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【最新作云々㉛】最愛の伴侶を失った掃除婦がたった一つ見つけた生き甲斐は眩いばかりのディオールのドレス!! お人好しな中年女性が国を跨いでファッション業界に愛のお節介...な映画『ミセス・ハリス、パリへ行く』

 結論から言おう!!・・・・・・こんにちは。(*´艸`)
 通勤途中にあるエキナカのケーキ屋に陳列されてるショートケーキを見ると『放送禁止の死んだふりをする潔癖症の実験体と、箱の中の毒入りショートケーキと、逆回転でまわるエゴイストのパラノイアボックス』ってCDを思い出す、O次郎です。

Merry Go Roundのミニアルバム。名立たるV系バンドがリスペクトしているということで解散してから後追いで音源聴き漁ったけど…正直なところ高尚過ぎて取っつき辛かったなぁ。(´・ω・`)

 今回は洋画の最新映画『ミセス・ハリス、パリへ行く』です。
 11月18日(金)から公開予定の作品ですが幸いにもこないだ試写会に当選しまして先週一足先に観てきました。
 この夏ごろにTBSラジオたまむすび」内の"アメリカ流れ者"コーナーで町山智浩さんが紹介されており、その時点では日本での配給元がまだ決まっていなかったのですがめでたく公開決まりまして、ソフト化や配信まで待たなくて何よりでした。
 1950年代後半のロンドン及びパリを舞台にした作品であり、ディオールのドレスがテーマということでファッション作品ということは解りますが、"オーダーメイドから既製服への転換期を描いた作品"という解説を事前に耳にしていたので門外漢にもすんなりと物語に入って行けました。
 またジャンルとしては気の良いおばさんが行く先々で愛と笑いを振り撒くハートフルコメディーなので、ファッション云々を抜きにしても肩ひじ張らず楽しめますし、人間にとって、とりわけ人生の黄昏時を迎えた人にとって"生き甲斐"というものが如何に大事なのかを教えてくれる含蓄の有る作品でもあります。
 自分として見どころと感じた点をつらつらと感想として述べていきますが、ネタバレ含みますのでその点ご容赦をば。
 ただ、話の筋を知っていたとしても十二分に面白い作品だと思いますので、観てみようかどうか迷っていらっしゃる方の参考になれば幸いです。
 それでは・・・・・・・・・・・・"幻覚α波"!!

※2000年発売だからリアルタイムで聴いてたとしたら中3か……きっとドハマりして友人に布教して周ろうとして正気を疑われたかもな。(´・ω・`)



Ⅰ. 作品概要と主人公が巻き起こす旋風あれこれ

※日本語版ページが存在しないため、翻訳等でご覧ください。

 軍人だった夫を失い、子もいないハウスメイドの中年女性が仕事先のご婦人のディオールのドレスを目にして一目惚れし、いつか自分がそのドレスを着ることを夢見て目標にしつつ懸命にお金を貯め、一大決心をして本場パリへ乗り込んで一騒動……という筋立てです。
 50年代末の業界大手ディオールが財政難に喘いでいる時期ということで、オートクチュールの斜陽期にして庶民向けの既製服の流れが生まれていく草分けの時代ということのようです。

ファントム・スレッド』(2017)は本作と反対にオートクチュールの仕立て屋側の物語。
本作主演のレスリー・マンヴィルは高潔で高飛車な主人公の姉を演じられています。

 複数の富豪の家庭を顧客として掛け持ちしながらハウスメイドでささやかに生計を立てている老婦人にとり、アッパー層御用達のオートクチュール(上映後のトークショーでの解説では現在価値に換算して一着当たり200万円ぐらいとの指摘も?!)をたった一着手に入れるぐらいなら他にもっと良い使い道が・・・と思ってしまいそうなところですが、彼女にとりこれは"単に食べるためではなく、上を向いて生きていくためのお金の使い方"なのでしょう。
 最愛の夫に旅立たれ、その成長を喜べる子どももおらず、このまま独りでただ働いて食べて眠って老いていくだけだとしたらこれほど辛いことは無いでしょう。自分を潤す"生き甲斐"が若い年代の何倍にも大事であることは想像に難くありません。

そこで連想したのがコンゴのサプールです。
月収の数か月分する1着のブランドスーツを買い込み、
街を闊歩してカッコ良さを競う。
……まさに本作の如く頑張り甲斐のある投資ではないでしょうか。
一目惚れのドレスとのごたいめ~ん、の場面。
目に見えてキラキラとした演出はベタ中のベタですが、
本作の王道の痛快娯楽ストーリーにはそれぐらいが丁度良し!

 決して裕福ではない主人公エイダですが、持ち前の明るさと人の良さで日々の暮らしは鬱々とはしていません。掃除婦仲間の女性と愚痴をこぼしながらも楽しい友達付き合いをし、職場へ向かうバスの車掌や郵便局員とも気さくに世間話を交わし、落し物は迷わずきちんと交番へ届けます。
 時にお節介が過ぎることもありますが、それがわらしべ長者的に縁を生んでいき、後半のパリへの大冒険へと繋がっていきます。
 何事にも執着せず他人に施すその気風の良さはまるで『男はつらいよ』シリーズの寅さんのようです。実際、作中の登場人物たちはみんないい人たちばかりで、イジワルな人も最後には改心していい人ぶりを見せるあたりそのものであり、複雑怪奇なストーリーが氾濫する今日に在ってここまで大上段の人情譚は非常に貴重だと思います。

序盤、エイダがパリへ出向いてドレスを買う軍資金集めのためにドッグレースに賭けるシーン。
ゲン担ぎで無謀な一点賭けをして惜しくも外れてしまいますが、
スタッフが機転を利かせて掛け金を少なくして後日残金を返してくれたあたり
彼女の人徳を感じさせます。
そういえば『男はつらいよ』でも寅さんが"ワゴンタイガー"っていう馬に一点賭けして
大当たりしたエピソードが有ったな…。

 ケチな金持ちがメイドの給金を渋ったりしてなかなか苦労するものの、思いがけない夫の戦没者年金が入ったりして遂に目標額を手にします。
 もちろん、愛する夫に由縁するお金なので一度は躊躇しますが、自分のこれからの人生のためにと決心します。きっと天国の旦那様からしても彼女の夢のために使ってくれて何よりだったことでしょう。

 そして念願叶ってフランスはパリへと渡るわけですが、人生初の飛行機体験でおっかなびっくりしている姿がなんとも可愛らしい限りです。
 初めての地でも彼女の物怖じしない度胸とお節介ぶりが功を奏し、幸運を手伝ってディオールのショーに潜り込みつつ、社の会計士のアンドレとモデルのナターシャと仲良くなってしまいます。

彼女の快活さを気に入ったシャサーニュ侯爵の計らいで販売を兼ねたショーを観覧。
絢爛豪華なドレスを日常の風景として然したる感動も無く眺める常連富裕層に対し、
一着一着にまるで少女が恋するように胸をときめかせるエイダの姿は対照的です。
本当の需要と供給とは何か?ということを端的に問いかけているシーンでもあると思います。
お互いに憎からず思っていつつも立場の違いで一歩を踏み出せない二人を
喝破する世話焼きおばさん、の図。
自身は恋に奥手ながら他人の恋路には口を出さずにはいられないのが
いかにも"女性版寅さん"です。

 ディオール社内のお針子さんたちやモデルさんたちが庶民のエイダにシンパシーを感じて全面的に協力してくれる、というのもなんとも示唆的というか、搾取への抵抗はいついかなる時代でも、というところでしょうか。
 富裕層連中がドレスの仕上がりに難癖をつけたりして金払いを渋り、現金支払いのエイダが上客として扱われる…というのも皮肉が効いています。
 少なくともその時点でのディオールの主要客たちが本当の意味で豊かな人ではなかったということでもあるでしょう。


イケメンアンドレの運転でご満悦…の巻。
エッフェル塔やショーウィンドウはこの上なく煌びやかながら、
町の路上はごみが散乱して汚い・・・という情景も
当時のパリそのままを忠実に再現しているようです。


 パリでのエイダの恋の相手としてはシャサーニュ侯爵なのですが、上品で知性溢れる彼に魅了されつつも、後半の彼の一瞬の言動で急速にエイダの気持ちが醒めてしまうのもまた面白いところです。
 『男はつらいよ』だと寅さんは自ら身を引くか間接的にフラれてしまうかが常でしたが、主体が女性となると自分から気持ちが冷めてしまうパターンが往々にして有り得る、というのがフィクションの喜劇の中にもなんともリアルです。

 そして出演時間は短いながらも強い印象を残すのがさすがの大女優イザベル=ユペール
 序盤にエイダを即座に相応しくない客と見做して冷淡に扱うイジワルさにしろ、終盤の社の苦境を受けての従業員解雇に際してのエイダ主導のストライキに狼狽える姿にしろ、ラストに彼女も過程で苦労を抱える小市民であった弱さを見せる姿にしろ、ディレクターのクロディーヌを短尺で見事に多面的に演じていました。

メイクも手伝ってはいますが、社での高飛車な雰囲気と
自宅での等身大の佇まいとの差たるや・・・ゴイスー!
エル ELLE』(2016)
余談ながら彼女の主演映画はこれが未だに強烈で脳裏に焼き付いてます。
オープニングシーンからして悪趣味というかなんというか…。
還暦過ぎてこの艶やかさ・・・日本でいうとどの女優さんだろう?

 紆余曲折あって遂にドレスを手にしてロンドンへ凱旋帰国するも彼女は彼女、知人の若き女優に気前良くそのドレスを貸与したことで呆気無く失火でダメになってしまいますが、正直者は必ず報われるとばかりに再びドレスが彼女の下に届くことになります。

 

軍人親族会での彼女のドレス姿を見た友人二人の表情…。
作劇としては敢えて彼女自身のドレスアップした姿を見せずにエンドロール…
でも良かったような気はしますが、ディオールの全面協力も得ていたそうなので
そこはバーンと出すのが持ちつ持たれつ、ということで。

 繰り返しにはなりますが、登場人物みんなが憎めないいい人たちばかりで良質のコメディードラマとして温かい気分になれるだけでもこのご時世十分に儲けものであり、そのうえ往年のオートクチュールの造形のある人であればその方面のビジュアルの煌びやかさでもお代わり的に楽しめる秀作だと思います。

Ⅱ. おしまいに

 という訳で今回は洋画の最新映画ミセス・ハリス、パリへ行くについて書きました。
 ちなみに上映後のトークショーはライターのよしひろまさみちさんとタレントのLiLiCoさんが登壇されましたが、私生活も交えたなんともくだけたトークで大変楽しいものでございました。

ちなみによしひろさんは過去数回インタビューされたことのある
イザベル=ユペール氏の怖さをしきりに強調されておりましたが。
なんでも役以外では一切笑わない方だそうで・・・。(゜Д゜)

 言うなれば最初から最後まで観客の予想通りの展開で進んで幕を閉じる物語ですが、それで楽しめるだけの娯楽譚としての普遍的な面白さを持った作品だと思います。邦画ではなく洋画でそれということで普遍的なコメディーセンスのほどが察せられるというものでしょう。
 キャストやファッションの目当ての人はもとより、人情ものが好きな方、ほっこり笑いたい方には是非とも封切られたらスクリーンへ足を運んでいただきたい次第です。
 今回はこのへんにて。
 それでは・・・・・・どうぞよしなに。




今晩は“皆既月食”と“天王星食”だとさ・・・ふ~ん。(⦿_⦿)

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