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モハ1形に最後に乗った日の事

前回の續きであります。
今や最期の時を迎えんとしている小田急はロマンスカーのVSE車に乗って友達と箱根に遊びに行った時の事であります。
時に令和2年11月7日の事…。

強羅行き登山電車に乗り換え

ロマンスカーの車輛を背に、登山電車に乗り換えて一路、強羅を目指します。

古參の車輛が待っていました

これまた珍しいモハ1形電車。
どことなく「ウルトラマン」を彷彿とさせるお馴染みの塗色。
今は鬼籍に入ってしまったこの車輛もこの日はモーター音を高らかに唸らせて元氣よく走っていました。

もう先が短いのが解っていたのか、最後の思い出にこうして驛で會えたのがとても嬉しかったのです。
しかしロマンスカーのVSE車に續いて、とうとうこの素敵な車輛にも別れを言わなければならない日がやって來ました。

色とりどりの3兩編成

カーブで響くブレーキ音、重厚な走り心地の登山電車。
山道坂道頑張る老いて尚元氣な雄姿を見せてくれます。

最早これは只の移動手段ではないのです。
そう云うところを解り易く樂しめる様になれゝば、單なるマニアの間の嗜好に終わらぬ鐡道の旅の浪漫を味わえるのでありますが、残念乍らどうも今日ではそれはいさゝか難しい様です…。

眼下に見える絶景かな

この日はまだ紅葉も始まりに近く、漸く山々が色附いてきたのが見える位でしたが、この箱根の山を見下ろす車窓の素晴らしき事。
こう云うのを無駄にしないのが旅を樂しむ秘訣かと存じます。
こんな貴重な瞬間に車内でスマホでゲームなんかやっている人は札束をドブに捨てるが如き實に勿体無い事をしているのであります。

列車は数度のスイッチバックを繰り返して頂上の強羅驛を目指します。
進む方向が変わる事に戸惑う連れに自轉車の例を挙げて「要するに坂道がキツいのでジグザグに登っているのだ」と解り易く説明を致します。
専門用語や豫備知識を無暗にひけらかさないのが眞の鐵道ファンだと思います。

この路線は1㎞進毎に80m登る事になる「80‰」もの勾配の坂道が在り、これが日本の鐵輪だけで進む「粘着式」と呼ばれる鐡道では最も急な坂道になるのであります。

つまり、1m進むと8cm上がるのです。この車輛が14m級なので1兩の端から端迄で約1mの高低差が生まれる計算になります。
レールを枕木に固定しなければ、そのまま滑り落ちてしまう位の坂道です。
車内の床にボールでも置いてみるとよく解るのです。

それでもピンと來ない友達に以前歩いた碓氷峠の話をし、アレの勾配は最大で66.7‰だったのを説明。
その坂道を息を切らして歩いていたのにこの電車は36tもの自重を引きずって登っているのだと言ったところ次の様なよく解らない結論に至りました。

つまりは都心の通勤電車は地球で普通に過ごしている悟空で、嘗ての信越本線が界王星で修行をしている悟空で、箱根登山電車はナメック星に向かう宇宙船の超重力下で重い胴着を着て修行している悟空の様なものだと…。

果たしてこんな説明で良いのだろうか…と疑問に思いつゝも、こうした登山電車ならでは(?)の見地を知るのもまた旅の樂しみです。
そう云う道中の見所を省略してしまうと炭酸の抜けたコーラを飲む様なものでありまして、非常に良いものが台無しになってしまうのです。

さらば老兵よ

程無くして終着驛に到着。今生の別れに一枚…。

ついでに模型も撮影

模型は101號、つまりトップナンバーであります。
我々の乗ったのが104號であるからして、その4番機と云う事になります。
こう云う蘊蓄も鐡道の旅の一つの良き調味料であります。

やって參りました強羅驛でございます

山小屋風の驛舎がお洒落な強羅驛。
ここから鋼索線に乗って次なる目的地を目指します。
鋼索線とは所謂ケーブルカーの事であります。
何氣無く使っている單語も日本語に直すとカッコいいものです。

續く…

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