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人知れず世間の片隅で時流に抗いつつ片意地を張ってひっそりと生きる冴えない初老の孤立しが…

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人知れず世間の片隅で時流に抗いつつ片意地を張ってひっそりと生きる冴えない初老の孤立しがちな乱読者。心理臨床界隈の住人。ほとんどはただの独り言ですが、どこかで耳を傾けてくれる人がいれば、そこに思いがけない意味が宿るのかもしれません。私自身も思いがけない場所にたどり着けたら。

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    自分が読んだ本についての、感想、コメント、連想を、気ままに書いています。

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#600:鶴見俊輔著『ひとが生まれる 五人の日本人の肖像』

 鶴見俊輔著『ひとが生まれる 五人の日本人の肖像』(ちくま文庫, 1994年)を読んだ。筑摩書房より、1972年に「ちくま少年図書館19」として刊行された本を文庫化したものとのこと。元は”少年向け”のシリーズの一冊として刊行された本ということになるが、いかにも著者の本らしく硬派な内容である。本書を読んだ当時の“少年たち”は、本書をどう受け止めたのだろうか。  本書は、著者が選んだ五人の生き様を著者独自の観点から描いたもの。取り上げられているのは、中浜万次郎(1827-189

    • #599:下村敦史著『闇に香る嘘』

       下村敦史著『闇に香る嘘』(講談社文庫, 2016年)を読んだ。講談社から2014年に刊行された本を文庫化したもので、文庫化にあたって加筆・修正が行われているとのことである。第60回江戸川乱歩賞受賞作だそうで、本作はデビュー作ということになる。  各種の受賞作品をフォローする習慣がないので、著者のことも本作のことも知らなかったのだが、少し前に読んだアンソロジーで、受賞後第一作にあたるという短編作品「死は朝、羽ばたく」を読んで、初めて著者の名前が目に留まった。  巻末の参考

      • #598:椎名誠著『活字の海に寝ころんで』

         椎名誠著『活字の海に寝ころんで』(岩波新書, 2003年)を読んだ。岩波書店のPR誌である「図書」の1998年6月号から2003年7月号にかけて掲載されたものをまとめたものとのこと。  本書に収められているエッセイは、食をめぐるものが中心を占めている。好奇心旺盛に世界各地(の辺境地)に出かけていく著者の体験と、それに関連する本の読書体験から、著者独自の連想と考察が繰り広げられるのが、いつものことだが、なんとも楽しい。  本書のはじめに置かれた<辺境の食卓>シリーズは、私

        • #597:アントニイ・バークリー著『レイトン・コートの謎』

           アントニイ・バークリー著『レイトン・コートの謎』(創元推理文庫, 2023年)を読んだ。原書刊行は1925年で、原題はThe Layton Courte Mystery。国書刊行会から2002年に刊行された本を文庫化したものとのこと。  私がこれまで読んできた著者の作品は、10代の頃に、『毒入りチョコレート事件』『試行錯誤』(いずれも創元推理文庫)とフランシス・アイルズ名義の『殺意』(確か角川文庫で)を、その後、『第二の銃声』(国書刊行会)、『ジャンピング・ジェニィ』(創

        #600:鶴見俊輔著『ひとが生まれる 五人の日本人の肖像』

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          #596:吉田秀和著『世界の指揮者』

           吉田秀和著『世界の指揮者』(新潮文庫, 1982年)を読んだ。1973年にラジオ技術社から刊行された本を文庫化したものとのこと。現在はちくま文庫から吉田秀和コレクションの一冊として刊行されている。「あとがき」によれば、「ステレオ芸術」誌に寄稿した原稿を中心にまとめたものとのこと。巻末には壱岐邦雄氏の作成になる、本書で取り上げられている指揮者の1982年現在のディスコグラフィが当時のレコード番号とともに76ページにわたって収録されており、歴史的な資料としても貴重である。また、

          #596:吉田秀和著『世界の指揮者』

          #595:鮎川哲也編『シグナルは消えた トラベルミステリー①』

           鮎川哲也編『シグナルは消えた トラベルミステリー①』(徳間文庫, 1983年)を読んだ。巻末に注として、「 小社刊トクマノベルズから徳間文庫に収録するにあたって、新しく編集しなおしました。それにしたがって、作品の並び方も変えました。」との説明書きがある。  それ以上の記述がなく、詳細を知りたかったのでネットで調べてみたところ、どうやら1976〜1978年にかけて(?)『鉄道推理ベスト集成』として全4巻(?)で刊行されたものが元になっているようだ。ただ、文庫版の方は全6巻の

          #595:鮎川哲也編『シグナルは消えた トラベルミステリー①』

          #594:河合隼雄著『対話で探る「新しい科学」』

           河合隼雄著『対話で探る新しい科学』(講談社+α文庫, 2001年)を読んだ。本書は、1994年に三田出版会から刊行された『河合隼雄対談集 科学の新しい方法論を探る』を改題し、再編集して文庫化したものとのことである。文庫化にあたり、元の本では対談が行われた順になっていた配列が、新たに並び替えられているようだ。  上に書いたように、本書は対談集であり、順に、清水博、伊谷純一郎、鶴見和子、日高敏隆、猪瀬博、丸山圭三郎、村上陽一郎の各氏と著者との対談が収録されている。対談の時期は

          #594:河合隼雄著『対話で探る「新しい科学」』

          #593:山本周五郎著『寝ぼけ署長』

           山本周五郎著『寝ぼけ署長』(新潮文庫, 1981年)を読んだ。新潮社より1970年に刊行された本を文庫化したものとのこと。中島河太郎氏による解説によれば、本作は元々は1946年から10回にわたって覆面作家による作品として雑誌に連載されたものとのこと。となると、書籍の形にまとめられたのは、それからずいぶん時間が経ってからということになる。  私はこれまで著者の作品を読んだことはなく、人情豊かな時代小説の書き手という程度の認識しか持っていなかった。本作は、著者には珍しい、現代

          #593:山本周五郎著『寝ぼけ署長』

          #592:梅原猛著『人類哲学序説』

           梅原猛著『人類哲学序説』(岩波新書, 2013年)を読んだ。私は著者の本は読んでこなかった。20代の頃に、『隠された十字架』(1972年)を読んだくらいだと思う(もしかしたらその後に『地獄の思想』(1967年)も読んだかもしれない)。『隠された十字架』は読んで面白く、大胆なことを考える人だなと思ったが、興味深い発想ではあっても空想の域を出ないかな、とも思ったことを記憶している。  「あとがき」によれば、「本書は、2011年の秋、京都造形芸術大学東京芸術学舎において行った秋

          #592:梅原猛著『人類哲学序説』

          #591:アンソニー・ホロヴィッツ著『その裁きは死』

           アンソニー・ホロヴィッツ著『その裁きは死』(創元推理文庫, 2020年)を読んだ。原書が刊行されたのは2018年で、原題はThe Senrence is Death。著者の作品を読むのは、『カササギ殺人事件』『メインテーマは殺人』についで三作品目になる。  本作は、ホーソーンがシリーズ探偵役を務める二作目にあたる。登場人物のキャラクター、謎解きの手がかり、ストーリー展開、エンタメ性、いずれもよく練られて盛り込まれた作品だと思う。前二作に続いて、各種のランキングではトップク

          #591:アンソニー・ホロヴィッツ著『その裁きは死』

          #590:宮脇俊三著『時刻表おくのほそ道』

           宮脇俊三著『時刻表おくのほそ道』(文春文庫, 1984年)を読んだ。文藝春秋から1982年に刊行された本を文庫化したものとのこと。「あとがき」によれば、本書には『オール讀物』誌に1981年1月号から16回にわたって連載されたものがまとめられているとのことだ。  本書で著者が訪ね歩いたのは、すべて地方の中小の私鉄路線。本文によれば最初の三菱石炭鉱業大夕張線が1980年10月、最後の岳南鉄道が1981年12月の旅行記ということになるようだ。約40年前。私はと言えば、中学生の頃

          #590:宮脇俊三著『時刻表おくのほそ道』

          #589:モリス・バーマン著『デカルトからベイトソンへ 世界の再魔術化』

           モリス・バーマン著『デカルトからベイトソンへ 世界の再魔術化』(国文社, 1989年)を読んだ。原著が刊行されたのは1981年で、原題はThe Reenchantment of the World。翻訳書ではよく見かけるパターンだが、原題が邦題では副題になっている。本書のことは数年前に、別の出版社(文藝春秋)から再刊されたことを取り上げた新聞の記事で知って、それ以来ずっと気になっていた。今回、図書館から旧刊の方を借り出して(新刊の方は所蔵されていなかったので)ようやく読むこ

          #589:モリス・バーマン著『デカルトからベイトソンへ 世界の再魔術化』

          #588:北上次郎・日下三蔵・杉江松恋編『日本ハードボイルド全集7 傑作集』

           北上次郎・日下三蔵・杉江松恋編『日本ハードボイルド全集7 傑作集』(創元推理文庫, 2023年)を読んだ。本書は文庫オリジナルのアンソロジーのシリーズの一巻(最終巻にあたる)である。収録されている短編作品は発表年代順に並べられており、1949年の大坪砂男の作品から、1980年の小鷹信光の作品まで、全部で16篇の短編が収められている。  本アンソロジーにおける“ハードボイルド”の定義は、私の感覚よりも広いようだ。最初に収められた大坪氏の「私刑」は、ミステリ作品としては練られ

          #588:北上次郎・日下三蔵・杉江松恋編『日本ハードボイルド全集7 傑作集』

          #587:藤井満著『京都大学ボヘミアン物語』

           藤井満著『京都大学ボヘミアン物語』(あっぷる出版社, 2024年)を読んだ。本書を知ったのは、確か某まとめサイトで紹介記事を見かけて。ちょっとした事情もあって興味を惹かれて読んでみた。  本書は、大学入学後にちょっと(?)変わった学内のサークルに入った著者が、そのサークルとの関わりを中心とした学生生活を、郷愁と悔恨と自負とともに振り返る青春記である。プロローグの冒頭すぐに<注>があり、<この文章は(かなりの部分は)フィクションです。実在の人物や団体等とは(それほど)関係あ

          #587:藤井満著『京都大学ボヘミアン物語』

          #586:青崎有吾著『体育館の殺人』

           青崎有吾著『体育館の殺人』(創元推理文庫, 2015年)を読んだ。本書は2012年に東京創元社から刊行された本の文庫化とのことで、本作は第22回鮎川哲也賞の受賞作とのことである。本書カバーおよび扉の作品紹介には「大幅改稿」との文言があるが、辻真先氏による解説ではそのことには特に触れられてはいない。文庫化にあたって「大幅改稿」がなされたということだろうか?  本作には、The Black Umbrella Mystery という英語での題名がさりげなく併記されている。内容を

          #586:青崎有吾著『体育館の殺人』

          #585:森本哲郎著『「私」のいる文章』

           森本哲郎著『「私」のいる文章』(新潮文庫, 1988年)を読んだ。ダイヤモンド社より1979年に刊行された本を文庫化したものとのこと。中古書店で見かけて購入したもの。  私が著者の名前をはじめに知ったのは、高校の国語(現代文)の教科書で立ったように思う。内容は覚えていないのだが、たしか「自分への旅」というエッセイではなかったか。その後、『ことばへの旅』(角川文庫)なども読んだのではなかった。  本書は、新聞記者としての著者の経験をまとめたもので、「第一部 ぼくの取材ノー

          #585:森本哲郎著『「私」のいる文章』