【最新作云々73】三者三様の情熱を抱いた若者たちの時限青春活劇!! JAZZと一体化し、紙一重の危うい結束の中で蒼い消失点へと突き抜けたクレイジー少年映画『BLUE GIANT』
結論から言おう!!・・・・・・・・・・こんにちは。(*ノω・*)
小学校の時に使ってたソプラノリコーダーのケースの頭の部分、特に男子は乱暴に取り扱った結果破けてしまいがちだったけど自分はなんとか破かずに六年間乗り切ったことが秘かな誇り、O次郎です。
今回は最新のアニメ映画『BLUE GIANT』です。
『ビッグコミック』にて現在も連載中のジャズ漫画。なんとなくで人伝に原作の評判は聞いておりまして、てっきりTVアニメシリーズを経ての劇場版なのかと思いきや今回が初の映像化ということのようなのでそれなら入門編として入り易いかと鑑賞した次第です。
結果、"その道に魅せられた主人公のサクセスストーリー"という外殻の部分は如何にもで使い古された感は有るものの、青年三人のジャズに対する熱意の捧げ方がまさに三者三様となっており、それが危ういところでギリギリ噛み合っているバランスが作中で語られているジャズセッションの期間限定の刹那性を物語るとともに、各人の青春の謳歌の有り方ともオーバーラップしており、非常に構成として見事であるとともに胸が熱くなるものがありました。
それは例えば、学生時代の部活動に対するモチベーションで周囲の友人との開きや相違を感じた思春期の懐かしさ……"自分はどういうアプローチが一番物事に熱中出来るのか""より高みに挑み続けられる人はどういうモチベーションを持っているのか"等々、その後の人生で仕事に取り組む姿勢なり生き方なり、指針となるべきものを模索していたあの頃の感覚を呼び起こされるようでした。
公開からもう既に数週間経ってしまってるので既に鑑賞済みの方も多いかと思いますが、感想の一本として読んでいっていただければ之幸いにございます。最後までネタバレ含みますので未見の方はご注意を。
それでは・・・・・・・・・・アルトリコーダー!!
Ⅰ. 作品概要
原作の第一部のみに絞ってのアニメ化のようですが、その中にも仙台編はほんの序盤の滑り出しと回想で断片的に描かれるのみで、専ら大が上京して玉田、雪祈とセッションを組んでジャズのライブハウスの国内最高峰こと"So Blue"出演を目指しそれを果たすまでに大半の尺が割かれています。
「俺のサックスをみんなに聴いてもらいたい」とは大の言ですが、こういう人が一番凄い。サックスプレイそのものを純粋に楽しみながら、それを"より多くの人に届けたい"という欲求によって包み込むことでどこまでも無垢さを保ちながら高みを目指し続ける孤高さはまさに一流アスリートのようです。
そしてピアニスト雪折はなかなかに茨の道を歩むタイプ。
己の証を立てる勲章のために日々研鑽を重ねるタイプの秀才で、具体的な目標のために地味な努力をひたすら続けられる原動力は尊いのですが、その反面矜持を保つために他人にマウントを取りがちで、それが叶わない相手に相対したり何かしらのアクシデントで目下の目標を失うと一気に折れてしまい易い危険を孕んでいます。
そして最後の玉田は一番ヒーロー性は薄いものの、それだけに一番親しみ易く感情移入し易く、参考に出来る部分も多いキャラクター。
進学先の大学で高校時代までも取り組んでいたサッカーを続けようとするも周囲との温度差で早々に萎えてしまい、その傍らで目を輝かせている大と幸折の姿を見るにつけておずおず初めてスティックを握ろうと決意する。
"楽しい時間を過ごしたい""この仲間と何かに取り組む時間を共有したい"とはその道の高みを目指し続ける背景としては片手落ちかもしれませんが、その卑近さゆえにその気分は誰しもが人生のそこかしこで抱いた気持である筈で、モチベーションの保ち方として何より参考になりつつ共感の余地の大きいところです。
また、彼だけが三人の中で唯一、ジャズへ己が傾注出来る時間に限りがあることを自覚しながら日々の努力を重ねており、"太く短く"を体現することで非凡な才能・努力にも肩を並べ得るということを彼が立証しているのが何より感じ入るところでもあります。
この通り、実に三者三様のバラバラのモチベーションを持ちながらも「十代での"So Blue"出演」という目標の下にギリギリのところでチームワークを保ちセッションする姿が、同じメンバーで長くは帯同せず絶えず一期一会を繰り返すとされるジャズセッションの尊さと、さらには青春の有限性とも見事にオーバーラップしていて、その多層性ゆえに"重厚な青春"とも言うべき物語を味わえました。
また、これまでドラマ面を追ってきましたが、肝心の"音についても"JASSの各メンバーの演奏パートが、先にプロの演奏家(サックス:馬場智章さん、ピアノ:上原ひろみさん、ドラム:石若駿さん)の演奏を録音してから映像を作る、という順序で行われている、とのことで、素人にも迫真性が伝わる"熱さ"でした。
いささかトントン拍子に話が進み過ぎる感は無きにしも非ずでしたが、物語尺も二十歳へのタイムリミットも限られているがゆえにそのへんは然程気にならず、それよりもその物語と音の密度ゆえに、原作の展開を知らないために終盤の"事故"のシーンではものの見事に製作側の手玉に取られるように呆気に取られてしまいました。・・・実際、一瞬静寂に包まれたシーンで同じく原作未読であろう場内の女性の「アッ?!・・・」って声が聞こえたぐらい。
ラストで如何にも未練たっぷりに解散せずにそれぞれの道を歩み始めていく姿もなんとも潔くてカッコ良く、後年になって各関係者へのビデオインタビューの形で要所で挿入され、各々の姿を見せる演出も端的で効果的でした。
そして月並みな言い方になってしまいますが、"音"がこれだけ重要なエッセンスとなっている内容を紙面だけで表現した原作の凄みあっての面白さなのだろうとあらためて感服いたしました。
原作漫画ファンは"アニメを観て原作に興味を持つ"というルートに忸怩たる思いの有るところもあるのが当然のところでしょうが、本作については特にアニメの出来の良さがそのまま原作を讃える形となっているのではないでしょうか。
Ⅱ. おしまいに
というわけで今回は最新のアニメ映画『BLUE GIANT』について語ってみました。
いずれ訪れる別れを予感しながらも有限の連帯の時間を噛み締める姿は実にベタながらも、それだけになんとも普遍的に観ている側の胸を締め付けるものですね。
中年の砌、こうした時間を仕事以外できちんと持ち続けることが最終的な人間的豊かさに繋がるのだろうととみに思った次第でございます。
今回はこのへんにて。
それでは・・・・・・・・・どうぞよしなに。
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