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「大きな病院」の医師から人に役に立つ医師へ

最近は人前でしゃべることが多くなり、講演の前に略歴を紹介されることがあり、「過分なご紹介を誠にありがとうございます」などと言うことが増えてきた。

「〇〇年にほにゃらら大学をご卒業され、〇〇医療センター、ほにゃらら大学病院を経て、現在はここに勤められています」というような紹介だ。

自分の経歴を文字列だけで見れば、どれも「大きな病院」ばかりだ。その経歴はなんだか強そうに見える。どうやらこれを「第一線」というようである。

医師が働けるところはたくさんある。大学病院、地域の大きな病院、何かの疾患・分野に特化した専門病院、回復期リハビリテーション病院、療養型病院、療養病院付属の施設。美容のクリニック、開業医、訪問診療、産業医、製薬会社、感染症コンサルタント・・・。様々なことに「つぶし」が効き、仕事がなくなることの心配はなさそうだ。大変ありがたいことだ。

「大きな病院」は激務に対する見返りは少ない


「大学病院」「医療センター」などの「大きな病院」は、救急で患者さんを多数受け入れ、重症者には集中治療室があり、たくさんの手術や新しい薬剤など、進んだ治療が行われている。専門性を高め、研鑽する場所でもあるため、若手の医師が集まっている。実際は、このような条件が全てそろっている職場は天文学的に少ないのだが、「大きな病院」ではいくつかが揃っている。「大きな病院」には夜間呼び出しも多いし、土日にも病棟を回診しなければならないことも多い。外来カルテの診察内容を振り返ったり、予約患者の「予習」や外来サマリーを書いている広い意味での診療時間は「自己研(粛清)」ゲフッ・・・で労働時間に入らなかゴホッゴホッ・・などいろいろと「激務」であることが多い。そして患者さんの医療に期待することが多い分、クレームは多い。ストレスフルな仕事である。

医師以外の人は驚くかもしれないが、「大きな病院」で働く医師の給与は、他の施設で働く医師よりもそれほど高くない。むしろ低い。もちろん平均年収よりかなり高いことには違いがないが。労働時間と大変さに比べ、給与が逆転してしていることがある。
普通に考えると、大きな病院よりも楽で給料がいい仕事が沢山あるんだから、そうでない病院で働く方が得だ。大きな病院なんてとっとと辞めてしまえばということになる。だけど沢山の医師が大きな病院で勤務を続けるのは理由がある。人それぞれだろうが、僕の理由を書いていこうと思う。

僕が「大きな病院に」にしがみ付くみっともない理由

正直、僕は今までのキャリアを積んできた主な理由は、ひたすらに苦行のような研鑽を続け、ステップアップを重ね高みを目指そうという狂気に駆り立てられた結果であった。しかし、それだけでなくエリートコースからの脱却の恐怖もあったと告白したい。

医師のキャリアでは、大学病院・医局の世界で生きて、出世し教授を目指すコース、専門性を高め、専門医を取得し活躍するコースが「標準的なエリートコース」だ。医師のSNSではこれらから外れることを「ドロッポ(ドロップアウト?)」と表現される。

別に医師をクビになっているわけでもないのに、ドロップアウトなのか。これは医師が厳しい受験戦争を勝ち抜いたエリートの集団であることも原因である思う。とくに自分は劣等感に支配された人生を送ってきたので、人一倍その傾向が強かった。ただ、それを認めたくないことからか、「配られたカードで勝負するしかないのさ(by スヌーピー)」などと自分自身に呪いをかけて努力していたこともあった。

そんな僕が「大きな病院」から今の職場へ

そんな僕が、今の地域の病院に勤めることになった。自己肯定感というより自分のメンタルはどうなるのだろう、少し心配になった。だけど、今の職場に来てからは逆に自己肯定感は爆上がりである。どうしてなのか。
今は与えられた環境でどれだけ自分を研ぎ澄まし勝負するかではなく、与えられた環境で、どれだけ役に立つのか、院内と地域にどれだけ貢献できるのかということを第一に考えて生きている。場合によっては人に付け込まれている自覚もある。でもそれってお互い様だと思う。なによりも自分の幸福度がとても高い。


「私はどんな色にでもなれるキュラソー。 前の自分より、今の自分の方が気分がいい……ただ、それだけよ」(名探偵コナン 純黒の悪夢 より)

いや、ごめんこれが言いたかっただけかもしれません。しかし、こんな当たり前のことに気が付くのに何年かかってしまったのか。ただ幼稚な自分を反省する日々です。これからも誰かの役に立つ人生を歩んでいきたいものです。ただ自分の生き方が正しいと主張したいかのように、エビデンスの知識でマウントをとろうとしていたような、尖っていた若い頃の自分を叱ってやりたい。いや、それも悪くなかったかな。努力は悪いことではないからね。



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