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【ポートレート・イン・キョウト】 第2回 タカヤマ ダイスケ

『Portrait in Jazz』という本がある。イラストレーターの和田誠さんが敬愛するジャズマンたちのイラストを描き、それを気に入った小説家の村上春樹さんが、彼らへの愛を書いたという、ただそれだけの本なのだが、ジャズを好み、和田さんと村上さんをそれ以上に好む僕にとってはたまらない1冊だ。この本を読みながらひらめいた。僕も尊敬する京都の人たちをイラストと文章で紹介しようと。そうして生まれたのが、『Portrait in Kyoto』なのである。



タカヤマ ダイスケ

みんなが「大ちゃん、大ちゃん」と言いながら、かもがわカフェのカウンターに集まってくる。大さんは眼鏡をかけ、薄手のTシャツにエプロンというお決まりの格好で、かもカフェの店主としてカウンターの内側に立ち、コーヒーを淹れたり、お客と談笑したり。そして僕は「大さん、大さん」と言いながら、かもカフェのカウンターに集まる人たちの中の1人だ。


もとはというと、なにかのきっかけでかもカフェのことを知り、たま〜に窓際の席でランチを食べに行っていた。そして、かもカフェの常連であるタブチさん(ポートレイト・イン・キョウト第1回に登場)にかもカフェへ連れてってもらってからというもの、かもカフェに通うようになり、大さんと話すようになった。それまではなかなか話しかけられず、「ごちそうさまでした」「ありがとうございました」くらいの会話だったけれど、今となっては浜田省吾のこととか、バイトのこととか、お店のこととか、映画のこととか、京都で暮らす誰々のこととか、人生のこととか、恋愛の極意とか、まぁ実にいろいろなことを教わっているもんだし、しばしば叱られたりもする。それで僕は勝手に、大さんは「京都の父親みたいな人」なのだと思っていたりする。実際、実の父親と大さんは同じ歳ということもあるのでね。


かもカフェのカウンターで酒を呑みながら、いろいろな話を聞いてきたけれど、やっぱり何度聞いてもいい話だなぁとしみじみするのは、大さんがかもカフェをやる前、カフェで働き始めた若かりし頃の話。修行として最初に勤めたカフェでは、ひょんなことから勤務2日目くらいで早々に店長を任されることに。それで店長としてお店を運営し、ケーキを作り、コーヒーを淹れること数ヶ月後、今も京都で高い人気を誇るとあるカフェで働くことになる。面接では「前のカフェではケーキを全て担当していました」と言ったらしいが、前のカフェのメニューに、ケーキは1種類しかなかったという。それで、夜な夜な隠れてケーキ教室に通い、前夜に覚えたケーキをお店で出していたという。見栄を張った後からその見栄に追いつくという男らしさたるや、是非とも見習いたい。


大さんにはよく「迷った時はポジティブな方を選べ」と言われる。「やる」か「やらぬか」で迷えば「やる」を選ぶ。「行く」か「行かぬ」かで迷えば「行く」を選ぶ。それで大さんに背中を押してもらって「やる」「行く」という選択をして、うまくいかなかったこともあるし、うまくいったこともある(主に恋愛において)。だけど、うまくいかなかったのもひっくるめて、なんだかんだで全部楽しかったから、失敗はひとつもなかったのだと思う。そして僕は、大さんと一緒に、浜田省吾の曲を1曲ずつ交互に掛け合うDJイベントをいつか実現させたいと切に願っている。


「ポートレイト・イン・キョウト」は極めて個人的に発行している極めて個人的な『月刊テイクフリー』というペーパーにて連載しています。お求めはこちらより。


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