ってきたら、もう一度聞きにおいで。
わけを教えてあげるから。

そう言って、おばあちゃんから聞いたお話。
それは、今でも、とても特別な夏の思い出として私の中に残っている。


>>>Dill*

おばあちゃん、ただいま。
ねえ、さっきの続き、教えてくれる?

ああ、いいよ。
まずは、ディルからね。ディルは、知ってるね、あのふわふわした葉の濃い緑の。サーモンと一緒にするやつさ。

うん、卵と一緒にしても、美味しいよね。

そうそう、いい子だ、よくわかってるね。
その、ディルの花言葉が大事なんだ。いいかい、「智恵」だよ。

智恵?

そう、いつかお前も将来結婚する時が来るかもしれない。
その相手と出会う時に大切なことさ。
まずは、自分に智恵を備えること。そうすれば、きっと賢い人に出会えるからね。

友達も、パートナーも、長く付き合うんだから、心が賢い人を選ぶのが肝心さ。それは、いい学校を出てるとか、そんなんじゃないんだ。

うーん、わかるけど。そっれて、たとえば、どんなこと?

たとばね、たとえば、リボン結びが下手くそなお前の靴紐を
見かねて結び直してくれる人さ。笑いながらね*

>>>Thyme*

次は、タイム。タイムの花言葉は「勇気」。
いいかい、これはお前に大事なんだ。おじいちゃんが言ってたさ。
どんなに強い男でも、弱い女には敵わないってね。

えーっ!なにそれ!

まぁ、お前も歳を取ればわかるさ。
世の中渡っていく時に、不安になることがあるのさ。そんな時、相手の背中をそっと、そーっとだよ、ここが肝心さ。押してあげるのが、そばにいる人の役目なのさ。

タイムはね、昔っから、戦いにでる戦士に、女性が送った植物でもあるんだ。戦いはない方がいい。でも、それぞれに立ち向かう物事があるのは、今でも変わらないだろ。そんな時、いつか、お前も大切な人にタイムをひと枝手渡してやりなさい。

>>>Chamomile*

ねえ、おばあちゃん。
カモミールの花、もうすぐ咲くね。

そうそう、咲いたら、摘んで乾かそう。甘い香りが幸せだね。
カモミールはね、強いんだよ。踏まれても、どんどん強くなる。ずぼらな私の庭でも、あんなに可憐な可愛らしい花を咲かせてくれるんだ。
最高だね!

ほんっと、おばあちゃんって、そういうとこあるよね。

どういう意味だい、それは!?

まぁ、まぁ、それは置いといて、花冠の植物の話の続きは?

そ、そうだね。次は、カモミール。
カモミールの花言葉は「逆境に耐える」というの。長く生きているといろんなことがあるさ。お前も年頃だから、これまでも色々あっただろう。
それが、大人になると、もっといろんな事が見えてくるの、いいことも、そうでもないことも。

困った時には、カモミールのお茶を飲んで、一番お前がありのままのお前でいられるところを探してごらん。

本当にどうしようもなくなった時は、お母さんやお父さん、もちろん他の誰のためにでもなく、お前がお前自身のために、心の声に耳を向けてあげなさい。

そして、そんな時、そばにいてほしいと心に浮かぶ人がいたら、その人がきっとずっと一緒に居られる人じゃないのかい。

>>>Rose*

ローズ、もうこれは言わなくても分かるね。
愛する人には、バラの花さ。

うん、おじいちゃんもよく飾ってたよね。
おばあちゃんの誕生日とか、記念日なんだとか言って。

そうだろ、愛する人にはバラの花なのさ。

それからさ、けんかした後も必ず買ってきてたよね。

まあね、ま、とにかく、愛する人にはバラの花なのさ。

>>>Rosemary*

次は、ローズマリー。
ローズマリーの花言葉は、「変わらぬ愛」。
乾いても香りがずっと残るからね。恋は薄れるけど、愛は色褪せないっていうんだよ。だから、ずっと一緒にいたいと思える人がいたら、ローズマリーを贈ってごらん。願いが叶うかもしれない。

お前のママも、夏至の夜にはローズマリーを枕元に置いていたよ。

へー、ママもそうしてたんだ。私も、やってみようかな。

>>>Elderflower*

エルダーフラワーって、レースみたいで可愛いよね。

そうそう、もうすぐ咲くからレモンと一緒にシロップを作ろうね。

今年も楽しみだね、マスカットみたいでいい香りだよね。
でも、花言葉は気にしたことなかったな。

「思いやり」さ。

思いやりはいつだって大切だけど、今、私は、一番身に染みるね。
歳を取るほどにね。もう、私はあんまり歩いて遠くまでは行けなくなったけど、二人で庭へ出る時は、嬉しいんだよ。
言わなくても、手を貸してくれるからね。

そーだね、本当に、おじいちゃんって、おばあちゃん思いだよね。
いいよねー。

宝くじ、大当たりさ!

おばあちゃん、智恵で選んだんじゃないの?

ああ、そうだったね、もちろんさ、智恵が肝心さ!

>>>Lavender*

さあ、これで最後だよ。
ラベンダーの花言葉は「あなたを待っています」。
お前のママも、ローズマリーと一緒に花束にしてたね。香りの相性もいいから。

ロマンチックだね。いい人に逢えるといいな。

でも、どうしてこんな花言葉があるの?
それは、こんな神話からさ。美しい少年に恋してしまったラベンダーという少女は、彼を待ち続けているうちに、とうとう花になってしまったってね。

お前も、待ちすぎていると花になってしまうから気をつけるんだよ。
ここぞという時は、声をかけてごらん。
きっかけはなんだっていいんだから。

さ、随分と長くなってしまったね。
これで、モルモルのお節介話はおしまい。

夏至祭を楽しんでおいで。


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さいごに、

夏草短編集-もう一つの物語をお読みいただきありがとうございました。

この物語は、東京都小平市にあるコトリ花店さまで開催される

空想online_exhibition

夏草短編集〜
夏至祭に纏わるいくつかのこと

に寄せて、o3nji(おさんじ)が作らせていただいたお話です。

展示の開催期間は、2020.6/6-6/14です。

下のURLより、展示を楽しんでいただけますので、ぜひご覧ください。

Instagram https://www.instagram.com/online_exhibition/?hl=ja

それでは、Adjö(アデュ:スウェーデン語でさようなら)

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<o3njiについてもっと知りたい方は>

o3nji(おさんじ)とは、GalleryCafe3のお菓子ブランドです。

アート作品を楽しむきっかけを、お菓子で作れたらと願っています。

Instagram  https://www.instagram.com/gallerycafe3/?hl=ja

HP     http://3gallery.net/

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