【自己紹介】私を構成する9枚
どうも、最近noteに投稿を始めた中々のパブリチェンコです。
年明けということで、ここで自分の音楽嗜好でも紹介しようかなと。
そこで私を構成する9枚です。
はい、定番のフォーマットですね。
この「私を構成する9枚」、個人の音楽遍歴を語るものとして頻繁に用いられます。要はこれまでの音楽体験におけるターニングポイントとなった作品を挙げるというもの。
で、今回挙げる9枚は少し性質が違っていて、単純に今いちばん好きなアルバムTOP9です。つまり、ここからいくらでも変わりえます。悪しからず。
とはいえ必然的に、これまでどういう経緯を辿って現在の趣味が形作られたかを説明する内容にもなっております。そこらへんもお伝えできれば嬉しいです。
では早速お披露目といきましょう。
はい、どうでしょう。素直に9枚選びました。
順番は年代順になっていますが、僕の核となるアルバムとして真ん中だけは例外としています。
『Rubber Soul』以外2000年以降の作品になってしまいました。「年代偏りすぎたな〜」と思って、
Television/Marquee Moon(1977)
佐野元春/visitors(1984)
The Stone Roses/The Stone Roses(1989)
等のアルバムも当初候補に入れていましたが、いや素直になろうと、作為を込めないようにしようと思い立ち、現在のラインナップになりました。
誤解を招くようですが上記の3枚も大好きです。
では一枚一枚みていきましょう
The Beatles/Rubber Soul(1965)
9枚の中でダントツに古い一枚です。最高。
ビートルズとの出会いは高校2年生のときでした。結構遅めですよね。
当時はAppleMusicのサブスクリプションを利用し始めて、一から洋楽を聴き進めていました。最初にぶつかったのがもちろんビートルズです。
古い洋楽の名盤たちとのファーストインプレッションは大体「音が古いなぁ」で、ビートルズも例外ではなかったのですが、他の60年代のロックと比べて明らかに音がハイファイなことはすぐに分かりましたね。なので比較的すんなり入れました。
初めて本作に触れたときは1曲目『Drive My Car』のあの奇怪な拍をとるイントロに得体の知れない快感を覚えました。
『ノルウェーの森』や『Michelle』みたいな曲が本作のアコースティックな質感を象徴してますが、僕はむしろ『You Won't See Me』や『Run for Your Life』などの、エレキギターで刻む小気味よいロックンロールが好みで。
とくに好みなのはジョージの2曲『Think for Yourself』と『If I Needed Someone』。
前者はポールのファズを効かせた太すぎるベースが前面に出た、攻撃的な配置の佳作。
後者はメロディアスなギターとベースとの絡みが浮遊感を演出する中毒性のある中期ビートルズらしいリフ主体の楽曲。
どちらの楽曲も後のジョージの大爆発を予見させる素晴らしい内容です。
忘れてはいけないのが『In My Life』。説明不要の大名曲です。ポップミュージック史における、グッドメロディの到達点のひとつだと思います。ソロも合わせて、ジョンの作った曲で1番好き。
と、ここまで褒めちぎってきましたが、正直ビートルズ内の1位は『Revolver』といくらでも入れ替わります。中期ビートルズ好きですね。よく言われることですが、アイドル・ビートルズの親しみやすさとアーティスト・ビートルズの作家性を併せ持っているという意味で好みなのかもしれません。ここから徐々に分裂していく4人の真の意味で合作、その到達点というところも重要な点です。
ということで、みんな大好きビートルズからは『Rubber Soul』でした。
Radiohead/Kid A(2000)
レディヘ、海外アーティストで1番好きです。
ビートルズと同じく洋楽聴き始めの時期に『OK Computer』を聴いて、すぐにドハマリしましたね。最初はギターロック期の彼らが大好きで、先述のオケコンや『The Bends』を鬼リピしてました。なので、『Kid A』以降の彼らの良さは後になって徐々に実感するようになってきました。
そういう意味で、愛着という意味では長く好んで聴いてきたベンズ、オケコンなんですよね。好きな曲もそっちに多いし。なんですけど、アルバムの完成度としては『Kid A』に軍配が上がると認めざるを得ないです。
ベンズとかオケコンって、"完全無欠の名盤"みたいなアルバムではなくないですか?いや、質が低いという話ではもちろんなくて。前者だと、『Killer Cars』が収録された国内版の方が好きな人とか多分いるじゃないですか。後者に関しても、『Lift』が入ってたらどうなってたんだろう、とか考えちゃいません?『Climbing up the Walls』の代わり(すいません正直弱い曲だと思う)に、とか。
その点『Kid A』って"完全無欠"だと思います。このアルバムにリスナーが足し引きを議論する余地なんて有り得ないじゃないですか。その性質ゆえに、1パツで「最高!」ってなるような作品ではないですけど、時間をかけてようやく自分の中で消化できてきて、今回選ばせてもらいました。
強いて一曲お気に入りを挙げるとしたら『Morning Bell』ですかね。リズムセクションがかなり独特で、各パートの音を追っていくだけでも楽しい。重なりそうで、重ならない。緻密に構築されたカオスを冷たい密室の中で悶々と味合う、そんな楽曲。
syrup16g/HELL-SEE(2003)
3つ目に紹介するのは出会ってからまだ1年も経っていないアルバムです。なんですが、おそらく僕が死ぬまで、ずっと大事な大事な作品であり続けるのだろうと確信しています。
なんでしょうこのアルバム、一言で言うと僕のストライクゾーンのど真ん中のど真ん中です。
歌メロ、声質、ギターリフのセンス、80sUKロックの美麗な質感とグランジの荒々しさの同居、冷めた視点の鬱な歌詞…
どこを取ってもキモチイイツボを深くブッ刺してきます。15曲1時間6分というボリュームを全く感じません。頭からケツまで、一瞬で過ぎていきます。では内容をかいつまんで見ていきます。
1曲目はアップテンポのグランジナンバー、『イエロウ』。僕本来グランジはそこまで好きなジャンルではないんですが、なぜだかここでもう一気に惹き込まれてしまったんですね。ディストピア的な音世界のせいか、間奏のギターフレーズにもカタルシスを覚えるんですが、理屈で語れない、本能がこういう音楽を求めている感覚を覚えます。
続く2曲目『不眠症』。本作の空気感を象徴するような曲です。最初の歌のフレーズの終わりと同時に一気に歪むギター、カッコ良すぎる…。
なんだかうまく言語化できませんが、とにかく好みなんですよね。もしこの曲が女の子だったら一目惚れしてます。
8曲目『月になって』。アレンジをJ-POP風にしたら(絶対やめてほしいけど)結構売れるんじゃないですかね。それくらい請求力のある美メロです。作曲家としての五十嵐隆の才能を思い知らされます。
続くのは今のところ本作1番のお気に入り『ex.人間』。単純なリフなのになぜこうまで惹かれてしまうのでしょう。抽象的で危うい、狂ってしまった人間の思考を縫っていくような詞世界。そこに突然訪れる『おいしいお蕎麦屋さん』というワード。日常への急激な接近はリスナーを安心させようとしているのか、それとも突き放そうとしているのか。間違いないのは、曲が終わってから眉間に皺を寄せ歌詞の意味を考えてしまうこと。好き。
長くなってしまうのであと1曲ぐらい触れると、なあなあで終わったメンヘラ女との恋愛を描く「吐く血」。最後に主人公もメンヘラだと判明する歌詞の妙にもゾッとしますが、特筆したいのは間奏について。曲調的には割と能天気な感じで進むのですが、ここで正統派にカッコいいガチギターソロが炸裂します。抑圧されてきた主人公の感情が爆発する様を表しているようで鳥肌が立つほどの感動を覚えます。
やっぱりもう1曲。最後に「パレード」があたたかく閉めることで救いを与えるような構図になっている点も素晴らしい。
あと、僕は音楽体験と私生活を結びつけることはあんまり無いんですが、このアルバムと出会ったのがかなり精神的にしんどい時期で…。そういうこともあって本作への愛着がより深くなってしまいました。当時は本当に病的なほど繰り返し聴いてましたね。2022年、1番聴いたアルバムです。
ASIAN KUNG-FU GENERATION/ファンクラブ(2006)
ここまで読んでくださった方はお気づきかもしれませんが僕、暗い音楽が好きです。
ということでアジカンからはディスコグラフィーで最も暗く、美しいアルバムである3枚目を選びました。
アジカンとの出会いは中学2年生のとき。兄の影響で聴き始めました。兄が7個上ということもあり、一世代上の音楽に触れることが多かった僕に最も刺さったのがアジカンでした。
そこからずっと、ミスチルに次いで自分にとって大事なアーティストであり続けたアジカンなので、どのアルバムにも愛着が詰まってますがどれか一枚を選ぶとしたら迷わずこれです。
このアルバムは過小評価されている。
声を大にして言いたいです。アジカンの名盤としていつも名前が挙がるのが前作『ソルファ』辛うじて『君繋ファイブエム』の名前を目にするくらいです。
いやいやいやいや、こっちを忘れんなと。もちろんそれらも素晴らしい作品ですがね。名手伊地知潔によるエイトビートに乗った歪んだギターの疾走感も彼らの大きな魅力ですが、それに同居する耽美的なフレージングと音像も同じくらい重要だろ、と。その点見落とされがちだなと思います。なので僕としては、後者の要素が最も色濃い本作をアジカン最高傑作に推します。
そしてそれが最も顕著な一曲が『月光』。イントロから伸びやかな美しいアルペジオが印象的に響きます。静かに始まる間奏から徐々に盛り上がる展開も、ラスサビのカタルシスを増す上で非常に効果的です。
ラストを飾る『タイトロープ』も彼らの耽美的な一面を表す壮麗な一曲。
ただ、疾走感あるアジカンもしっかりパッケージされています。『路地裏のうさぎ』が良い例で、こちらはEm7に帰結していく所謂"切ない曲"のコード進行の曲。速いエイトビートや突き抜けるようなメロディといった、エネルギッシュな要素が情緒を逆説的に増大させる、実にアジカンらしい名曲です。
『ブラックアウト』『ブルートレイン』など、収録されたシングル曲も強力なものばかりで、頭を空っぽにしても楽しめるほどポップスとしての完成度も高いです。
「10年後も誰かの心の中で消えることのない灯火」を目指したと本人が語る本作。発売から17年経った2023年現在、少なくとも僕の心の中では輝き続けています。
Mr.Children/REFLECTION(2015)
僕の核。
内容についてはこちらの記事にて語っていますので是非。
本文では個人的な思い入れについて語っていきます。
ミスチルの音楽は物心ついたときには側にありました。リビングのテレビ、父親の車の中、兄貴の部屋のコンポ…。僕が彼らの音楽を追うようになるのも当然でした。
初めて家の中のCDを探したりして、ミスチルの音楽を掘ろうとしたのは小学5年生のとき。西暦でいうと2013年なので既にあの忌まわしき「[an imitation]blood orange」がリリースされた後ということになります。なので、初めてリアルタイムで体験したミスチルのアルバムが本作なんですね。
で、本作に関する初めての体験がもうひとつあります。それが、コンサート。その人生で初めて体験したコンサートが本作を引っ提げた、『Stadium Tour 2015 未完』の新潟 ビッグスワン公演。
人間、あまりにも大きな感動を覚えた体験の記憶は残らないんだな、とライブが終わって1ヶ月後ぐらいに考えたのを覚えています。
で、そんなアルバムに思い入れが生まれないわけもなく、今日までずっと、1番大切なアルバムでした。そしておそらく、死ぬまでそうあるんだろうと思うし、そうあってほしいと思う。そんな作品。
GRAPEVINE/From a Smalltown(2007)
2022年、syrup16gに続いてもうひとつ、運命的な出会いを果たしました。それがこのGRAPEVINE。
自分的には一生懸命いい音楽を聴こうとしていた2021年でしたが、その年に彼らが出した大傑作アルバム『新しい果実』の存在に気付けずにいました。
ジャケットこそよく目にしていたのですが、他にまだ掘り下げたい音楽が多くてキャッチできず。
しかし去年に入り、「音楽好きがこぞって支持するGRAPEVINEって何者だ…?」とようやく思い、彼らの代表曲『スロウ』『光について』あとベストアルバムをシャッフル再生してたときになぜか気に留まった『棘に毒』などの曲を聴いて、まんまとドハマリしてしまいました。
そこからはスピーディーで、アラバキで彼らを見て「ライブもヤベェ…」と感動したのち、すぐさま7月の仙台ワンマン公演に応募。徐々にオリジナルアルバムを聴き進めていき今に至ります。
Apple Musicの2022年の統計をみると、核なはずのミスチルを抑えてGRAPEVINEが1番聴いたアーティストになってました。聴かなかった時期なかったもんな…。
その中で今のところ1番好きなアルバムがこの『From a Smalltown』。まず一切捨て曲が無い。彼らのディスコグラフィーの中でいうと、アコースティックでドライな、どちらかというとUS的なサウンド。
彼らのキャリアで初めてセッションから生まれた曲であるオープニングナンバー『FLY』が示すように、強力なバンドアンサンブルで聴かせる内容となってます。
とはいえメインコンポーザー亀井亨(Dr.)のメロディセンスは相変わらず炸裂しており、『指先』や先述の『棘に毒』といった曲は彼らがお茶の間では見られない理由をますます分からなくさせます。
というわけで根強いファン人気を誇りつつ、ライト層にリーチできるキャッチーさも兼ね備えた、実に過小評価された名盤を選ばせてもらいました。
『Lifetime』で止まっているそこのANATA、その後二十余年に渡ってとんでもないクオリティの音楽を鳴らし続ける彼らを再認識できなきゃ、ヒジョ〜に勿体無いですよ。
the pillows/トライアル(2012)
こちらもキャリア前半ばかりが注目されがちなロックバンド、the pillowsによる10年代以降随一の名盤。
個人的な彼らとの出会いはアジカンとほぼ同時期、中学2年生の頃。ミスチルがap bank fesにてカバーした『ストレンジカメレオン』のYouTubeに転載されたガビガビの映像を観て、レコメンドにあった原曲をすぐに聴きました。
「なにこのMV…。」
曲に関しては最初からもう大好きでした。「原曲の方が良いなこれ」と。我ながら良い趣味した中2です。が、映像のエグみが強すぎますよねこれ…。
当時サブスクにも登録してない、すぐCDを買えるわけでもないリスニング環境だった僕にとって音楽をディグるフォーマットはYouTubeだったわけです。なのでMVと一緒に曲と出会うことになるのですが、ヤバイMV多すぎでしょ、なにあれ。
『インスタントミュージック』とか最悪(今は大好き)です。当然、夏の日の輪で踊る童貞だった僕にはエグすぎました。
そういう理由でベストアルバム以外には手が出なかったんですね。で、やっとオリジナルアルバムに手を出したのが高校2年生の頃で、色んな洋楽を通過した僕はピロウズをエグみもろとも楽しめる耳を持ったわけですが、その中で最も刺さったのが、やはりキャリアで最も暗い本作でした。
シニカルで厭世的な英語詞が印象的な『Minorty Whisper』なんかに顕著ですが、震災直後の邦楽が醸しがちな暗さを、本作も例に漏れず内包しています。
「直視でき」ないほどの「人の死と太陽」を目にした絶望を歌う『持ち主のないギター』。「燃え尽きるまでもうすぐ」の主人公がついに、矢印を自分に向けて希望を見出す表題曲『トライアル』。
アルバムの鬱屈とした世界に終盤で光が差すこの構図がまず素晴らしいです。さわおからリスナーひとりひとりへの、ひいては日本社会へのメッセージなのか。この2曲の流れだけで白米一杯いただけます。
で歌詞だけではなくて、全体的な音像もそこはかとない憂いを帯びてます。それはソングライティングにしてもそうだし、メジャー主体の明るいコード進行の曲においても籠った歌声やコーラスなどで演出されているんですが、それがまた本作の魅力を高めています。というのも彼らのサウンドって2000年代中盤あたりからやけに軽くなってピロピロし出したんですよ。
歪んだギター2本の絡みでダイナミズムを演出し、ブリットポップの自己流の解釈を日本のオルタナ界に提示した黄金期90年代後半と比べて評価が落ちるのは理解できるんですけど、本作は逆にピロピロと憂いの化学反応が起きてると個人的に感じていて。
生気がなくて淡々とした、誤解を恐れずにいうと起伏の無いサウンドの中だと多分、迫力のあるギターだと胃がもたれちゃうんじゃないかなーと。そういう意味でピロピロが功を奏した、後期ピロウズの結実作という見方が出来ます。
バインのときと似たようなこと言いますけど、90年代を最後にピロウズから離れた方、このアルバムだけでも聴いてみては?
THE 1975/A Brief Inquiry Into Online Relationships(2018)
リアルタイムでTHE 1975の元気な時期を楽しめていることを幸せに思います。そう思わせてくれる彼らの3rdアルバム。
THE 1975、実は最初からピンときていたわけではありませんでした。ロックから出発した僕にとって、現代的なR&Bサウンドに感動できるようになる耳になるのはもう少し先の話で。彼らを知った当時、そっちに接近していった2nd以降は聴かず、1stばかり聴いてたんですね。
が、2021年。何のきっかけかは思い出せませんが、急に『Love It If We Made It』『It's Not Living(If It's Not With You)』そして4thアルバムではありますが『If You're Too Shy(Let Me Know)』の3曲にドハマリしたんですね。それはもう物凄い熱量で、2021年、他をダントツに引き離して再生回数トップ3を独占しました。
で、そこからようやくアルバムの方に手をつけた、という感じです。なので、実際これらの曲によって僕の中の評価がハチャメチャに引き上げられてます。なんですけど、もちろんアルバムとして大好きな作品なので選んでます。
まず、野心を感じる構成が素晴らしいと思います。ネオソウルに傾倒した2ndを通過してモノにした、80sR&Bのポップで明るい雰囲気が全体に通底してるんですけど、インストの曲をブリッジに交えてかなりシームレスでコンセプチュアルな内容になっています。
15曲59分という大ボリュームでそれを成立させようとする点に、普遍的な価値のある作品を生もうとする彼らの気概をヒシヒシと感じます。
リリックが社会的な内容になっている点も彼らの野心を感じるポイントです。『Love It If We Made It』のライブパフォーマンスなんかは、怒りを感じるほどMattyの歌声に力が篭っています。
またまた先にあげた曲ですが『If It's Not Living(If It's Not With You)』。こちらもかなり現代の社会問題に切り込んだ内容になっています。
このタイトル、直訳すると「ソレは死んでいる(君と一緒でないと)」になるんですが、この"君"、ドラッグのことを指すんですね。つまりこれ、ラブソングかと思いきや、重度の薬物中毒者の歌なんですよ。ここらへんはMatty自身の経験も含まれているのでしょうが、超キャッチーかつポップなメロディでこんな内容の歌を歌ってるあたり憎いですね。
こんな感じで、Radioheadとまでは行かなくともセールスと作家性を高いレベルで両立させている点で、現代において非常に稀有な作品だといえます。
というわけで等身大のポップスターでありながら、強い反骨心を見せるロックスターも担う時代の寵児、THE 1975の傑作3rdアルバムでした。
(2023.3.8 追記
Mattyが差別的な内容のポッドキャストに出演して炎上した例の件の後に改めて本文を見返してますが、彼らの社会的なリリック、アティチュードへの評価は崩れてしまいましたね。僕の書いたこのレビューも、今では説得力が失われている。
彼の態度に見え隠れする尊大な自意識、他人への配慮の無さを鑑みると少なくとも「等身大のポップスター」という形容は間違いであったと認めざるを得ません。)
betcover!!/時間(2021)
現代日本最強の音楽家だと僕が勝手に思っている、柳瀬二郎によるソロプロジェクトの大傑作アルバムです。
2021年の邦楽界で最大の衝撃だったのではないでしょうか。僕も当時、RYMでの大躍進を見て聴き始めました。
「え、これ22歳が作ったの!?!?」
このアルバムでbetcover!!に初めて触れた方は全員思ったんじゃないでしょうか。
ここまで1音1音にこだわったバンドサウンドにプログレ、ハードロック、ポストパンク、突如として出てくるハウス、それらに歌謡を織り交ぜてスタイリッシュに聴かせる発想・技術・実力。
間違いなくこれからの日本のオルタナティブ・ミュージックを牽引していく存在だと確信しています。
その思いは去年末の新譜『卵』を聴いてより強まりました。こちらも別記事にて語っておりますので是非。
で、内容についてですがまず1曲目『幽霊』。一発目の出音から歌謡的です。聴いたことのない音なんですがね、何故なんでしょう。歌詞は官能的なことを歌ってるんじゃないかな。とにかく難解です。アルバム通してそれは一貫してます。
あと感じるのは、声の色気がすごいですね。本人は「ピッチが合わない」と苦心しているようですが、生演奏を見てるとそれでも全然、成立しています。その点、SHERBETS、AJICOのフロントマンである浅井健一と共通してますかね。声色は全く違いますが。
2,3曲目も歌謡的なサウンドですが、どこかchillの文化を感じさせるダウナーな印象です。本人が敬愛すると語るFishmansの影響でしょうか。
4曲目『回転・天使』。ピアノを主としたバンド構成によるジャジーで穏やかな曲調なんですが突然エフェクティブなギターソロが。この落差が余計に曲をエモーショナルなものにしています。
さきほど列挙したジャンルのなかで、"ハウス"のところで「ん?」となった方いると思いますが、あるんですよ、この『二限の窓』という曲に。
淡々としたビートで過ぎる日々の気だるさと焦燥を歌った歌ですが、アウトロでいきなりハウスが出てきます。ほんとに一筋縄ではいきません。まさに感情の乱高下。
先ほどの『吐く血』じゃないけど、これも日常との対比としての情動を表しているんじゃないかなーと、勝手に推測してます。
個人的な最大のハイライトは『棘を抜いて歩く』。「溺れるように燃える100円ライター」という詩的なフレーズは美しく、歌い出しでグッと心惹かれます。曲調はこのフレーズ通りの印象で、美しくもどこか漂う脱力感。まさにbetcover!!にしか作れないバラード。この曲でも最後に大きな展開が待っているのですが、この"脱力感"、僕がbetcover!!に惹かれた大きな要因のひとつではないかと思ってるんですよね。
というのも新譜の『卵』、年間ベスト記事でも語っていますが、本作よりも音数が多くて、より複雑で、より分厚くて、言ってしまえば脱力感が生まれる余地が無いんですよね。これ、僕が『時間』ほど夢中になれない原因だと思っています。
相変わらず物凄い才能を感じさせる内容ではありますが、もしこの先、僕の中で『時間』を越えるような作品を産んでくれたとしたら、僕の人生最大の衝撃と感動をもって迎えるでしょう。希望的観測だとは思いません。それを期待してよいアーティストだと確信しています。
というわけでいかがでしたでしょうか。「この人趣味合う!」と思われた方、Twitterで絡んできてくれたりしたら喜びます。
そんなわけで私を構成する9枚を紹介していきました。最初にも言いましたが、これからいくらでも変わるので悪しからず。でも、「REFLECTION」「ファンクラブ」「HELL-SEE」あたりは不動かな〜。なんて、これを覆すような出会いもあるかもしれませんね。これだから音楽を掘るのはやめられない。
それでは読んでくれたみなさま、Happy New Year!!!!!
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