サンドスターは記憶に基づく新しい進化の形を作っている? ~情報進化~

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で、アニマルガールが歴史上何度も出現しては消滅している可能性を指摘した。

ただし、ここで一つ注釈を加える必要がある。それはアニマルガールが消滅しても、アニマルガールの情報は消滅していないということである。

けものフレンズ3で新たな事実が判明している。それは、「思い出が消えても、この星が憶えている」ということである。「この星が憶えている」が具体的にどういうプロセスなのかはわからないが、アニマルガールが記憶を失っても、別の部分で記録されている、いわば記憶のバックアップが行われているということがわかる。前回も登場した以下の図では、そのバックアップ装置を作中の用語を用いて「星の記憶」と呼んでいる。

サンドスター

我々人間を含む既知の生物は、記憶を直接送受信したり(テレパシー)、バックアップしておくことはできない。できるのは文字や絵という別の形式に表現して伝達することだけである。だがアニマルガールは、セルリアンに奪われた記憶("輝き")を、セルリアンを殺すことで直接脳内に戻す描写がけものフレンズ3内で複数回あらわれている。そこでは、明らかに「記憶そのもののやり取り」が行われている。

さらに、記憶はアニマルガールとセルリアンの間で取り合うだけでなく、"星の記憶"としてアニマルガールでもセルリアンでもない場所に保存することもできる。これはジャパリパークから離れた場所で、サンドスターの"蒸発"(前回記事参照)によって記憶が失われた場合も含まれる。これは推定であるが、"星の記憶"は現在までにアニマルガールおよびセルリアンが生み出したすべての情報を記録しているのではないだろうか。

ただし、(これは推定であるが)記憶を「コピー」することはできない。もし記憶をコピー可能ならば、セルリアンがアニマルガールから"輝き"を奪った際にアニマルガールの記憶がなくなることはないだろう。同様に、アニマルガールの記憶を直接ほかのアニマルガールに伝えるテレパシーが可能となるはずであるが、そのような描写は一切ない。

情報を伝達可能なのにコピーが不可能というのは一見奇妙に思える。我々が普段扱う電子情報や文字情報は、無限に完全な形でコピー可能だからである。写経をしたからといって元の経典が消えることはないし、ファイルをコピーした先のファイルが元と若干違うなどということは起きない。しかし、我々のいる現実においてもコピー不可能な情報の例が存在する:

量子状態は完全にコピーできないということが証明されている。アニマルガールの記憶も、何らかの制約が原因でコピー不可能だとしても特に不自然ではない。ただし、これは「アニマルガールの記憶は量子状態で保存されている」ことを即座に示すわけではない。コピー不可能な情報のすべてが量子情報だというわけではないからだ。量子情報はあくまで一例である。

アニマルガールの記憶についてまとめよう。

1. 記憶をそのままの状態で送受信可能である

2. 記憶は消滅したように見えても、"星の記憶"という外部の情報ストレージに保存されている

3. 記憶はおそらく複製不可能な情報である

4. 情報の媒体、記憶方式、"星の記憶"の正体等は不明である

ところで、本記事の表題は「サンドスターは記憶に基づく新しい進化の形を作っている?」であるが、なぜアニマルガールの記憶が進化と関係しているのだろうか?それは、私の以前の記事

にかかわっている。

その記事では、「アニマルガールは何の記憶も持たずに突然生まれてくるにもかかわらず、本来幼少期に育てられる様々な能力を生まれつき持っている」ことを疑問に思っていた。しかし、サンドスターが「記憶に基づく進化システム」を備えているとするならば、これを説明できるのである。どういうことか。

そもそも、人間やほかの動物が持つ能力のうち、一部は生まれつき持っているのに、一部は後天的に獲得されるのだろうか?すべて先天的に持っていれば苦労が無いと思わないだろうか?たとえば、生まれつき言葉が話せたり、数学を理解したりしていれば、学校で延々と授業を受けなくても済む。

これは、まさしく動物の進化の限界を表している。

生物は遺伝情報を後世に伝えることで今まで命をつなぎ、進化してきた。遺伝情報は、DNAとエピジェネティクスを起こす一部の物質によって伝えられる。これは生物が微生物や単純な生物である間はよかったのだが、ここ1億年ほどで状況は大きく変わってしまった。大きな脳を持つ生物、すなわち脊椎動物が陸海空すべての領域において圧倒的な存在感を示すようになったのだ。脊椎動物は、何か特異な進化システムや代謝システムを持っているわけではない。その強みはほとんど「大きな脳による情報処理能力の高さ」のみにある。

神経細胞自体は、非常に原始的な動物であるクラゲにまでその起源をさかのぼることができ、昆虫などの節足動物、貝やタコなどの軟体動物、ウニなどの棘皮動物に至るまで神経を持たない分類群というものはほとんどない。ただし脊椎動物の出現まで、神経というのはあくまで「情報を伝達する装置」であり、情報処理というのは副次的な効果に過ぎなかった。

しかし情報処理専門の巨大で、外傷に弱くてしかもものすごくエネルギーを消費する器官が登場したことによってその意義は情報処理と記憶に大きく傾くようになった。そして情報処理能力の向上が、イコール進化とも言えるほどの脳のすさまじい進化が始まった。事実、脊椎動物は後世に登場する動物ほど脳容量が大きい傾向にある。それまでの「環境に適応した体のつくりを持つ動物が生き残る」という状況から、「賢い動物ほど生き残る」にゲームが全く変わってしまったのだ。

その最新のトレンドとして、現在地球上を埋め尽くし環境に大きな影響を及ぼすようになった「ヒト」という動物がいる。

一方で、ヒトが進化し文明を築いていくにつれて、既存の遺伝方式の欠陥が目立ってきた。すなわち「後天的に獲得した情報を直接伝える方法が無い」ということである。我々は両親が学んできたこと、経験してきたこと、感じたこと、その一切を受け継ぐことができない。なぜならそれはDNAやエピジェネティクスの範囲の外の情報だからである。

ではDNAにそういった情報をふくませればいいじゃないか、とそう思われるかもしれない。事実、「言語を理解する構造」など一部の能力は先天的に獲得されるし、「集合的無意識」と呼ばれる人類共通の記憶のようなものは遺伝的に組み込まれたニューロンの接続情報であるとも言われている。

だが、もっと手っ取り早い方法が生まれたらどうなるだろうか?個体が経験した記憶をすべて外部で記録し、新しい個体が生まれたらそれをフィードバックする。そうすれば、新しい個体はそれまでの記憶をもとにした能力(言語や論理、メンタライゼーション等)をすべて備えた状態で生まれてくることができ、進化は圧倒的に速くなる。

それを実現する物質こそがサンドスターであり、そこから生まれる個体がアニマルガールなのではないか。

ただし、アニマルガールの新しい個体は、それまでの全アニマルガールの記憶を持っているわけではない。おそらく記憶の複製不可能性が関係していると思われる。なので、何らかの方法で処理されてから新しい個体に情報が受け継がれている。その処理の内容などは気になるところであるが、今のところヒントはない。

結論としては、アニマルガールはサンドスターを用いた記憶の直接やり取りができるので、それをもとに情報だけを進化させており、それが先天的な能力の高さにつながっているかもしれない、ということである。

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