Chapter-589 ジーンタイムリープ作用をトリガーに薬を探す

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2016年2月20日 Chapter-589 ジーンタイムリープ作用をトリガーに薬を探す 

あらゆる病気に特効薬が開発され、病気で苦しむ人たちが救われるのは理想ですが、医薬品の研究開発は非常に成功率が低く、莫大な研究開発期間と費用を要します。また、患者数があまりに少なく商業的に成立しない疾患については治療薬の研究自体がなかなか行われません。

そんな中で、すでに市販されている医薬品の有効活用として、産業技術総合研究所が新たな医薬品の発見方法を開発しました。その方法はすでに医薬品として使用されている物質を別の病気の治療に活用する「ドラッグリポジショニング」です。これは遺伝子のタイムリープをトリガーにして新しい治療ターゲットを探しますので、成功確率が非常に高いのも特徴です。

ドラッグリポジションは2種類のデータベースを比較して医薬品を探します。ひとつは、病気を発症することによって働き方が変化する遺伝子のデータベース、もう一つは薬を飲むことによって働き方が変化する遺伝子のデータベースです。治療ターゲットとして設定した病気が発症している人の遺伝子の働き方がどのように変化しているのかを調べます。この時、遺伝子Aの働き方が1から2に変化していることがわかったとします。

つぎに二つ目のデータベースで遺伝子Aの働き方を2から1に変化させる医薬品を探します。つまり、病気になって変化した遺伝子の働きを、タイムリープで時間を巻き戻すように元に戻す、つまりジーンタイムリープ作用をする医薬品を探すのです。

このようなドラッグリポジション法で従来の抗がん剤では効果が出にくい前立腺がんに効果がある医薬品が発見されましたが、これは肝炎の薬として開発された薬でした。実際に2016年3月から慶応義塾大学臨床試験を始めます。つまり、治療のターゲットについての基礎研究も、動物実験も、安全性試験も大幅に省略していきなり臨床試験に着手できるのです。

この記事はインターネット科学ラジオ番組「ヴォイニッチの科学書」のあらすじです。

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