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6月の記録

引っ越してしばらくが経ち、冷房をつける日が多くなったことに季節の経過を感じた。
彼が紫陽花でも見に行こうと行ってくれて、1人眼科に行っていた私を迎えに来てくれて、丸亀製麺でうどんを持ち帰って食べたあと、紫陽花を見に行った。
仕事はまだ分からないことも多いし、人間関係は少し怖いし、この先の将来に不安なことは多いけれど、転職して引っ越しをして、引き剥がされるようにいままで溺れていた沼から離れて、青空を見る時間が増えた。いいことだ。

転職は思ったようには行かなかった。
彼と休みが合う仕事で、生活と両立ができる仕事で、ろくにスキルを持たない私がもう転職しないでいいところ。
いろいろ考えて恐ろしく忙しいなか転職活動をして、内定をもらって、頑張ろうと思ったけれど、慣れない土地で電車とバスを乗り継いで通う職場は、毎日たくさんの人とすれ違う。
勤務時間はずっと減ったのに、通勤時間を合わせると前職くらいに一日の時間を占めるのが辛かった。
1つ不満があると、いくつもぶわりと不満が湧いてくる。
あまり普遍性のない仕事だ。事前の研修なんて何も使われていない。人手が足りていない。勝手が分からない。暗黙の了解が怖い。希望する職種を聞いてくれて、紹介できると言っていたのに、全然そんなことない。わがままだと思われるのも癪で言えない。
それでも、前の職場に比べたらすごくぼんやりとした色彩の世界で、働いている。
きっといつか、ここで働いてよかったとそう思える日がくるはずだと信じて、今日も私は似合わぬ早起きをして電車に乗っている。

たぶん1年半くらい帰っていなかった実家に、土日だけで帰った。
遠いのでずっと躊躇っていたけれど、引っ越したいまでは片道3時間程度なのだと知って、調子に乗った。
リフォームをしていた家は、全体的に白く明るくて、猫が2匹いて、優しく爽やかだった。
祭りがあったので、妹と母と、浴衣を着て歩いた。
慌ただしい帰省で、家族以外とは会わなかった。
新幹線の改札に迎えに来てくれた彼を見たときに、いつもと違う感覚になった。
いつも、私は1人で部屋に戻っていた。
こちらで見送ってくれる人はいても、迎えに来てくれる人はいなかった。
だからだろうか、と、目を瞬かせて彼を見あげたけれど、そういうことではなかった。
期間が短かったからだろうか、あちらが祭りで非日常だったからだろうか。
いつもならば、実家に既に私の居場所はなく、こちらの街もまだ私に馴染むとは言えず、どこにも居場所が無いような心もとない気持ちになっていたのが、実家にもちゃんと私の椅子はあって、こちらにも待ってくれている人がいて、するりと落ち着いた。
18歳で実家を離れてから初めて感じる感覚だった。

もう数日もすれば、25歳になる。
特に記念日なんて大事に出来たことはないけれど、今回はなんだか身構えてしまう。
先は長い。
暗闇のように見える。
太宰の『桜桃』を読み返した。
日々は続いていく。
それは救いというよりも、呪いのようだった。
それでも、その日々の中に愛おしいと思える瞬間があることに感謝して、目を開けたまま、生きていくことを目標とした。


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