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第11回R293美術展-国道でつながったアーティストたち-

 もうすぐ3年間のリニューアル工事に入る佐野市文化会館。レンガ造りの壮大な建物はコンサートや美術展、式典などが行われる佐野市民にとって身近な場所です。今回佐野市文化会館で2024年3月9日から24日まで開催された「第11回R293美術展」を訪問しました。アーティストによる作品だけでなく、地元との交流の輪を広げる温かな美術展の様子をレポートします。

改修工事目前の佐野市文化会館。幼いころの思い出が蘇ります。

 

R293美術展は国道293沿いのアーティストが集まる美術展

 今回で11回目を迎えたR293美術展。コロナ禍を経て今年、「春つどう佐野 未来への 希望のギフト」と銘打って開催されました。このR293というのは国道293号線のことです。国道293号線は茨城県日立市から栃木県足利市までを結び、このエリアで活動するアーティストがR293美術展に集います。
 今回は太田丈夫さん高松博仁さん二葉のりえさん、山田稔さんの作品を見ることができます。 またアーティストによる作品の展示だけでなく、ワークショップで作られた作品も展示されています。佐野市にある社会福祉法人とちのみ会 和泉にて、太田丈夫さんと二葉のりえさんのワークショップが開催されました。両ワークショップにはとちのみ会のみなさんが着想絵とボタニカルアートに取り組んだそうです。
 展示は絵画だけでなく立体作品もあり、展示室全体にわくわくした雰囲気が漂っていました。素人目線で恐縮ですが、それぞれの作品を拝見した感想をシェアしたいと思います。

美術展の図録。表紙のデザインもかっこいい!

近くで見ても遠くで見ても。心のままに鑑賞してみる

R293美術展 展示室の様子

 入ってすぐ1/fゆらぎのような不思議な形の絵に目を奪われました。フルイドアートの二葉のりえさんの作品です。カラフルでありながら品のある色使いにおしゃれな印象を受けました。二葉さんはAcrylic pouring Fulid artという技法を使っています。欧米発祥ですが、最近日本でも人気が高まり、当事業団の事務室にも飾られています。
 この技法は、アクリル絵の具と溶剤の化学反応によって模様が浮き出るため、その一瞬にしかできない唯一無二の表現になります。目では認識できない世界や、人の奥底にある心情が描かれているそうです。鯉や孔雀、ハスの花などのモチーフや何もない空間と相まって「美しい・・・」と息を呑んで見入ってしまいました。

色使いとゆらぎの形に一目ぼれした二葉さんの作品


 次に大谷石に魅せられた髙松さんの作品を見ていきます。二葉さんの作品とは打って変わり、直線のリズム感溢れる作品です。髙松さんは足利市在住で、14-15年前に訪れた大谷石の採石場に衝撃を受け、大谷石を描き始めたそうです。地下の採石場に入った時の闇と空間の印象を大切にされていると仰っていました。今回展示されていた中で1番新しい作品「群立」は、他の作品と違って光に向かっているのが特徴です。闇と光は表裏一体で、光があるから闇があり、闇があるから光があります。辛いことがあっても光に満ち溢れる日がきっとくる!とまだまだ思春期の終わらない私の心の中に響きました。キャンバスに書いているのにまるで本物の石のような質感は、ぜひ近づいてご覧いただきたいです!

髙松さんご本人。大谷石の質感は長年の積み重ねで出せるようになったそう。


 展示室奥にあるのは太田丈夫さんの作品です。完成した自然豊かな絵画も素敵なのですが目に留まったのは次回作の構想。「円の響き合い」というテーマで構想の過程を展示していました。意外にも飼っている猫から着想したそう。「猫はどこをとってもまぁるいんだよ」と教えてくれました。絵が飾られる空間はほとんどが四角の中です。四角の中に丸を描くと必ず余白ができてしまいます。どんな構成にするのか、たくさんの計算の跡が見られますね。構図や配置は緻密な計算のもとに作られているなんて考えもしなかったので、新しい発見でした。

たくさんの数字がかかれた次回作の構想


 最後は山田稔さんによる作品です。絵画ではなく、立体作品と詩が展示されていました。図録の紹介文に「「楽しい」という感受に水をさす心のコレステロール。これを分解するのがアートの仕事だと思っている。」というユニークな表現をされていた山田さん。遠くから見ていると庭園のようにも見えたけど、近くで見ると大量の綿棒が・・・!毎日のようにお世話になっている綿棒がアート作品になるなんて衝撃でした。また詩についても、単に展示されていたわけではありませんでした。災害や戦争の心が痛む新聞記事の上に書かれていました。その詩の意味が100%わからなかったけれど、なんだか感情にぐさりと刺さりました。

よく見ると綿棒!山田さんのユニークな作品

大胆で無心に。地域に美術の種をまくワークショップ

 とちのみ会 和泉で精神障害のある方が参加されたワークショップ。ここからは太田丈夫さんが行った着想絵のワークショップについてお話を伺いました。
 太田さんが大切にされているのは「手ざわり」。ワークショップのキャンバスはなんとタオル!タオルの感触を生かすように好きな色の絵の具を染み込ませていきます。アメリカではカラーフィールドペインティングという現代美術の手法のひとつでもあるそうで、「日本だと水墨画をイメージするとわかりやすいですよ!」と教えていただきました。
 参加者のみなさんは色水を垂らしてみたり、手や指で塗ったり自由に作品を作っていきます。それぞれの作品には太田さんによって仮題がつけられています。テーマから作品を作るのではなく、作品を見てタイトルをつけたそうです。「私だったらどんなタイトルにしようかな」と絵を鑑賞してみるのも楽しみ方のひとつかもしれません。
 私たちはついつい思考したものを表現しようとしてしまいます。そうすると絵を描くことが難しく感じ、絵に親しむハードルも上がってしまいますよね。R293美術展ワークショップでは、思考を手放し、目と心と手を使うことを大切にしていたそうです。優しい色使いとその時の楽しい雰囲気が伝わる作品ばかりでした。

お話を伺った太田丈夫さん。とちのみ会のみなさんの作品の前で。


 1点1点が個性的でじっくり眺めたくなる作品ばかりだったR293美術展。国道293号線を起点に集まったアーティストたちが、地域とのつながりを作ったり、心と体のつながりを感じさせてくれるような美術展でした。美術や絵画は全くの門外漢である私には行くまでのハードルが高かったのですが、美術館スタッフさんやアーティストのお2人とお話したことで、心の赴くままに鑑賞できたような気がします。
  帰り際にはアートガチャガチャを体験。二葉のりえさんのフルイドアートのカードをいただきました!好みの配色だったので、早速自宅の作業スペースに飾りました!オンラインミーティングの時、みなさんの心を華やかにしてくれそうです。

我が家のワークスペースを彩るアート。二葉さんの作品が仲間入りしました。

🎨佐野市文化会館

🌟 公益財団法人佐野市民文化振興事業団 佐野市大橋町2047(佐野市郷土博物館内)
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