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番茶づくりは毎日アップアップ【お茶師日記15】

2021年 6月6日

バン茶作りの始まり

 例年より早く、今年の一番茶は5月10日に本茶が終わり、その後バン茶づくりに移行した。この時期の「バン茶」は、一番茶の後遅れて伸びてきた比較的柔らかな芽を刈り取る「芽バン」と、一番茶の残葉の硬化した部分をガリガリ刈り取った「鬼バン」がある。この地域独特の言い方かもしれない。
 「バン茶」は漢字で書けば「番茶」だが「一番茶」と紛らわしいので「バン茶」と記すことにする。
 ほうじ茶や飲料用の原料となるバン茶の価格は当然安い。だから一番茶のように形状や色に神経を使って製茶する、ということはない。
 ということは、そんなに気を遣わず、どんどん作ればいいから楽だね、と思う方もいるかもしれないが、実は、バン茶づくりは緊張感がハンパない。

バン茶作りは効率勝負

 価格の安いバン茶作りは効率、コスト勝負だからである。
 経営者としては、時間当たり生葉投入量を最大にしたい。ラインが稼働しているなら、投入量が多くても少なくても同様にコストがかかっているからである、そこで社長は、常に能力ぎりぎりの量をラインに投下しようとして、蒸し機にぶち込んでくる。
 そうなると、製茶機械は「忠実にいうことを聞いてよく働いてくれるいいやつ」ではなく「ちょっと機嫌を損ねると暴走して手に負えない無慈悲なやつ」に変身するのである。

 バン茶では各機械の工程時間は本茶の半分ほどである。原葉に水分が少ないこともあるが、高い茶温でどんどん処理するからである。私はラインの後半を担当しているので、主に「精揉機」という機械を操作しながら、次々に送られてくる原料を、適正な時間で処理し次の乾燥機に送る必要がある。本茶と違いバン茶の原料は、品質の差が大きい。だから極端にガサガサになってしまったり、逆にちっとも乾かず全く形状ができなかったりする原料が順番に流れてくる。

 例えば水分がかなり多いままの茶が送られてくると、精揉機での処理に時間がかかって、それぞれの釜の上にあるプールに次々に順番を待つ茶が溜まってしまい、一定以上になると計量プールやその前のコンベアが溢れてしまう危険がある。そこで慌ててライン前半の担当者に伝達して前の機械の風量や熱風温度を調整してもらう。
 逆に乾燥が進みすぎてガサガサになった茶が送られてくると、精揉機をかけすぎないように、早めに排出して乾燥機に送らなければならない。しかし、どんどん排出させると今後は乾燥機の処理量を超えて、乾燥機のプールが満タンになり、投入コンベアからあふれ出してしまうので、乾燥機の様子を見ながら、コンベアを手動で操作する必要がある。

 こんな時は乾燥機内の搬送速度を早くして処理量を増やすこともできるのだがが、そうすると今度は、乾燥機を出た後の「電気棒取機」が詰まったり、そのあとの「色彩選別機」が詰まったり、どこかにトラブルが発生しやすくなる。

機械は暴走する

 こんな具合なので、常にラインに気を配りながら、工場内を歩き回っている。そして、ちょっと油断しているとどこかの機械やコンベアにトラブルが発生する。箇所はその日によって違う。大慌てでそのトラブルに対処するのだが、無慈悲にも機械はそんなことはお構いなしに、次々と原料を送り込んでくる。「ちょ、ちょっと待ってよ、今ここが溢れているのがわかんないの? やめてよ、ほんとに!」と言っても機械は暴走したかのように止まってはくれないのである。
 こうして、毎日、いわばあちこちに仕掛けられた地雷を爆発させないよう機械を調整し、見回り、暴走する機械をなだめながら、苦闘しているのである。
 そんなバン茶づくりもようやく終わった。
 来週からは茶畑の雑草と闘うよ。

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