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人魚の恋うた

あとさき考えずに
逃避行みたいに
二人きりの世界に
駆け込みたかった
逃げ切りたかった
でも、駆け込んだ先に
何が待っているのか
十分すぎるほどに
知っているから
駆け込めなかった
駆けこまなかった


二人でいることは
日常にならなかった
だからこそ、はじまった
だからこそ、進んでみた
だからこそ、
続けられると
思っていたはずなのに

あなた100%の世界に
わたしの足一歩
踏み入れたら、ダメだ
その先は、すすめない
その先は すすまない
一歩入り込むことは
終わりの始まりだって
予感していたから
それだけは避けたくて
どうにか避けたくて
理性で押さえようと
していたはずなのに
理屈を超えて
リスクおかして
会いに行ってしまった
逢いたくて行ってしまった
触れたくて、入れたくて
あとさき考えずに
あとさき考えても
止められなかった
そうなることなんて
わかっていたのに。
わかっていたのに。


それでも、
衝動に罪はない
それが本能だから
生きる証だから
本当のホントウだから。


傷だらけになって
泣いて
目は腫れあがったまま
皺は深く刻まれて
この身はよじれてしまって
血液は逆流して
筋肉はこわばって
そのくせ、奥の奥で
律動は続くから
この肉体、持て余して
波に打ち上げられて
動けなくなって
足を失ってしまった
私、ずぶぬれの
人魚だった。


満月の夜
波音聴きながら
夢で
二人踊ってた
ただただ、揺れあって
ゆっくりと抱き合って
ブルースみたいな曲で
二人恋していた時間ぜんぶ
閉じ込めながら
ずっと 
踊っていた月夜


目が覚めたら一人
ずぶぬれのまま一人
髪も乾かさぬまま
動けなくなっていた
足を失って一人
私、ずぶぬれの
人魚だった。


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