見出し画像

SIerにおけるプロジェクト・仕事の種類


はじめに

システムインテグレーター(SIer)の主な仕事は、顧客企業からITシステムの開発や保守を請け負うことです。SIerの社内では、担当する顧客やシステムごとにチーム・部署を分けており、これをプロジェクトと呼んでいます。

一口にプロジェクトと言っても様々な種類があります。この記事では、SIerにおけるプロジェクトにどのような種類があるかを紹介したいと思います。

SIerで働くことを考えている方のお役に立てば幸いです。

なお、筆者が所属してたSIerの経験から記載していますが、会社による大きな差異は無いと思います。但し、筆者はアプリケーション開発の仕事が中心でした。基盤やネットワーク等の仕事は少し特徴が異なると思いますのでご了承ください。

プロジェクトの種類

1. エンハンスプロジェクト

1つ目は「エンハンスプロジェクト(エンハンス)」と呼ばれる形態です。これは一般的に「保守・運用」と言われる仕事と近い意味です。「保守・運用」はシステムの維持という意味合いが強いですが、エンハンスでは既にリリースされたシステムを継続的に改善したりメンテナンスしていく活動を意味します。

とはいっても、業務の実態は保守・運用であることがほとんどです。具体的な業務としては、追加機能の開発や制度変更に伴う小規模な対応、データパッチ、バグ対応、障害対応等です。小規模な案件について、要件定義、開発、テスト、リリースという一連のプロセスを繰り返し行うことになります。
※「エンハンス」と「保守・運用」は別物として扱うべきという意見もあるかもしれませんが、SIerでは実質的に同じ業務であるケースが多いためこの記事ではまとめています。

現代において、企業のIT化されていない業務はほぼ無くなってきています。そのため、SIerのメイン業務は既存システムのエンハンス(あるいは保守・運用)であり、感覚的には社員の6〜7割が担当していたように思います。

また、SIerにとっては安定した収益源となります。エンハンスは顧客と半年や1年といった期間で契約を行いますし、翌年度も継続する確率が極めて高いためです。例として、Webサイトのエンハンスの場合、顧客企業がそのWebサイトを閉鎖したり別のSIerに乗り換えない限り、SIerはエンハンスの収益を継続的に得ることができます。

2. プロジェクト型

2つ目は「プロジェクト型」です。

そもそもプロジェクトとは「独自のプロダクト、サービス、所産を創造するために実施する有期性のある業務」とPMBOK第5版で定義されています。
1で紹介したエンハンスは開発とリリースを延々繰り返している点で「有期性のある」と言って良いのか疑問であり、私自身はあまりプロジェクトと呼んでいませんでした。

そのため、この記事での「プロジェクト型」とは専門のチームを組成して明確なリリース時期のある活動のことを意味しています。おそらく、就活生がイメージするのはこのタイプの仕事ではないでしょうか。

規模の大きいSIerだと金額的に1億、10億、あるいはそれ以上の規模のプロジェクトも存在します。感覚的には、1億を超えてくるとそれなりに規模もやりがいある印象です。

プロジェクト型の多くも、大規模な機能追加や制度改正、OSやミドルウェアの更改など、既存システムへの改修であることが多いです。
エンハンスのチームでは賄えないほどの開発が必要になった場合、専門チームを立ち上げてプロジェクトを行います。この場合、既存システムに対する知識が必須なので、エンハンスに従事するメンバーが専門チームに移動したり兼任して、プロジェクトを推進することも多いです。プロジェクトが終われば、再度エンハンスとなります。

もちろん、新しい顧客や新規ビジネスの立ち上げに伴うITシステムの開発といったプロジェクトも少なからず存在します。

3. PoC

3つ目は「PoC(Proof of Concept)」と呼ばれるプロジェクトです。これは新しい技術やビジネスを試験的に検証する活動を意味します。

例えば、「生成AIを使いユーザー向けチャットボットを作れないか」という話が顧客から上がった場合でも、「使い物になるか」「どのような技術要素を使うか」をまず確認する必要があります。こういった確認の活動のことであり、本格開発に入る前の実証実験のようなものです。

AI・ML、クラウドの新規サービスなどの新規技術を扱うことも多くあります。一方、検証活動であるため、予算と人員が限られることがほとんどです。

プロジェクトのメリット / デメリット

1. エンハンスプロジェクト

メリット
エンハンスのメリットは、テーマの規模が小さいため開発メンバーが設計から開発、テスト、リリースまでを一通り担当できることです。
顧客の担当者から困りごとを直接聞いて、それを設計に落とし込み、開発、リリース、改善まで関われるのは、ビジネスやシステム開発の全体像を理解する上で非常に良い経験になります。また、リリース後のユーザーの反応を見て、フィードバックを得ることができるのも魅力の一つです。

デメリット
デメリットは、マンネリ化しやすいことです。期限がないため、次から次へとテーマをこなしていく日々が続きます。また機能追加のようなテーマも限られており、過去テーマと類似した作業や単純なデータパッチ等、考える余地の少ないテーマがメインです。もう少しやりがいのある仕事をしたいと感じることが多いです。
また、障害はいつ起きるかわかりません。夜間のバッチ処理が異常終了した場合は、オンコールで叩き起こされることもありますし、休日のプライベート時間が潰れてしまうこともあります。

2. プロジェクト型

メリット
プロジェクト型のメリットは、やりがいのある仕事ができることです。明確なゴールに向けてチーム一丸となって取り組む仕事であり、SIerで働くイメージに近い人も多いのではないでしょうか。
プロジェクトが成功した際には大きな達成感を得られます。

デメリット
デメリットは、忙しくなりがちなことです。有期性ゆえに、各工程の期限や納期が迫ってきたり、問題発生時には深夜まで働くこともあります。
また、大規模プロジェクトになると社内のレビューも多数入ります。直属の上長だけでなく、他部門の部長や役員を交えたレビューもあり、その準備が非常に大変です。顧客向けの説明よりも社内向けの説明の方が大変だと感じることも多々あります。

補足:エンハンスとプロジェクト型に共通するデメリット

大規模なエンハンスチームや、長期に渡る大型プロジェクトの場合、チームが細分化されます。結果、自分の担当業務がプロジェクトの中でどのような役割を果たしているのかわからなくなり、やりがいを感じにくくなります。

エンハンスで言えば、営業 / 開発で分業している場合、開発チームには必然的に顧客の声が届きにくくなります。また、大型プロジェクト型では、複数のプロジェクトから成り立つようなケースもあり、その1チームからプロジェクトやシステム開発の全体像を把握することは難しいです。

3. PoC

メリット
PoCのメリットは、先端の技術に触れられるケースが多いことです。また自分でコードを書いたりクラウド環境を用意することもあるので、エンジニア志向の人にとっては非常に面白い仕事と言えます。

デメリット
デメリットは、本番稼働を見据えた設計を学べないことです。
PoCで検証したいのはビジネスへのインパクトであり、開発するのは『とりあえず動くもの』であることが多いです。
SIerでは金融や公共、産業など、大規模かつ高い信頼性が求められるシステム開発を数多く手がけているため、セキュリティ、パフォーマンス、運用、エラーケースといった点を考慮して設計しています。PoCでは基本的にそこまでの作り込みはしないため、これらを学ぶ機会が少なくなります。

SIerで良いキャリアを形成するには

私見になりますが、エンハンス、プロジェクト型、PoCをバランス良く経験することが重要と考えています。それぞれ特徴は異なりますし、仕事の進め方、得られるスキルも異なります。

例えば、エンハンスAからエンハンスBのチームに異動しても、得られるスキルに大きな差はありません。一方、プロジェクト型の仕事ばかりしていると、エンハンス(保守・運用)の大変さを知らない人になってしまいます。エンハンスが楽になることを見据えてプロジェクト型の仕事をできる人こそが優秀だと私は考えています。
また、PoCを通してエンハンスやプロジェクト型では扱わないような新しい技術、新ビジネスに関心を持つことも重要です。

加えて言えば、プロジェクト型でも既存システムへの改修プロジェクトではなく、新規性の高いプロジェクトの経験もするべきです。例えば、既存への改修プロジェクトではアーキテクチャや言語・FW、データベース等を新規で考えるケースは少ないです。
一方、新規性の高いプロジェクトではそれらをゼロベースで考えることもあります。それゆえ、課題も多く発生しますしプロジェクト型の中でも特に忙しいのですが、得られるスキルは非常に多いです。振り返ると、SIerで一番成長できたのはこういったプロジェクトを担当したときでした。

これらをバランス良く経験するには、自分の今の業務が3つのどれ該当するかを客観視することが重要です。客観視した結果、いまの自分に何のスキルが足りないのか(何を経験できていないのか)を言語化しましょう。
そして、ある程度の期間同じ業務をしていると感じたら、どのようなスキルを伸ばしたいのかという理由とともに、異なる仕事をしたいという希望を上司にはっきり伝えましょう。発信しても異動できないケースも多いですが、行動しなければいつまでも異動できません。

おわりに

以上、SIerにおけるプロジェクトの種類と、それぞれのメリット・デメリットを紹介しました。SIerで働く方、あるいはこれから働くことを考えている方のお役に立てば幸いです。