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架空の日記のようなプレイリスト:いちにち

ある日、思い立った。1日の行動や感情をプレイリストにしてみようと。日記のようなプレイリストを作ってみようと。楽曲は様々な主題をもとに制作されている。例えば、それは愛であったり、夢であったり、希望であったり……。愛の歌があるなら、トノサマバッタの歌もあるはずだし、夢の歌があるなら、画鋲についての歌があってもなんら不思議ではない。知り尽くすには到底不可能なほど、大量に、膨大に楽曲は存在している。ということは、誰かが作った曲たちをうまいこと組み合わせれば、ある程度の物語を生み出すことができるのではないだろうかと思ったのだ。そこで28曲を選び、「いちにち」というプレイリストを作成した。そのプレイリストをもとに日記を書いた文章が、こちらの記事というわけなのである。

この物語はフィクションです。



目覚ましを6時にセットしていたはずなのに、目が覚めると8時を回っていた。とはいえ、僕が今日やるべきことは何もない。予定がない休日は久しぶりだ。ということは、今日は1日なにも考えなくてもいい。予定よりも起床時間が2時間ほど遅れてしまったが、その分ゆっくり寝ることができたと考えれば、なんとも「ハッピーなグッドモーニング」ではないだろうか。


そういえば、昨日バイト先でもらってきた食パンがあるではないか。僕は京都の某出版社で働いているのだけれど、出版社にはいろんな人からいろいろなお菓子や野菜などが送られて来るのだ。昨日はそれがパンだった。それで、僕も食パンのお裾分けをもらったのだ。オーブントースターでパンを焼き、その上にバターを乗せる。じわじわとバターが溶けていく様子を見ながら、タブローに油絵具を塗りたくるように、満遍なく、「バターを食パンの隅々まで行き渡らせる」。そして、テレビで流れる「モーニングニュース」を横目でチラチラ見ながら食パンをかじり、食器を片付けた僕は朝の散歩に出かける。

外はいい天気」だ。なにも予定がない日には、いつもとは違う道を通ってみるが、結局のところ、散歩をしようと外へ出てでたどり着くのは鴨川なのである。時計はもう少しで9時を指そうとしている。地下鉄の北大路駅からはあまたのサラリーマンが足並みを揃え、早足で出てくる。イヤホンをつけている者、カバンから新聞の端が出ている者、いくつもの荷物を抱えて歩いている者、いろいろな種類のサラリーマンがいるが、皆が同じような服装をして、同じ方向へ、同じような速度で進んでいく。まるで牧場で飼われている羊のようだ。そんな彼らを「やあ、羊くん!」「Hey, Mr.sheep!」だなんてからかってみる。が、サラリーマンたちは誰も相手にしてくれず、すぐに飽きてしまう。キリの良いところで散歩を切り上げ、うちに帰ることにした。

久しぶりの休日だ。せっかくの休日なので、部屋の「片付け」でもしよう。洗濯物を畳み、掃除機をかけ、洗剤をつけたスポンジで浴槽を磨く。そうこうしているうちに正午を超えていた。ということは、腹が減って来た。適当なところで部屋の片付けを終え、とりあえずよそ行きの服装に着替え、このあと1日の、つまりは「昼間から夜」までの予定を立てることにする。

映画を見に行こうか、美術館へ行こうか、居酒屋をはしごしようかと悩んだ結果、僕は「中華料理」を食べに行こうと決めた。三条河原町から歩いてほどない場所にある龍鳳に入る。ひと口に”中華”とは言っても、本格的な中華から、町中華、王将などの大衆中華まで色々あるが、龍鳳は町中華に分類される中華である。からしそばが名物だ。本格的な中華ーー例えば「北京ダック」や「上海蟹」ーーは食べられないが、熱々の春巻きも絶品である。そんなこんなで中華料理のお昼ご飯を終え、龍鳳を出たところで、偶然大学の友人に遭遇し、ラウンドワンで遊ぶことになった。僕はラウンドワンへ自らすすんで遊びに行くことはない。騒がしいし、品があるとは到底言い難い。が、ここは流れに身をまかせ、久方ぶりにラウンドワンの中に入ってみることにする。そして「カラオケ」をしている最中、桑田佳祐の「レッツゴーボウリング」の広告が流れ、ボウリングまですることになってしまった。

ボウリングで3Gほど投げると、流石に疲れてしまう。時刻はまだ16時。居酒屋に入ってもいいのだけれど、疲れた体に何か甘いものを入れてあげたい。そう思った僕は、大学の友人と別れ、ひとり喫茶店に入り、メニューとしばらく睨み合った結果、「コーヒーシェイク」を注文する。勢いよくコーヒーシェイクをすすり、そそくさと喫茶店を後にする。さあ酒だ酒だ。バスに乗って北へ移動し、行きつけの居酒屋”八雲食堂”に入るなり、ビールと味玉と「ポテトサラダ」を注文する。居酒屋に入れば、とりあえずボールにいっぱいのポテトサラダが食いてぇ。それは酒飲みの心理なのだ。しばらくして運ばれて来たのはボールにいっぱいとまでは行かずとも、じゃがいもがゴロゴロと存在感を放っている類のポテトサラダである。これがよく酒にあうのだ。僕は「ウイスキーがお好き」なので、サントリーオールドのロックを1杯しっぽりとやって、「タバコ」を1本吸ってから外へ出る。

まだ2月だから夜は冷える。寒い。銭湯へでも行って暖まろうかと思い、船岡温泉の暖簾を潜る。船岡温泉は国指定の文化財にも指定されているほど、趣あって厳かで素晴らしい銭湯だ。脱衣所で「パンツを脱ぎ」、湯船につかり、またはサウナに入るなどして、「あびばのんのん」と「湯浴み」すれば、あとはシャカシャカと「」を磨いて眠るのみである。

が、どうも眠れそうにない。外の景色を見てみると次が出ている。「月は私のもの」だなんて願望は強欲かもしれないけれど、誰だって月には憧れる。かの夏目漱石でさえ「月が綺麗」だなんて名言を残したのだ。明治時代の人々にとっては、月はただ空に浮かんでいる丸に過ぎないのだけれど、現代を生きる僕たちにとっては手の届く天体なのである。お金さえあれば、月にいくことができるのだ。どこかの町の社長が月に行こうとしている話は結局ネタだったのか、本気だったのかはよくわからないけれど、人間はそれほどまでに月へ近づいているというわけだ。

月を見ているとこんなことばかり考えてしまい、ますます眠れなくなりそうだ。なので、ネット麻雀のアプリを開いて、見知らぬ誰かと対局することにする。日付が変わったばかりの時間。”午前0時は宵の口、開けて広いワニの口”という歌詞は大滝詠一の曲にあるけれど、明日も休みだからといって麻雀をするというのはなんと「楽しい夜更かし」なのだろう。時刻は「26時」を回り、「午前3時」も超え、流石に眠たくなって来た。なので、「おやすみ」と行って布団に入れば、あっという間に「」の中。とはいっても、すでに「明け方」の時間帯だ。あと数時間すれば、太陽が登って来て、綺麗な「朝焼け」を空に描くことだろう。そうやって「いちにち」は繰り返されてゆく。


プレイリスト:いちにち

Happy Good Morning Blues / ブルース・コバーン
Spread Butter On My Bread / Nulbarich
モーニング・ニュース / ハナレグミ
外はいい天気 / はっぴいえんど
ミスター・シープ / ランディ・ニューマン
Clear up / KENT VALLEY
昼間から夜 / mei ehara
中華料理 / 山崎まさよし
北京ダック / 細野晴臣
琥珀色の街、上海蟹の朝 / くるり
Karaoke / ginger root
レッツゴーボウリング / 桑田佳祐
コーヒー・シェイク / Nao Kodama & Kan Sano
ポテトサラダ / ZAZEN BOYS
ウイスキーが、お好きでしょ / 田島貴男
TOBACCO / Suchmos
脱げぱんつ / BREIMEN
あびばのんのん / Tempalay
YU・A・MI / アマイワナ
はの うた / ペトロールズ
The Moon Is Mine / フェアーグラウンド・アトラクション
楽しい夜更かし / 大滝詠一
26時 / yonawo
午前3時のオプ / フリッパーズ・ギター
おやすみ / Kan Sano
夢 / deca joins
明け方 / カネコアヤノ
朝焼け / カシオペア

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