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ポッシブル・ジャーマニ/第一部 嘔吐

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記事一覧

月に寄せて

 真鍮のランプ。それだけが灯る部屋。ヒーターがうなり続けている。空間は肌を刺す冷気で満ち…

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海も嫌いで、山も嫌いで、都会も嫌い

「あなたはドイツみたいに両極端ね」  いつかの女は言った。 「君はいつか、ドイツへと旅立…

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蚕の声を聴きながら 1/2

 今日は日曜日。私は広場の脇のベンチに腰を下ろして、膝に本を乗せている。少し離れた広場の…

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蚕の声を聴きながら 2/2

「メイコ」私の名を呼ぶ声。「大丈夫? うなされてたよ」  ? 「何度肩揺すっても起きない…

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ハルキ・ムラカミとスターバックスの子どもたち 1/3

 ぼやけた暗がり、慣れない煙草の匂いが鼻を突く。頭が重い。傍ら、口紅ばかりが際立つ顔のな…

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ハルキ・ムラカミとスターバックスの子どもたち 2/3

 どうして僕はこんなところにどうして僕はこんなところにどうして僕はこんなところにどうして…

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ハルキ・ムラカミとスターバックスの子どもたち 3/3

 バス停、静かな通りは歩を進めてゆく人が疎らにいるものの、足を止めているのは三人だけ。僕とマキ、それにメイコ。昨晩の、夢か現か定かではない出来事に関しては、二人とも、暗黙知であるかのように俎上に載せない。だから僕は一人、頭の中で巡らせている。他愛のない夢でなければ、まるで密室殺人のようじゃないか。つまり、何かしらのトリック、あるいは誤認が存在しているのだ。思いつくトリックと言えば、メイコがマキから鍵を奪ったとか、他に協力者がいるとか。誤認ならば、つまるところ、僕がメイコの夢を

歌姫ディアスポラと二十日鼠族の消失、鳥かごの夢と不明瞭なもくろみ 1/3

 目を覚ますも、曜日が分からない。鬱蒼としている。光の差し込む狭間はない。  おしなべて…

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歌姫ディアスポラと二十日鼠族の消失、鳥かごの夢と不明瞭なもくろみ 2/3

 中国女はキッチンを出て部屋へと寝に行った。彼女は大学に通っていないのだろう。なら、どう…

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歌姫ディアスポラと二十日鼠族の消失、鳥かごの夢と不明瞭なもくろみ 3/3

 買い物をすべて所定の位置へと片付け、一息つこうと回転椅子に座りパソコンを開くと、マキか…

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週末、東風が吹く 1/7

 高い塀に囲まれている。灰色一色だ。四方、各々細い直線が伸びており、先は霞む、どこまでも…

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週末、東風が吹く 2/7

「N」僕を呼ぶささやき。どこからかコーヒーの香りがする。「N、大丈夫?」。ああ、これはマ…

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週末、東風が吹く 3/7

 柔らかい光に満ちたキッチンには、爽やかな風が巡っていて、驚くほどに整然としている。台所…

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週末、東風が吹く 4/7

 不器用さに端を発する少なからぬ失敗、場違いさに興を見出す捻くれた性向による独善的な軽口、それらで今日もマキを苛立たせては、メイコの倍の時間をかけて変身過程を終える僕は、アースカラーの着物に夕焼に似た薄紫の帯、曇り空を写す海の紺の羽織を身につけていて、『ムーン・リバー』で暇を潰すメイコにギターを手渡される。が、ケースという概念はハックルベリー・フィンと一緒に旅立ってしまったみたいだ、戦場へ赴く一兵卒が抱える銃剣のごとく、ネックを握りストラップを肩に掛けて前後に揺らしながら、僕