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2023年ベストアルバム30

30位 CandelaBro『Ahora o Nunca』

 あと1枠迷ってたんですけど、他人の年間ベストを漁っててぶっ刺さったこれにしました。チリ出身バンドによる1stアルバム。

 初期Bombay Bicycle Clubの繊細なアンサンブルにArcade Fireの有機性を足したような熱いインディーロック。これを年ベスに選んでた方がどうやらメタラーみたいで、その方面からの支持を集めるハードさも持ち合わせています。ロック好きならとりあえず聴いとけ。



29位 The Murder Capital『Gigi's Recovery』

 Fontaines D.C. と同じくダブリン出身で彼らとライバル関係にあるバンド。
 フォンテーンズと比べるとより彩度の低い、クラシカルなポストパンクに近い印象。ただ大きく動く曲展開の中でエモーショナルに迫るバンドのパワーには、手に汗を握るほどの緊張感を覚えます。ポストパンクのブルータリティとロックの悦び。こういうワードにピンと来たら是非。


28位 Yves Tumor『Praise a Lord Who Chews but Which Does Not Consume; (Or Simply, Hot Between Worlds)』

「ロックとフロアの実験的融合」
「未知の生命体」
「グロテスクで甘美な世界観」
「暗黒変態グラムロック」

 Twitterで観測した本作への評の一部です。言い得て妙なので筆者が音楽性を説明する余地が無いのですが、一言付け加えるとすれば、驚くほどシンプルな未来のロックの形


27位 Team Me『Return to the Riverside』

 祝祭、夢、自然、情熱。リスナーがTeam Meに求める幸福を詰め込んだような、瑞々しい讃歌が並んだ一枚。
 装飾が削がれたことで、過去作よりもフォーキーでオーガニックな響きに。温かに心の琴線を触れる、シンプルなフォームのTeam Meによる傑作。


26位 bed『Archives:May 27th, 2023』

 スタジオ音源は未だシングルのみ。東京を拠点にライブパフォーマンスでのみ名をあげている謎多き4人組、bedによるライブ盤。
 レイヴカルチャー、ダンスミュージックの影響を感じさせつつ、震えるほど熱いロックのタフネス。
 そんな熱狂の中、寸分の隙も見せない演奏のタイトさに何よりビビりました。単純な反復にバンドの凄さが詰まっているというか。ライブだけでシーンに爪痕を残しているのも納得。


25位 Disprited Spirits『The Redshift Blues』

 タイトルとジャケットが格好良すぎて、その時点で優勝してしまっているポルトガルのマスロック。
 ポストロックにフュージョン、ときに真っ向からジャズ。縦横無尽に展開を広げつつもテクスチャーはクリーンで聴きやすいので、身構えずともジャケットのイメージ通りの宇宙ロックを体感できます。



24位 ミツメ『ドライブ』

 Twitterやってると増えがちな"名前しか知らないバンド"だったのですが、仙台でのGEZANとの対バンで初めてミツメを体験し、それが衝撃的なライブだったので年ベスにも入れねばと感じた所存です。

 音色や配置への尋常ではないこだわり。それぞれが独自に刻んでいるようで、心地良い一点で交わるリズム。ファンキーでドリーミーで、日常と夢との境目が曖昧になるうた。もっと早く出会いたかったバンドです。


23位 Black Country, New Road『Live at Bush Hall』

 BC,NRによる全曲新曲ライブアルバム

 好みからすると少々プログレッシブすぎて、実はこれまで熱中することのなかったバンドだったのですが、このアルバムでいよいよ夢中になりました。

 生演奏のドライブ感。ヘッドフォンから伝わる会場の空気。生命力に溢れたバロックロックのアンサンブル。展開が多少複雑でも、毎秒高揚させてくれるなら無問題だと分からせられました。次来日してくれたら絶対観に行きます。


22位 Promiseland『Sad But Happy』

 ジュリアン・カサブランカス曰く「アナーキーなプリンス」。確かに声が似てます。あとはそもそもメロディの概念が希薄な歌唱スタイルやコンポーズにもプリンスの強い影響が。

 音楽性についてもプリンス由来のR&B×ロックを礎にしつつ、現代的なエレクトロニカやブラックロックといったジャンルの、テクスチャーであったり反復の要素であったりをしなやかに統合させています。そこにあのセクシーな囁きが乗っかって良くないわけがない。


21位 Mom『悲しい出来事 -THE OVERKILL- 』

 音の配置を自由自在に操るMom流のハイパーポップ。彼の内面の奥深くから溢れ出る、具体化されない感情・声が詰め込まれた1時間16分のリスニング体験はあまりに濃い。音楽的にもふんだんにギミックを盛り込む人ですし、長尺なのもあって、いちリスナーとしてはまだまだ咀嚼する余地があるなと。
 もっと後にこの記事を作っていたら、もう少し上に置いてたと思います。


20位 Daughter『Stereo Mind Game』

 7年ぶり、待ちに待ったDaughterの新譜は相変わらず儚くて美しい。しかし過去作にあったホワイトノイズが醸す闇は鳴りを顰め、「最も楽観的なDaughter」という評も巷で見かけました。代わりに増したのは低音、リズムの迫力、バンドの芯が剥き出しになったアンサンブル。ただこれらが彼らの音楽が元来持つ神々しさを更に引き出しているように思います。

 あとプラネタリウムでこのアルバムを全編流すイベントが東京であったみたいなんですが、すげー行きたかったです。絶対最高ですよね。


19位 ひとひら『つくる』

 今年DTMを始めた筆者としては「これ先に作りたかったなー」と強く思います。それぐらい好き&妬ましい。

 アルペジオを重ねた美しいギターワーク。その合間を縫うように儚く紡がれる歌。聴く者の感情を自在に動かす多彩なリズムとシューゲイズの轟音。このアルバムのせいでバンド引退を考えた人が多いみたいなんですけど、それも納得の完成度。


18位 Maneskin『RUSH!』

 英語詞の割合が増えた一方でイタリア語の独特のリズム感は薄れてて、その方が個人的には好みでした。あとはビートが重たくダンサブルになったのも嬉しい。世界進出の一発目ということで漂白された結果、筆者の好みに近づいてきてくれました。

 それで12月の来日公演を観に行ったんですけど、特にダミアーノとイーサンのステージングが本当にかっこよくて。こういう煌びやかなアイコンがいるおかげで日本のJKが海外のロックを追っかける時代が再来したわけですから、ロックファンからすれば救世主のような存在です。


17位 Homecomings『New Neighbors』

 スピッツやTeenage Fanclubの系譜に連なるギターロック。そうしたバンドのルーツに回帰しながらポップパンクリバイバルとの呼応やダンスミュージックからの影響も感じさせる、懐かしくも現在進行形のHomecomings。
 色々書きましたけど、相変わらずとても美しくて優しいロックです。最高にポップな歌い口でオルタナを楽しませる稀有なバンド。


16位 スピッツ『ひみつスタジオ』

 特段目新しいことをやったとかではなく、変わらず変態で瑞々しいスピッツ。ただ『美しい鰭』のスマッシュヒットからも分かりますけど今のスピッツ調子良いですよ

 マサムネの筆のノリを感じさせる美メロ『ときめき part1』『手鞠』。スピッツが生み出す唯一無二のドライブ感を味わえる『跳べ』『未来未来』。愛すべき佳作揃いで、前作より筆者は評価したいです。

 あとはミスチルにもセールス面でもう一花咲かせてほしいなというおせっかい心が芽生えました。


15位 Whyyes『Pochemuda』

 リバーブの深いアルペジオとボーカルが主体となった、比較的ライトなシューゲイザー。夢見心地なリスニング体験を運ぶ音色、メロディ、淡々としたリズム。全てが性癖に刺さった予期せぬ愛聴盤。
 例えるなら「初期きのこ帝国やSPOOL等の国産女性ボーカルシューゲイザーとSlowdiveの合いの子」と言ったところ。聴きたくなってきたでしょ。


14位 羊文学『12 hugs(like butterflies)』

 かれこれ5年以上追ってますが、羊文学への信頼は揺らぎません。遊び心を忘れず、アンサンブルの芯は揺らがず、塩塚モエカのメロディセンスは枯れることを知らず。

 今作も大きなタイアップがありながらオルタナ性を両立する姿勢は相変わらずで、前者は言わずもがな『more than words』でのヒット。後者ではソニックユース的なギターサウンドがクールな『Addiction』や、シューゲイズの抑揚だけで感情を揺さぶるUSインディーのような展開の『つづく』を推したいです。


13位 Lil Yachty『Let's Start Here』

 「ラッパーがPink Floyd作ってるぞ」という声を耳にし、興味本位で聴いてみたら衝撃。Hip-Hopの枠を飛び越えた現代的でドラッギーなサウンドスケープ。とはいえHip-Hop的なエレメントは各所に散りばめられており、これをきっかけにケンドリックやトライブなどへの門を開きました。筆者にとってのHip-Hop第一号。


12位 ASIAN KUNG-FU GENERATION『サーフ ブンガク カマクラ(完全版)』

 2023年のアジカンが鳴らす等身大のパワーポップ。まず新曲が良いです。3連符の上で伸びやかにノスタルジーを歌った『和田塚ワンダーズ』がフェイバリットなのですが、『石上ヒルズ』『日坂ダウンヒル』などの新曲もあのラフで飾らないサフブンの匂いが漂っていて、その時点で再録企画としては大成功だと思います。

 あとは少し旧版にあった若さ、荒さが足りてないかなと音源の時点で考えてたんですけど、ライブで最高にドライブしてたので評価上がりました。アジカンのライブは昔も今も最高。最高。


11位 Model/Actriz『Dogsbody』

 無骨で性急で暗〜くて重たい、超かっこいいインダストリアル・ロック。ロンドンのポストパンクとの呼応もあるでしょうけど、やっぱりUSならではのNIN的な乾いた質感があって、最近あんまり感じることのなかった種の快感を与えてくれます。

 歌詞の意味は全然理解してないんですけどどうやら挑発的な内容らしく、そこもかっこいい。こんな音楽性ならそりゃ詞も尖ってなきゃですわな。


10位 BUCK-TICK『異空』

 昨年末にBUCK-TICKと出会い、初期の代表曲と『No. 0』(2019)から聴き始めてキャリアを通しての彼らの変貌ぶりに驚愕しつつ過去作を聴き進めていました。

 今作『異空』も"最新が最高"を更新する内容です。2023年の最先端を行く音像でありながら、40年近く貪欲に進化を積み上げなければ辿り着けないBUCK-TICKの洗練の境地。そして何よりも櫻井敦司の圧倒的な美しい声と言葉。

 一度は櫻井敦司の歌を生で浴びたかった。もし彼らが4人で、近くの会場でライブすることがあれば、そのときは是非とも参加したいです。


9位 sublunacy『Don't Cut The Photo In Halves』

 一言で言うなら、空間系のギターが乗っかったエレクトロニカ。ドリーミーでサイバーパンクで真夜中めいた音世界を27分間で駆け抜けるスピード感。曲の中でコード感の変化はなく、リズムの変化やフェードインのようなギミックで展開を広げています。

 兎にも角にも気持ちいい。ぶっ飛びます。もっと聴かれるべきアルバム。


8位 GEZAN & Million Wish Collective『あのち』

 前作『狂』(2020)は時代を代表する傑作でしたが、その『狂』で重要な要素だった肉声サンプルの重なりが、今作では数十人の声の壁となって聴く者を圧倒します。特に先行配信曲だった『萃点』。圧倒的に美しいハーモニーもそうなんですが、空間を埋め尽くす声たちの、あの得体の知れない力強さは是非とも実際に聴いて感じてほしいところ。

 あとは冒頭から聴こえる「プォ〜」と甲高い謎の楽器。ライブで実物を見ても何か分かりませんでしたが、ああいう民族的なエグ味が今作の唯一性を担う大きな要素ですね。人を選ぶ作品だとは思いますが、こういう唯一無二のオルタナティブな音楽が日本から生まれていることが誇らしいなと素直に思います。


7位 カネコアヤノ『タオルケットは穏やかな』

 今年の1月から春にかけてはこのアルバムがBGMでした。既に思い出深いアルバムです。

 以前までカネコアヤノに対しては、個人的な好みからすると「もう少しシリアスさが欲しいな」と感じていました。その要望を満たしたのが今作だったわけです。参照元がシューゲイザーであったり、後期Fishmansであったり、90sの暗めのオルタナティブロックの影響を色濃く感じさせられて、ようやく恋に落ちました。

 鬼気迫るライブパフォーマンスや、年を経るごとに野太くなってきた歌声も刺さりましたね。どんどん筆者好みのフォームへと変化していってるので今後が見逃せません。


6位 betcover!!『画鋲』

 名盤『卵』(2022)に伴う一連のライブ活動が集約された一枚。岩方禄郎を要した旧5人体制の生演奏が結実した本作は、betcover!!が世界一のライブバンドであることを示す傑作であり、RYMでも大変に評価されています。

 過去曲がアレンジされまくっているので、原曲とは完全に別物と考えた方がいいです。そしてそのどれもが秀逸。betcover!!にとってはライブですら創作の一環という。同じ時代にいられるだけで幸せ。


5位 yeule『softscars』

 国外で1番聴いたアルバムです。恥ずかしながら今年知ったアーティストなんですが、ドストライクでした。曲もそうですが、パフォーマンスやビジュアルも最高。過去作も聴いたんですけど、今作が1番フィジカルなバンド感があって好きでした。

 フロア由来の重心の低いビートがクールで、それでいてロックの身体的なダイナミズムが胸を震わす、ドリームポップ。良くないわけがない。あとアニメ声も刺さる人多いんじゃないでしょうか。

 過去に来日公演もあったようですが、是非とも今作を引っ提げてまた来日してほしいです。


4位 THE NOVEMBERS『The Novembers』

 16年ぶり二度目のセルフタイトル。前人未到の領域に達したTHE NOVEMBERSが、その経験をもって原点に回帰したことで、先鋭性と人懐っこさがこれまでにないほど両立されています。

 ここ10年間のノベンバによるニューウェーブ、インダストリアル志向の進化は、もはや世界の誰も追いつけないほど圧倒的に唯一無二なものでした。そこからのロックへの回帰。今作はこれまでの進化の道筋を確かに感じさせると共に、純粋に音楽を楽しむ彼らの余裕が垣間見える、まさに2023年のTHE NOVEMBERSにしか生み出せない傑作だと言えます


3位 betcover!!『馬』

 発表からリリースまで4時間、ツアー開始まで1ヶ月に満たないスピードで世に放たれた、傑作『卵』(2022)の前日譚。『卵』を踏襲した"和エロ"の空気感が本作を包み込みつつも、迫力を増しています。その大きな要因のひとつがドラマーの交代。

 妖艶にスイングするシャッフルビートをもってbetcover!!のアンサンブルにアダルティーな深遠さを与えた岩方禄郎に対して、高砂裕大の四角く、力強いドラムはbetcover!!に新たな推進力をもたらしています
 ライブではよりその推進力を生々しく体感できました。特に、吉田隼人(Ba. )との連携が生み出すシナジー。これが凄まじかった。吉田のベースも『七人』ではよりぶっとく進化してましたから、高砂のドラムの音圧と相まって押し潰されそうになるほどの迫力でした。新体制betcover!!、ヤバイです。

2位 GRAPEVINE『Almost there』

 大傑作『新しい果実』(2021)の先。ここ数年を通して黒く洗練してきた彼らは前作での覚醒は継続しつつも、より衝動的なカオス、DTM的なサイケデリアを今作では見せてきました。その意味では先行配信曲『雀の子』が最も尖っていながら最も今作を象徴する曲だと思います。分厚く、煌びやかで、荒い。

 一方で『それは永遠』のような美しいバラードでは、相変わらず亀井亨(Dr.)のメロディセンスが光ります。そうした曲でも西川弘剛(Gt.)による異形のギターアレンジが一気に曲をGRAPEVINEのモノにしてしまうからアニキってやっぱり唯一無二のギタリストなんだなと。

 何より田中和将(Vo. Gt.)のコンポーザーとしての進化が目覚ましい。『アマテラス』はメロディも斜め上方向に凝ってますが、これまでに無かったHip-Hop的な歌唱が組み込まれていながら初見のリスナーに訴求するほどキャッチーですし、一方で『SEX』といううっとりするような美メロの名曲も生み出してしまっています。もう彼は自由自在に曲を作れる域に入りましたね。


1位 Mr.Children『miss you』

 詳しいレビューはこちらで行ってますので是非。

 当初はGRAPEVINEを1位にするつもりだったのですが、このアルバムのツアーに参加して思い直しました。というのも打ち込みの部分が生演奏に変わることでびっくりするほど化けまして
 元々ライブを一切想定せずに制作に取り組んでいたみたいなので、ツアーの構成を練るうちにあの完成度になったんですかね。となればライブパフォーマンスの面においてもキャリアハイですよ。嬉しさに顔が歪みます。

 結果として『miss you』は"ライブで完成するアルバム"になったわけですが、32年目にしてその広がり続ける表現の幅や尽きない創作意欲、気概に感銘を受けてしまって、これはもう1位にするしかないだろうと思った次第です。これを読んでくださっている方は絶対にミスチルの次のツアーに申し込んでください。当たるかは知りません。








 以上年間ベストアルバムでした。

 ミスチル、バイン、アジカン、ノベンバ、スピッツ、betcover!!、GEZAN、羊文学…。好きなミュージシャン達がこぞって新譜を発表してくれた幸せな1年でした。

 サムネには本当は入れたかったアルバムもちょっとぶっ込んでるのでもう一度見てみてください。



 それでは。

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