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喫茶ゴゴの頭でっかちクリームソーダ

 老舗喫茶店や現代の「おしゃれカフェ」がひしめく京都において、知る人ぞ知る喫茶の名店がある。それはアマゾンであったり、逃現郷だったりもするが、タイトルにもある通り、ぼくが今回語る喫茶店というのは、今出川通りを鴨川から東に数十メートルほど歩いた場所にある喫茶ゴゴである。緑と白の縞々模様が印象的な小さな入り口を入り、喫煙可能な喫茶店のため、「二十歳を超えてますか?」という未成年には容赦ない質問を乗り越えた先に、ようやく大人のための喫茶店が待っている。

 ぼくは出版社・ミシマ社でのバイトの前には、必ず喫茶ゴゴに通う。朝のカウンターには、風貌の似たおじさん2人と、百万遍でケバブ屋さんを営む外国人の常連さんと、おしゃべりなおばあちゃん、その中に、週に1回ほどぼくが入り込むのが習慣である。そしてコーヒーと分厚いトーストとバナナを食らい、たばこを2本ほど吸う。そんなぼくは紛れもなくゴゴの常連である。

 ぼくは今、喫茶ゴゴのテーブルに座っている。目の前には映画『逆光』宣伝チームのユキカゲが座り、アイスコーヒーを飲み干し、何かをしている。左には同じく『逆光』宣伝チームのカナタが座り、「たばこが止まんねえ〜」と言いながらクリームコーラを飲んでいる。そしてもう少しで女優・木越明さんがやってくる。

 なぜ、一端の法学部大学生のぼくが、女優である木越さんと、ぼくの行きつけの喫茶ゴゴで待ち合わせをする機会があるのかというと(相手が誰であれ、待ち合わせ場所を喫茶店に設定しがちなのは、喫茶店での待ち合わせにある種の憧れを抱いているからである)、それはぼくが映画「『逆光』の宣伝スタッフ」という肩書を掲げながら京都の中を動き回っているからであり、かつ木越さんが『逆光』のみーこを演じているからである。『逆光』の某GOGO パーティーに合わせ京都へやって来た木越さんは、その翌日の上映後に出町座で舞台挨拶をする予定で、その舞台挨拶の予定がある夜まで、木越さんに京都を案内する仕事を、僕たち学生宣伝スタッフ3人が仰せつかったわけである。そんなわけで、ぼくはいつもより少しだけかわいらしい装いをしようと思い、サスペンダーを着けてみたりした。

 『逆光』の中でも印象的で、ぼくが特に好きな、4人がくつろぐ喫茶店のシーン(カットを割らず、クイックパンを用いたモンタージュがあっておもしろい)で使われた”バラ屋喫茶”と”喫茶ゴゴ”にはすこし似通ったところがあるようにも思える。例えば、内装のテイストのレトロ加減だったり、壁とテーブルと通路の距離感であったり。照明の明るさをもう少し落とせば、”バラ屋喫茶”の店主さんとゴゴの店主さん双方の公認を得るほどまでは行かぬが、お客が感じる雰囲気としては同じ種類のものを作れるはずである。例えばもし、ぼくが京都を舞台に『逆光』を撮るとすれば、ゴゴに依頼をし、4人でテーブルを囲んでクイックパンによるモンタージュを撮るだろう。

 普段はモーニングのコーヒーばかり飲んでいるぼくは、最近、お昼に行く喫茶ゴゴのクリームソーダは、ソーダ(メロンソーダ)の上に、スプーンでクリーム(バニラアイス)をつつくたびにクリームとソーダが溶けあいながらグラスをつたうほど、大きな大きなクリームが乗っている、そんな頭でっかちのようなクリームソーダがあることを知り、それに気温の上昇が拍車をかけ、天気の良い昼間にクリームソーダを飲むことにハマっている。それに、メロンソーダをストローで吸い上げる木越さんはみーこそのままであって嬉しかった。

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