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お客さんはモノではなく、価値を買っている

年末、画用紙を求めに近所の文房具屋さんに向かった。
ビジョンボードづくりというワークショップに参加するために、少し大きめの画用紙が必要だった。

駅前の大きい文房具屋さんに行ってもいいけれど、私の近所にある文房具屋さんは店は狭くて小さいが扱う商品が多く、何より店主のおじさんがやさしくて、子どもの頃から学校の宿題など何か作品を作らないといけないとき、困ったときよく相談に乗ってくれた。その日も、おじさんに会いたいのもあり近所の店を訪れた。

自動ドアから懐かしい店に入ると、いつものおじさんがいない。
いるのは若いお兄さんだった。おじさんの息子さんだろうか。お兄さんはPCのキーボードを叩きながら、こちらの方は見向きもせず「いらっしゃいませ」とだけ、ボソッといった。

画用紙は店の奥にあって、店員さんに言わないと取り出せないスタイルになっていたため「すみません、青の画用紙が欲しいんですけど」と言うと、お兄さんはいかにも腰が重そうな感じで奥から画用紙を出して持ってきた。

お会計をすましていると「袋入れますか」と聞いてきたのでなんとなく「結構です」と言ってそのまま店を出た。裸の画用紙を持ったまま別の店に移動し、ふと買い物の途中で、画用紙の端の方が曲がって折れていることに気づいた。

おもわず手で紙を伸ばしてみたが、一度しわが入った紙は、伸ばしても伸ばしても元には戻らなかった。あのおじさんなら画用紙一枚の買い物でも、紙袋に入れて渡してくれたろうに。。

きっとあの若い店員はあのおじさんに「なあおやじ、これからはオフィスとか学校とか、大型の法人をメインターゲットにしていくべきだぜ。近所の小学生なんか相手にしてたらこの店はつぶれるぞ」とか言ったに違いない。と、あらぬ妄想をしてしまった。

最近読んだマーケティングの本によると、人は買い物をするとき3つの軸から判断するらしい。

1つ目は「手軽」という軸。
これは「時間がないからとにかく早くパパっと済ませたい」というニーズである。ファーストフードなど、早くて安くてそこそこ美味しいというのがこれに当たる。

2つ目は「商品」という軸。
とにかく品質のいいものが欲しいという客のニーズを狙った軸だ。大事な人と食事に行くとき、たいていの人は安い居酒屋やファミレスではなく評判のいいイタリアンなんかに行こうとする。
ちょっとお値段は張るが間違いはないという商品やサービスは、この軸に該当する。

3つ目が「密着」という軸である。
いわゆる「いつもの」店やサービスのことだ。特にとりたててすごく良いというわけではないけれど、店員さんが自分の好みを把握していてくれたり、自分のスタイルをわかってくれている店なんかを指す。

この3つはどれが良くて悪いというわけではなく、人はその時に応じて必要とするものが違うので、提供する側もマーケティングする際、自分がどこに属しているかを知っていると有利という話だった。

今回の文房具店で言えば、以前のおじさんがやっていたときは、どちらかというと3つ目の密着軸の店だった。
そんなおじさんについているお客さんもそこそこ多かったが、息子と思しき人はどうも一つ目の「手軽」軸に店を変化させたようだ。

手軽軸は一見魅力的だが、この軸では大型店舗には勝てない気がする。実際自分も「あのおじさんがもういないなら、駅前の店でいいや」と思ってしまった。

とまあ他人のことはどうあれ、自分も本名で仕事をしていると、たまに軸がぶれてしまうこともあるので気を付けようと思ったりした。
早くて安いと確かに売上は一時的に上がるかもしれないが、自分が目指す「お客様と長いご縁でつながる」からは遠ざかってしまうだろう。

2024年、個の年。日々起こることをまっすぐ見つめながら、自分の道を歩いていきたい。

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