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グーグルと解釈モデル

たまには医学のことを書こうと思う。今日こそ鬱屈王をやめるのだ。

僕は休日たまーにグーグルで症状のことを調べている。Uptodateじゃなくて?今日の診療とかでもなく?お医者さんなのに?

外来の患者さんを沢山診る場合(特にクリニック)は、効率アップのこつであると考えている。

患者さんは様々なことで困って来院する。待ち時間にどんな症状があるか「問診票」という紙に記入してもらう。例えば呼吸器内科には長引く咳で来院される患者さんは少なくない。

診察室では「医療面接」が始まる。おじさんくらいからの年代のお医者さんはOSCEという試験を合格して進級している。その際に、面接の「お作法」を学ぶ。それ自体の考え方は悪くはない。

お医者さんはそもそも計算能力がとびぬけて高い方が少なからずいるために、「咳がでたのですね吸入薬(ICS/LABA/LAMA)と鎮咳薬、あとマクロライドと去痰薬を出しておきますねー改善しなければまた来てくださいねー」という、人の話を全く聞かなくても確率論的には結構治ってしまうプラクティスをしてしまいかねない。それにより人が幸せになるかどうかは僕にはわからないが、OSCEはそういう面談を防ぐためにやっているのだろうと思う。たぶん。

教科書的な流れとしては、「咳でお困りなんですね。その咳はどういう時に始まって、どういう時におさまって、どのくらい続いているんですか?」などざっくりした質問(Open-ended Question)から、「風邪をひいたあとに咳が止まらないことはありませんか?マイコプラズマ気管支炎(なんだその病気は?)に毎年なるとか言われてませんか?ご家族に喘息の人が居ますか?花粉症がいますか?」など、「はい」か「いいえ」で答える質問(Close-ended Question)を駆使し診断に迫っていくのである。

しかし、これではネホリンハホリン聴かれて、一方的なコミュニケーションになってしまう。まさに「君かわいいね(笑)どこ住み?会える?何歳?今暇?会わない?てかLINEやってる?(笑)」状態である。

そこで、「解釈モデル(Explanatory Model)」のお出ましである。解釈モデルとは、「患者さんが病気のことをどうおもっていて、何が心配なのか」である。
患者さんの思っていることと、医療者が思っていることとのズレから、「患者満足度」が下がる。だから、そのズレを心配するために「何か困ったことがありますか?」というアプローチが大切であると。「どうしたの?話聞くよ?」みたいなものか。

医学教育の教科書などでは、ここをうまく引き出せ、という感じになっている。引き出せないなら、「受療行動(Health-Care Seeking Behavior)」から探れと書いてある。受療行動とは「症状に対して患者さんが何をしているのか」である。例えば、「会社に行きなさいと言われてきた」ら、症状が全然違っても「PCR検査を受けるように言われて来た」のかな~?なんて考える。でもわからなければやっぱ「解釈モデル」にもどれ、など卵が先なのか鶏が先なのか禅問答なのかよくわからんことになっている。で結局これは、「解釈モデルはお前が察しろ」という意味に他ならない。

たしかに丁寧な素晴らしい方法だが、丁寧すぎて長すぎる。というより長すぎてお医者さんの自己満乙になりかねない。

僕がたまーに症状をググっている理由は、この解釈モデルとやらを効率的に探るためである。「咳、止まらない」でググってみよう。

なるほど。咳が止まらない人は夜が多くて、コロナが心配で、原因が気になって、どの病院の何科に、どう対処すればいいんだろうと困っている。
少なくともこういうことでググっている人が多いとわかる。いやいやそんなの当たり前やろだと思うんだけど、お医者さんがガチガチの頭になって故障してくると、同じ症状が連続して来たりするとこういうことをボケてすぐには想起できないこともある。

グーグルは「解釈モデルのテンプレ」なのである。このポイントを少しでも覚えていれば、外来はとてもスムーズとなる。

外来診療は、「話を聞いてもらえた感じ」を提供しつつ、適切に治療・検査する(その場の診断は必須ではない)ことを如何に素早くキレ良くこなすことが大事と思っている。


コミニュケーションが苦手な人間なりに努力をしている。
いつも外来終わった後あしたのジョー状態。でも、医者って面白い。

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